五節 天才発明家が味方連れてきました
キーアのシゴキ、ではなく、ありがたい指導が始まって一週間が経っていた。
「せい!せい!せ~や!」
「は!は!はぁー」
「せい!せい!せ~や!」
「は!は!はぁー」
キーアの斬撃が放たれ俺が受ける。
この攻防が延々と繰り返し続く。
たまに反撃しても、すぐさまキーアからの攻撃に戻る。
《誰か助けて~。三十五には勇者はきついです》
「とりゃ~」
「どわぁ!」
俺の無様な声でいつも終了の合図は出される。
キラーんと太陽に照らされ、剣先が目の前で輝く。
《はい。降参です》
俺は白旗を持っていないので、両手をバンザイした。
【本当に情けない】
伝説の鎧こと、リベラルが溜息まじりにつぶやく。
《こんなの呼んだのは誰だよ》
心の中で密かにツッコミを入れる。
【もうちょっとマシなのを呼んだつもりだったが】
「ふぅ~。だが、なかなか様になってきたな」
お付の戦士から受け取った布で汗を拭いながらキーアが話す。
「そうか?」
高校のときまで剣道をやってはいたものの、補欠にもなれない腕前だったので全く自信はない。
「ああ。まだまだ殺気は足りないが」
《そりゃあね。ついこの前まで、平和な日本育ちの一般男性でしたから》
「お~い。族長、出来ましたよ~」
語尾を延ばす口調で誰かがこちらに寄ってくる。
「クリスか。ずいぶん早かったな」
クリスは他の戦士とは違い、身軽な作業着みたいな服装だ。
「この天才を甘くみないでください」
左の二の腕を右手でガシっと掴み、クリスはポーズを決めた。
「こちらが例の勇者様ですね。初めまして。私は技術班のクリスです」
ちょっと呆気に取られていた俺の目の前に、童顔眼鏡女子が顔を寄せている。
「ああ、よろしく」
俺は可愛らしい顔に一歩後ろへ下がった。
「で、例のモノは?」
「バッチリです」
キーアの問いにクリスも真剣な顔つきになる。
「お見せします。よろしかったら勇者様も」
「一郎でいいよ」
俺は勇者様呼ばわりに照れて、丁重にお断りをした。
「わかりました。じゃあ、一郎さんも」
俺は二人について歩き始める。
「これって……」
技術班の作業室にはとんでもないモノが置かれていた。
「どうですか!我が力量により蘇りし白騎士は!」
クリスは目を輝かせて叫んだ。
「白騎士って、これは黒騎士だろ」
色は白いが、目の前にはこの城を襲撃した黒騎士がいた。
「確かに元は黒騎士ですが、生まれ変わったのです」
「生まれ変わったって、どういうこと?」
《全く話についていけません》
俺の頭はショートしそうになっている。
「見てもらった方が早いですね」
クリスがそう言うと、黒騎士ならぬ白騎士の兜を持ち上げた。
「機械?」
支えもなく立っている鎧の中身は機械らしきものが入っていた。
「そうです。我々と違い、グルス帝国は文明が発達していますから」
その答えに当たり前の疑問を口にした。
「大丈夫なのか?」
「ええ。プログラムを書き換えましたので」
自信満々のクリスの眼鏡が輝く。
「クリスはわが国の天才発明家だ」
キーアが説明を入れる。
「機械ってあんな流暢に話せるもんなんだな」
「この前は失礼しました」
俺は、どこからかわからない声が聞こえてキョロキョロした。
「一郎さん、白騎士ですよ」
クリスは笑いながら教えてきた。
「人格があるのか?」
「ええ。帝国は白騎士に破壊衝動をプログラムしていましたが、私は逆に防衛システムを構築したものをプログラムしました」
「私は理由もわからず破壊をしていました。今はクリス様のおかげで自分の存在に誇りを持てています」
白騎士は穏やかな口調で話した。
《この前とは別物、いや別人だな》
「ですので、一郎さんの修行は白騎士が相手をします」
「いやいや、キーアにも勝てていないのに」
俺は無理無理と両手を左右に振る。
「何を言っている。鎧を着たら、私では相手にならん」
キーアはちょっと悔しそうに言った。
「でも、それだったら白騎士もだろ」
「ノン、ノン、ノン」
クリスが余裕の顔で話す。
「動力源であるエナジーストーンを改良しましたから、以前の三倍以上パワーアップしています」
「モノは試しだ。さっそく手合わせしてみろ」
キーアが思いつきの提案をしてきた。
《流れ的にそうなりますよね》
【面白そうだ。やってみろ】
リベラルが意外な発言をしてきた。
《黙っていると思ったら乗り気だな》
【どれだけ成長したか見てやる】
《完全に上から目線だよ》
【何か言ったか?】
《はいはい。やりゃあいいんでしょ》
俺は観念して修行場へ戻った。




