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文明を継ぐ魔女  作者: XType84
プロローグ 木星宙域 ――最後の撤退
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プロローグ

木星の縞模様(しまもよう)が、戦場の閃光に断続的に照らされていた。

赤、白、青――爆風が色を奪い、また与え、虚空は絶えず形を変える。


『敵幹部――撃破確認!』


眷使(けんし)部隊には勝利を喜ぶ余力すら残っていなかった。


『弾薬残量、三%! 予備マガジンなし!』

『補給線は完全に断たれています!』

『負傷者多数! 後衛が持ちません!』

通信が悲鳴のように飛び交う。


木星の影から、黒い艦影がいくつも姿を現した。


天城香織は顔を上げた。

増援――。


敵艦の艦首に、光が収束する。

主砲――。

次の瞬間、白い閃光が放たれた。


その刹那――光の中に、ひとりの少女が現れた。


神々しいほどの輝きをまとい、戦場の汚濁とはあまりに不釣り合いな姿。

長い髪が光の粒子をまとい、瞳は星のように澄んでいる。


少女は香織の前に降り立ち、静かに微笑んだ。

「香織さん。必ず迎えに行きます。」


少女が手をかざすと、光が奔流となって戦場を包み込む。

爆風が空間を飲み込み、世界が白く染まる。

「戻ってください。

 あなたの“歴史”へ。」

その言葉が響いた瞬間、白い光がゆっくりと割れた。


* * *

## ■学食 ――天城香織という人間


一九九五年、春。

工学部一年。


桜の向こうに、大学のキャンパスが広がる。

香織は、学食のテーブルに座っていた。


味噌汁の湯気が、現実の輪郭をゆっくりと戻していく。

向かいの友人が、唐揚げをつつきながら言った。

「香織さ、また古代技術の話してるの?」

香織は味噌汁を一口すすり、淡々と答える。

「好きだから。」


「昨日も閉館まで図書館にいたんでしょ?」


「工学部なのに、変わってるよね。」


香織は首を横に振った。

「役立つかどうかじゃないよ。

 どうしてそうなったのかを知りたいんだ。」


友人は苦笑した。

「ほんと変わらないよな、香織は。」


香織は照れたように笑った。


* * *

## 歴史文化論 ――静かな余韻だけを残す邂逅


午後の授業。

一般教養科目「歴史文化論」。


教壇に立つのは、和服姿の穏やかな女性講師。

その佇まいは、教室の空気を静かに落ち着かせる、不思議な静謐をまとっていた。

「今日は、源平合戦について話しましょう。」


講師が黒板へ書いたのは、武将の名前ではなかった。


弓。

馬。

街道。

食料。


「戦というと、強い武将へ目が向きます」


講師はチョークを置いた。

「ですが、一人の英雄だけでは戦えません。武器を作る者がいる。食料を運ぶ者がいる。道を整える者がいる」


講師は黒板へ二文字を書いた。

技術。

「そうした名も残らない人々の工夫もまた、歴史です」


そして、その隣へもう二文字。

文明。

「技術は、人が何を求めたかを映します」


香織はノートに一行を書き留めた。

技術は、人が何を求めたかを映す。

香織のペンが止まった。


「歴史とは、技術が歩んできた道でもあります。

 人が工夫し、積み重ねてきた痕跡なのです。」


講義後、香織は教壇へ向かった。

「先生。昔の技術を見るときって、道具そのものより、どうしてそれが必要になったのかを見る方が大事なんですか?」


講師はふっと微笑んだ。

「道具だけを見るなら、優れているか、劣っているかで終わります」


「でも、誰が作り、誰が使い、どう受け継いだのかまで見れば――文明が見えてきます」


香織はノートへ目を落とした。

技術は、人が何を求めたかを映す。

香織はペンを取り、文章の下へ一本だけ線を引いた。


窓の外では、桜が静かに散っていた。

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