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七節 手も足も出ませんでした

 意識が目覚めると、精神空間に似た場所に寝ていた。


「生きている?」


「大丈夫。まだお前は生きている」


 上半身だけ起き上がった視線の先には光の球体がふわふわ浮かんでいる。


「リベラルなのか?」


「そうだ」


「ここは?」


「私が作り上げた異空間だ」


 俺の質問にリベラルは淡々と答えていく。


「だから普通に会話出来ているのか」


「ああ」


「なあ、黒兜に勝てると思うか?」


「勝算は低いだろうな」


「やっぱりか」


 一瞬しか見なかったものの、黒兜との実力差を薄々感じていた。


「でも、ここで行かなきゃ勇者とは言えないよな」


「そう言うと思ったよ」


「よし、行くぞ!」


 起き上がり、俺は開いた空間に突っ込むように走り出す。




《おい、何でグルス城じゃないんだよ》


 空間から出ると、空が紫色に覆われた場所に立っていた。


【私にもわからない】


 リベラルもさっぱりという感じだ。


「待ちくたびれたぞ」


 地面から開いた空間が開き、黒兜と木の十字架に張りつけにされたキーアが現れた。


「キーア!」


 意識がないらしく、返事はない。


「目的は何だ」


 怒りを抑えるのに必死になりながら問いかける。


「大した事はない。世の理を教えたいだけだ」


「世の理?」


 黒兜の言葉が理解出来ず、訊き返した。


「そうだ。異世界を旅してきてどう思った?」


「お前に関係ないだろ」


「どの世界も争いが絶えなかっただろう?」


 俺の答えを無視して黒兜は話し続ける。


「だから何だっていうんだ?」


「空しくないか?」


「それが何もしない理由にはならないだろう」


「何もしないとは言っていない」


 チ、チ、チ、と、いう感じで黒兜はこちらに指を振る。


「どういうことだ?」


「全ての世界を破壊する」


「何でそんなことを?大体、出来るわけが」


「精霊の力が宿りし鎧の力があれば可能だ」


 黒兜は不敵な笑みを浮かべた。


「俺はそんなことはしない!」


「別にお前にやってもらう必要はない」


「何だと?」


「力だけ寄越せ」


 そう言うと、黒兜は右手をこちらに向けて術を唱え始めた。


《リベラル、どうすればいい》


【ひとまず逃げろ!】


 だが一足遅く、金縛りにあったように体が動かせずにいた。


「今度こそ永遠にお別れだリベラル」


《こいつ何でリベラルのことを知っている?》


 黒兜の手から闇が広がり俺の体を包んでいく。


「神器一体、完全開放!」


 俺は無理やり金縛りを解き、黒兜に襲い掛かった。


「無駄なことを」


 全力で振り下ろした刀は片手で掴まれ、俺は弾き飛ばれた。


「く、くそ」


「草薙の剣か。懐かしいな」


 愛でるように刀を見つめながら黒兜はキーアに近づく。


「何を……」


「ほら、起きろ」


 黒兜は縛っていた縄を斬ってキーアを荒く解放した。


「う、ここは?一郎?」


 ぼやける意識のせいでキーアは状況が理解出来ていない。


「キーア!」


「そこで仲間が逝くところを眺めていろ」


「ぐは!」


 黒兜に踏みつけられ、キーアは血を吐き出す。


「恨むなら弱い勇者を恨め」


「やめろーーーーー」


 俺の制止はあっさりと却下され、静かに刀がキーアの体を貫いた。


「ハハハ。どうした?仲間が死んでしまうぞ」


「くそったれがーーーーー」


 怒りで我を忘れた俺は限界を超えた力を解放する。


「それだ私が欲しい力は!」


「おおおーーーーー」


 俺は今までで一番速く、一番の威力のこもった一撃を繰り出した。


「ご苦労様」


 そんな渾身の一撃もあっさりと受け止められてしまう。


【一郎、逃げるんだ!】


「ふんぐあーーーーー」


 リベラルの必死の呼び掛けは俺の耳には届かず、言葉にならない雄叫びを上げる。


「では、ありがたく力をもらうとしよう」


 黒兜は冷静に鎧の力を吸収していく。


「は、は、はぁ」


 俺は力なく横たえた。


「じゃあな」


 黒兜が俺の背中へ刀を振り下ろす。


「くそ……」

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