四節 鬼と乱闘しました
「しゃーーーーーーーーーーー」
鋭く尖った爪を鬼が剣のように振りぬいてくる。
「あっぶね~」
それを背中を仰け反りかわす。
「しゃ、しゃ、しゃ」
他の鬼たちが同時に仕掛けてくる。
「お、とっとっと」
俺は合気道を真似て攻撃を受け流す。
「一郎さん!鬼の攻撃は呪術が込められていますので、注意してください!」
大樹がこちらに叫んだ。
「そういうことは早く言ってくれよっ、と!」
返事をしているのなんかお構いなしに攻撃は続く。
《さ~て、どうしましょうかね》
【こういうときのためにこそ、あの術だろう】
すっかり修行したことを忘れていた俺はハッとした。
《あ~あれね》
すっと鬼と距離をとってから術を口にする。
「神器!辻風の舞!」
大きい風がうねりをあげ、竜巻状に周囲を吹き飛ばす。
「がーーーーーーーーーーーーーー」
鬼たちもさすがに体を縮め防御を固めた。
「はぁ~」
緑色に染まった鎧で気分が上がった俺は必殺技の為に構える。
「〈風刃手裏剣!〉」
烈風の如く激しい風で形作られた手裏剣が次々に舞った。
「ぎゃーーーーーーーーーーーー」
修行で得た技で鬼たちを仕留めていく。
「目が開けていられない」
十メートル以上は離れているであろう大樹でさえ薄目で見るのが精一杯だった。
「ふ~。こんなものかな」
俺が一息ついたときには鬼たちは全部倒れていた。
「さすがですね」
駆け寄ってきた大樹が若干興奮しながら言ってくる。
「まあね」
子供のように光る目で見つめてくる感じに思わず照れてしまう。
「中に入るか」
俺は鎧を元の状態に戻して歩き始めた。
神殿の中はそこそこの市民球場ぐらいの大広間になっていた。
「ずいぶん殺風景だな」
俺は感じたままに言ってしまう。
【まったくお前は、センスの欠片すら感じられんな」
リベラルの恒例になった呆れ声が聞こえてきた。
《わる~ござんしたね》
いつものように体と心で舌を出す。
「あ、あそこが剣がある台座です」
リベラルとのやりとりに気をとられていたら、いつの間にか着いていたらしい。
「おいおい、マジかよ」
視線を向けた先には、まさに大ボスという感じの巨大な紫色の毛に包まれた鬼が台座の前に仁王立ちしていた。
「あれが頭領だよね?」
ちょっと苦笑いで大樹に訊く。
「私が聞いていたよりも一回り以上大きい気もしますが……」
二人で笑顔が引きつる。
戸惑っていると、ズシ、ズシっとゆっくり頭領がこちらに向かってきた。
「仕方ない。また、あれでいきますか」
俺は再び鎧を緑色に変え、気合いを入れなおす。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「がああああああああああああああああああああああ」
大広間に平均サイズの人間と化け物の雄叫びが木霊し合った。




