第五十話「絶対に、返さない」
(最終回)
それから、十年が経った。
魔王城は、変わった。
中庭には四季がある。
薔薇だけでなく、魔界中の花が季節ごとに咲き乱れる。
浴場は今や、魔界中の種族が週に一度集まる憩いの場になった。
城下には、食堂が生まれた。ダンクル氏の弟子が切り盛りしている。
そして——。
「お母様! 庭に出てもいいですか!!」
元気な声が、廊下に響く。
黒い髪の小さな女の子が、台所の前で私を見上げている。
赤みがかった目が、懇願するように輝いている。
「ちゃんとゾルク叔父様についていてもらえれば」
「やった!!」
駆けていく背中を見ながら、私は笑った。
「……相変わらず、よく動く子だ」
背後から声がして、カイゼル様が隣に立った。
「カイゼル様に似ているんじゃないですか」
「……俺はあそこまで暴れん坊ではなかった」
「本当に?」
「……弟に聞けれたら否定できないかもしれないが」
少しだけ、その目が遠くなった。
でも——寂しい色ではなく、柔らかかった。
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夕方、庭でレヴィアが作った花輪を頭に乗せて、私は隣のカイゼル様を見た。
「ねえ、カイゼル様」
「なんだ」
「……神殿を出た日のこと、覚えていますか?」
「……ああ」
「あの時は、どこへ行こうかと思っていました」
「……知っている」
「でも今、こんなに——こんなに幸せです」
カイゼル様は少しの間、黙っていた。
やがて、深紅の薔薇の前で、静かに口を開いた。
「……お前が来て、この城に春が来た」
「……はい」
「……もう——絶対に、返さない《・》《・》《・》《・》《・》《・》《・》」
レヴィアが花輪を投げてきた。
カイゼル様の頭に、綺麗に乗った。
私は声を上げて笑い、カイゼル様は「……この子は誰に似た」と呟いた。
十年前、神殿の門を出た時。
私は何も持っていなかった。
今は——この城が、この家族が、この日々が、ある。
魔王様に拾われて、よかった。
ここが、私の居場所だ。
完
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## あとがき(作者より)
最後まで読んでくださり、本当に、本当にありがとうございました。
「婚約破棄され神殿を追放された私ですが、拾ってくれた最恐の魔王様が『絶対に返さない』と言い張っています」、これにて完結です。
ルナとカイゼル様の物語を、長い間お付き合いくださった皆様のおかげで、最後まで書ききることができました。
二人が最初はただの「掃除役」と「冷酷な魔王」だったのが、少しずつ距離を縮め、最終話では「お前に拾われてよかった」と言い合えるまでになった。この旅路を、一緒に歩いてくださったことが、何より嬉しいです。
もし気に入っていただけたなら、評価・ブックマーク・感想を残していただけると天にも昇る気持ちになります。
またいつか、どこかでお会いしましょう。
最終話まで読んでくださり、本当にありがとうございます!!
カイゼル様の「絶対に返さない」——タイトル回収、できましたよね!
ルナちゃんが「私が絶対に返しません」と言っていた第38話との対比も、楽しんでいただけたなら嬉しいです。
全50話、長い物語でしたが、皆様のおかげで最後まで書けました。
評価・ブックマーク・感想、どれも本当に励みになります。
これからも何かの形でお会いできることを祈っています。ありがとうございました!✨




