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文明を継ぐ魔女  作者: XType84
第一章 ありふれた青春
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第一章 第七節 隣にいる人

2003年 春


朝礼。

工場長

「坂本。」

「はい。」


「天城。」

「はい。」


「今日はお前ら二人でライン頼む。」


新人が驚く。

「主任と天城さんだけ?」


「十分だ。」


午後。

ライン停止。


主任が言う。

「天城!」


「はい。」


「原因。」


香織は機械と図面を見る。

「…治具です。」


坂本

「俺もそう思う。」


---

改善プロジェクトの会議室。

香織は資料を広げ、坂本と並んで座っていた。


「主任、この工程……前回の改善で歩行距離が減りましたけど、さらに治具の高さを変えれば、作業者の負担が減ると思います。」


坂本は資料を見て、静かに頷いた。

「それでいこう。」


「……いいんですか?」


「お前が考えた。」


その言葉は、香織の胸に静かに響いた。


(主任と……同じ目線で仕事ができているんだ。)


坂本は、香織の成長を誇らしげに見ていた。


その様子を、工場長が遠くから見ていた。


---


休日。

香織は大型書店で技術書を探していた。


香織は技術書を取る。

同じ本にもう一つ手。


坂本。

「あ。」「品質工学の新刊が出てるぞ。」


「ほんとだ……主任、これ面白そうですね。」


「……お前、休日まで技術書か。」


「主任も来てるじゃないですか。」


「……まあ、嫌いじゃない。」


だが――

その横顔が、いつもより柔らかく見えた。


---

年末。

東亜機工の忘年会。


作業員たちが酒を飲みながら騒ぐ中、香織はウーロン茶を片手に坂本の隣へ座った。


「主任、今年もお世話になりました。」


「……お前が頑張っただけだ。」


「でも、主任がいなかったら……」


「俺がいなくても、お前はやる。」


その言葉は、香織の胸に静かに響いた。


そこへ――

工場長がニヤニヤしながら近づいてきた。


「おい坂本。隣、天城じゃないか。」


「……仕事の話です。」


「忘年会で仕事の話? いやぁ、若いっていいなぁ。」


「…否定しないのか?」


「…飲みましょう。」


「天城ちゃん、坂本が困ってるぞ?」


「えっ……は、はぁ……」


香織はきょとんとしていた。


周囲の社員たちもニヤニヤしている。


「おい、あの二人……もう付き合ってるんじゃね?」

「いや、まだだろ。でも時間の問題だな。」

「主任、あんな顔するんだな……」


坂本は否定しなかった。


香織は気づいていない。

坂本は気づいているが、否定しない。


その空気が、自然に二人の距離を縮めていった。


---

工場の一日は終わろうとしていた。


その頃――


大学の研究室では、

まだ明かりが消えていなかった。


深夜

誰もいない研究室。


藤堂は机いっぱいに資料を広げていた。


香織の研究を写したメモ。

自分の実験結果。

未完成の論文。


赤ペン。

消す。

書く。

消す。

書く。



「……惜しい。」

赤ペンを握り締める。

「あと一歩なのに。」



「ノートは……?」

引き出しを開ける。

一段目。空。

二段目。空。

三段目。空。

「ない……!」


勢いよく閉める。

「くそっ!」


「あの研究ノートさえあれば…」

歯ぎしり。



研究室の蛍光灯が、一瞬だけ明滅した。

冷たい空気が部屋を満たす。

『欲しいか。』


藤堂 振り向く。

誰もいない。


『力が欲しいか。』



「誰だ…」


『力を受け入れろ』


藤堂は手を伸ばす。



------


工場の夕暮れ。


坂本が歩く。

香織は工具箱を抱え、半歩後ろを歩く。


長く伸びた二人の影が、アスファルトに重なった。


────


その頃。


大学。


誰もいない研究室。


机の上の赤ペンが、音もなく転がった。


『契約は成立した。』


藤堂は、

黒く染まった右手を見つめていた。


黒い紋様が、手首から腕へと静かに這い上がっていく。


---

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