四節 特訓始めました
「とりゃー」
「せいやー」
キーン、キーン、カカキーン。
「だぁーあ!」
「痛あ!」
俺は尻餅をついた上、みっともない声を出していた。
「どうした?もう降参か?」
「はぁ、はぁ、勘弁してくれ。こっちは中年オヤジだぞ」
俺は力なく手をだして降参を示す。
【だらしない奴だ】
リベラルの呆れた声が聞こえた。
《誰のせいだよ》
【鍛えていない己のせいだ】
こんなことになった理由は黒騎士襲撃の翌日まで遡る。
「ふぁあ~」
少し安心したのか、俺は昼過ぎまで寝てしまっていた。
「たぁ!は!はぁ!」
ほんの数時間前にボロボロになっていたのに、兵士たちは気迫のこもった鍛錬をしていた。
「よくやるな」
「じゃあ、お前もやるか?」
俺は声の方に振り返る。
包帯を巻いてはいたが、松葉杖はせず腕組みをしたキーアがいた。
《え?あなた大怪我していましたよね?》
俺が不思議そうな顔をしていたら、その答えが返ってきた。
「我々は異常に回復が早い種族なんだ」
《さすが戦闘民族》
「だからですね」
「その敬語はやめてくれ。君は勇者なんだぞ」
「はぁ」
俺は困って後ろに手を回して頭を掻いた。
そこで、今更ながらの疑問が浮かぶ。
《どうして異世界の言葉がわかるんだ俺》
【私の力だ】
《あんたのおかげ?》
【そうだ。せっかく呼んでも、言葉が理解不能では話にならんだろ】
《え?俺って呼ばれたの?》
【ああ。ある条件の下、勇者を召喚することが出来る】
「おい。大丈夫か?」
キーアが怪訝な顔で見ていた。
「ああ、悪い。気にしないでくれ」
「ならいいが」
キーアは途中まで階段を降りて、ふとこちらへ振り返る。
「そうだ。一本どうだ?」
《ふぁい?》
数分後、俺は装備一式を身につけキーアと向かい合っていた。
《ええ~と。どうしてこうなった?》
「よーし。来い!一郎」
《キーアさん。めっちゃヤル気がおありで》
目の前にいる戦闘民族に完全に腰が引けていた。
「てぇい!やあ!たぁ!」
キーアのすさまじい斬撃が数度放たれる。
「お、と、ぐぁ」
みっともない声で必死に剣をさばく。
《これでも剣道三段です。もう十年以上やってないが》
「少しは心得があるようだが、甘い!」
容赦ない一撃に俺は尻餅をついた。
「あいた!」
《言葉になっていませんが、一応ね、痛いです》
《鍛えて意味ある?鎧着たら関係なくない?》
【健全な肉体にこそ、健全な鎧は宿る】
《どっかで聞いたことがあるな。お前日本好きだろ》
【当たり前のことを言っただけだ】
《何だかな》
鎧とのやり取りが漫才みたいになってしまう。
「シゴキ甲斐がありそうだ」
ニタリと微笑み、キーアが手を差し出してきた。
《はい。怖いです。その笑顔》
こうやってシゴキ、もとい、キーアの指導が始まった。




