↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月の砂漠で飛ばされて  作者: 碧衣 奈美


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/16

16.求めるならそばに

「あんなひげを生やしていたら、盗賊にしか見えないじゃない」

「ひげのある男なんて、どこの国でも珍しくない。だいたい、砂漠の横断中にそこまで身ぎれいにする奴なんて、そういないぞ。それに、ひげがあるって言っても、バグラーム達に比べれば薄い方だ。剃らなかったのは、たかだか数日なんだから」

 そう言われたら、納得するしかない。

 バグラーム達は、顔が埋もれているのかと思うくらい、ひげが濃かった。ラジェート達は、それに比べれば薄い。今思えば、生やし始めて数日くらいかな、という程度。

 シャーリーンがラジェート達を盗賊と勘違いしたのは、彼らのひげ面のせいもあるが、隊商(キャラバン)ならもっとダクラや荷物が多いはず、と思ったからだ。

 しかし、盗賊が徒歩で砂漠を移動するなんておかしい、と考えるべきだった。逃げる時に自分の足で走っていたら、役人に追い付かれ、捕まってしまう。

「それに、会うのもいやがってた当の本人に会うなんて、偶然にしてもできすぎているだろ? 話したところで、絶対に信じないだろうと思ってな。だから、みんなにも口止めした。言葉遣いも、普通にさせた。そこからばれるかも知れないからな。……それに、面白そうだったし」

「面白そう?」

「姫の本音が聞けそうだったしな。取りつくろわない、本当のシャーリーンが」

「ずっ……ずるいっ。あなたはわかっていたからいいけど、あたしは知らなかったのよ。あなただけわかってるなんて、絶対にずるい」

 昨日、あたしがどれだけ泣いたと思ってるのよ。

 でも、その言葉は実際には口にできない。今更言うのも恥ずかしかった。

「俺がずるいのは、認める。それじゃあ、シャーリーンはひどいっていうのも、認めるか?」

「あたしがひどい?」

 何かひどいことをしただろうか。休憩や野営をする時に、ろくな手伝いができなかった、というのが「ひどい」と言われるなら、そこは認めるしかないが。

「会ったこともない俺のことを、傲慢な奴だとか、二目と見られない不細工な男だって言ってただろ」

「あ……」

 まさか本人の目の前で、本人の悪口を言っていたとは。想像もしなかった。

 それを指摘されて、シャーリーンは赤くなる。

「あっは……取り消すわ、あれ」

「えらくあっさりと言ってくれるじゃないか。俺は結構、傷付いたぞ。目の前で、これ以上ないってくらい、はっきりきっぱり言われたんだからな」

「ごめんなさい……」

 謝りながらも、笑いが込み上げてきた。

 あの時「本当は優しくて、いい男かも知れない」と言っていたのは、自分のことだったのだ。

 あれを聞いて周りが吹き出したのも、今ならわかる。

「ラジェートがカルシャで会わなきゃならない人って、あたしのことだったのね。あたしはてっきり、カルシャの盗賊の頭と会議でもするのかと思ってたわ」

「カルシャの姫がこうじゃ、盗賊は逃げ出すな」

 そう言いながら、ラジェートは懐から何か包みを取り出し、シャーリーンに手渡す。開いて見ると、あのくしだ。

「これ……」

「砂漠に落ちていたそうだ。俺達のテントと、バグラーム達のテントの間に」

 やはり、連れ去られる時に落としていたらしい。それにしても、砂漠でこんな小さい物をよく見付けられたものだ。

「ねぇ、これを贈る人って、あたしだったの?」

「ああ。女性に手土産の一つもなしに行くなって、妹に言われてね。カルシャの姫は美しい黒髪を持っていると聞いていたから、これならいいだろうと」

「用済みになりそうだって言って、あたしにくれたじゃない」

 本当は、シャーリーンに渡すはずだった品。それを用済み、ということはシャーリーンと会っても、渡すつもりがなかった……?

「会うのもいやがっている姫に渡しても、捨てられそうなんでな。使われないまま捨てられたら、いくらくしでもかわいそうだろ」

 思いっ切り、皮肉られている。

 つまり、あたしはあたしに嫉妬してたの? てっきり、ラジェートの恋人に渡される品だと思っていたのに。

「あたしが昨日泣いてたのを見て、実は心の中で笑ってたんじゃない?」

 シャーリーンは、ラジェートのいわゆる「正体」を知らなかった。だから「これでもう会えない」と思って泣いてしまった。

 でも、彼は今日、こうして来ることになっていたのだ。それをわかっているから「また来る」とはっきり言い残して去った。

 シャーリーンにすれば、逆にそのはっきり交わされた約束が、二度と会えないことを物語っているようにすら思えたのに。

「まさか。俺はそう言われる程、底意地の悪い性格はしていないぞ」

 シャーリーンは、少し疑わしげな目で見る。

「そうかしら」

 シャーリーンにすれば、こう言うのが精一杯のお返し。

「嬉しかったよ」

 正面から言われて、シャーリーンの方が赤くなる。

「それに、自信も出たかな」

「自信?」

「盗賊だと思っている男が相手でも、好きになってくれたんだから。これなら、傲慢で二目と見られない不細工なダージェンの王子も、がんばれば振り向いてもらえるかなって」

 これは、まだ皮肉られているのだろうか。

「前から言おうと思ってたんだけど」

「何?」

「ラジェートって、一言多いのよ」

「シャーリーンはそそっかしくて、思い込みが激しい」

 見事にしっかり返されてしまった。

「でも、頑張り屋だということは、よくわかった」

 急にほめられると、恥ずかしい。

「あたし、お見合いはいや、なんてゴネてたけど、よく考えてみれば相手から断られることだってあるのよね」

 自分が断ることばかりを考えて、相手から断られることは全く頭になかった。おめでたいと言えば、おめでたい。

「他の奴なら、こんなに元気のよすぎる姫は辞退したいって言うだろうな」

 シャーリーンの性格を知れば、そういうこともありうる。

「ふーんだ。……ダージェンの王子様は、どのようにお考えなのかしら」

「おや、あなたがそんなことを気にされるのですか」

「あたくし、人の心が読める力などありませんもの」

「私はザドーア王から、今度の話はなかったことにしてほしい、と言われはしないかと、ずっと不安に思っているのですよ」

 ラジェートも言ってくれる。

「それなら、心配なさる必要はありませんわ。あたくしがそのようなこと、父に言わせたりはしません」

 シャーリーンがラジェートに寄り添い、ラジェートがそっとシャーリーンの肩を抱いた。

「私から姫に、お願いの儀があるのですが」

「何でしょう?」

「あまり無茶なことはしないでくれ。さらわれたのを見た時、寿命が縮まった」

「あれは、不可抗力よ」

「砂漠に来なければ、なかった出来事だ」

 本当なら、ラジェート達はもう少し早く国を出発するはずだった。

 しかし、問題が重なって起き、対処しているうちに時間が過ぎる。で、式典に間に合わせるには砂漠を渡るしかない、となってしまったのだ。

 しかし、そうすることで、運良くシャーリーンはラジェート達に拾われ、国へ帰れた。

 一日でもラジェート達の出発がずれていたら、シャーリーンはバグラーム達にさらわれるまでもなく、砂漠の真ん中で干からびていただろう。

「わかりました」

 素直に言っておく。

 もし何か起きて城出することになっても、もう砂漠へは行かない。

 これは、昨日も言っていたことだ。それ以外で無茶なことは……今のところ、特に思い付かないので、やらかすことはない、はず。

「もう一つ、お願いしても?」

「ええ、もちろん」

「また、お茶を淹れていただきたい。一度しか飲めていないので」

 バグラームの手下にさらわれた夜、シャーリーンは食事中に寝てしまった。なので、食後のお茶はなしになったのだ。

 なので、シャーリーンがお茶を淹れたのは一度だけ。

「お茶くらい、いくらでも」

 その時は、センキス達にもふるまわなくては。きっと、今もどこかで待機しているだろう。

「あたくしも、お願いしてよろしゅうございますか?」

「何なりと」

「ずっとそばにいて」

「シャーリーンが求めるなら、俺はそばにいる」

 昨日、別れ際にも言われた言葉。これから真実になるのだ。

 二人は、くちびるを重ねる。

「もう、見合いは必要ないかな」

「うん」

 空はすっかり暗くなり、満ちた月がシャーリーンの手にある玉虫色のくしを光らせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
i000000 (バナー作成:相内 充希さま) (バナークリックで「満月電車」に飛びます)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。