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第十九話「魔族の求愛文化について」

ゾルク様が、私にこっそり本を渡してきたのは、ある午後のことだった。


「……読んでおけ」


 背表紙には「魔族の求愛と番の習わし」と書いてある。


「……なぜ私に?」


「いいから読め」


 ゾルク様は顔を赤くして、足早に去った。


---


 内容は、興味深かった。


 魔族は人間と異なり、「番」という概念で相手を選ぶらしい。

 それは恋愛感情とは少し異なる——精神的な共鳴のようなもの。


 番を見つけた魔族は、相手の「名前を呼び続けること」「特定の贈り物をすること」「傍にいることを明示すること」で求愛の意を示すのだという。


「……」


 私は本を閉じて、少し考えた。


 カイゼル様が私を呼ぶ時、最近「貴様」より「ルナ」と呼ぶことが増えた気がする。

 ぬいぐるみを受け取ってくれたし、中庭の執務室移転も……。

 「居てくれ」という言葉。


「…………」


 まさか。


 まさかまさかまさかまさか。


 私は顔が熱くなるのを感じながら、台所に戻った。


 その日の夕食、私はいつも以上に丁寧に料理を作った。


---


 翌朝、カイゼル様に廊下で会った。


「おはようございます、カイゼル様」


「……ルナ」


 今日も名前を呼んでくれた。


「……何か顔が赤いが、体調は悪いか」


「体調は万全です。でも少し、あの、気になることが……」


「言え」


「ゾルク様から本をいただいて——魔族の、その、求愛の習わしについての本で——」


 カイゼル様の動きが、ぴたりと止まった。


「……」


 沈黙。


 沈黙。


 沈黙。


「……あのゾルクを後で呼べ」


「はい?」


 カイゼル様は無言で踵を返した。

 後ろ姿の耳が、真っ赤だった。


第十九話 完

お読みいただき、ありがとうございます!


ゾルク様……ナイスアシストなのか、余計なことをしたのか(笑)

カイゼル様の「あのゾルクを後で呼べ」の意味するところは……?


次回でいよいよ「番の申し込み」と大盛大な勘違いが炸裂します!お楽しみに!

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