六節 魔力を手にしました
《本当に静かだな。何も起きないし》
リベラルの返答も相変わらずなく、心の中で虚しく独り言は響く。
精神世界では何も襲ってこなかった。
何も起きないことがこれほど辛いものだとは。
完全な静寂は少しずつ俺の心を疲弊させた。
今までは一瞬の躊躇いで命を取られるものだった。
だが、今回は真逆で考える時間が膨大にある。
時間という概念があるのかさえ分からないほどに。
《な~んか哲学的なことばっかり考えてしまう》
体験したことがない状況に独り言ばかり出てくる。
《精神世界だから当たり前なんだろうけど、何にもいないな》
崖には鳥という俺のお決まりは見事に裏切られた。
《思えば、普通のサラリーマンが勇者だもんな》
今更ながら、しみじみと異世界での日々を振り返る。
《最初は夢かと思ったもんな》
疲れた気がしたので横になって空を見つめた。
《よく生きているよ。てか、生きているよな?》
これまでは考える余裕がなかったのもあり、改めて疑問に思う。
《あ~リベラルさん。いいかげん返事してくれよ》
小言くさい精霊もいないと寂しいものだ。
【……】
すがる呼び掛けに返答はない。
《生きているとして考えよう》
俺は無理やり考えを前向きにした。
《これが何の修行になるんだろう……》
いつの間にか崖ではなく、何も無い真っ白な空間にいた。
《まだ終わらないのか?》
もう時間を思い出すことも忘れるほどの時が流れていた。
精神世界だから眠気もないし疲れもなく、延々と思考だけが続いていく。
戦う相手もなくゴール地点もわからない。
ゆっくりと考える力が無くなっていく。
《あ~何してんだろう俺》
もう体の感覚も消えている気がする。
《カミシアたち大丈夫かな?》
ふとカミシアたちのことを思い出す。
《早く戻らないと》
少しやる気が出てきたのか目が冴える。
《どうすれば戻れるんだ?》
気持ちはあるものの、変わらす見当がつかない。
《そうだ。戻りたいと思えばいいのか?》
精神世界だからこその単純な答えを思いつく。
《出たい、出たい、出たい》
…………。
何も反応はなく空間は静かなままだった。
《あ~くそが!出せよ!》
苛立ってきて言葉が汚くなる。
《俺は勇者になるって決めたんだ》
「おーーーーーー」
俺は何もない空中に手をかざす。
手の先に眩しい光が輝き始める。
ザバーン。
「かぁ!」
水中から浮かび上がった俺は盛大に息をふきだす。
「えーっと。戻ってきたのか?」
「お帰りなさい」
目の前には大賢者が立っていた。
「はい。ただいま戻りました」
営業から会社に戻ってきたみたいな返事をしてしまう。
「お疲れ様。魔力を手に入れましたね」
「はあ。ボーっといただけですけど」
「それがすごいことです。千年の時間に耐えたのですから」
「千年?」
自分がそんな膨大な時間を過ごしたとは思っていなかった。
「その時間で我を忘れず意志を持てたものこそ魔力が持てるのです」
《確かに自分がよくわからなくなってたな》
「さあ、服を着て。今日はゆっくり休んでください」
「あ、服、服」
自分が裸だったことを思い出し、慌てて服を掴んだ。




