五節 魔法の修行が始まりました
「では、服を脱いでください」
「はい?」
大賢者からのセクハラかと思い、変な声で聞き返してしまう。
「俗世の異物を捨てて裸になることで精霊の加護を受けられるのです」
「ああ。なるほど」
丁寧な補足に俺は納得して服を脱ぎ全裸になった。
「さあ、泉へ」
大賢者は何の恥じらいもなく促してくる。
「あ、え、はい」
いくらおばあさんとは言え、異性の前で全裸は恥ずかしい。
「冷た!あ~さぶい」
俺はまだ寒い時期のプールに入る小学生のようにガクガクと震えていた。
「では仰向けに浮かび、目をつぶって集中しなさい」
「わかりました」
言われるままに目を閉じて意識をゆっくりと閉じていく。
「************」
大賢者の呪文を唱える声が子守唄のように聞こえ、眠りを誘う。
「勇者よ、目覚めなさい」
「う?眩しい」
呼びかける声に応え目を開いた先には日光に輝く花畑が広がっていた。
「眠っているのに目覚めなさいもないのだけど。フっ」
軽くクスッと笑っている美人がさっきの声の主のようだ。
「これが精神世界ってやつなのか?」
「そうですよ」
俺のひとり言に美人が返事をする。
「そうなんですね」
現実世界のようなリアルさに俺は戸惑ってしまう。
「申し遅れました。私は女神と言います」
《すげえ。恥ずかし気もなく言ったよ》
確かに容姿は文句のつけようがないが、堂々すぎる言動にちょっと引いてしまった。
「僕は普田一郎です」
もうお決まりのような営業挨拶を返す。
「存じ上げていますよ。勇者様」
その女神の品の美しさにさっきの言動が脳裏から吹き飛ぶ。
「そ、そうだよね」
あからさまに動揺している自分がすごく恥ずかしくなる。
「あの、修行って?」
ごまかすように話を変える質問をした。
「もう少し行った所にあります」
女神はそう言って先を黙って歩いていく。
「着きました」
女神に連れられてきた場所は二時間ドラマに出てきそうな崖だった。
「ここで修行?」
俺は修行場所とは思えない場所に戸惑う。
「ええ。ここに座ってください」
「ああ」
女神に言われるままあぐらをかいて座る。
「で、何をしたらいいの?」
「別に何も」
「へ?」
どんな困難な試練かと身構えていたので拍子抜けしてしまう。
「ただ座っているだけ?」
「そうです」
女神は平然とした顔で答える。
「どれくらい?」
「それはお教えしかねます」
「え?教えてくれないの?」
「終わりは勇者様の心次第です」
「俺の心次第?」
「ええ」
「どういうこと?って、いないし」
一瞬目を離しただけで、いつの間にか女神は消えていた。
「やりますか」
俺は観念して修行を始めた。




