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そしてだれもいなくなった  作者: 水前寺鯉太郎
第二部:幼い依頼人

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第二部 第三章:受け継がれる「空席」

第三章:受け継がれる「空席」

1

はじめは、ソヨンの弟・ジフンの遺体安置所から戻った後、狂ったように第一部の「ラジオ体操事件」の資料を読み返していた。15年前、5人の少年が消えた事件。そして、つい先日発見された「成長した5人の遺体」。

はじめの指が、ある一点で止まった。

「……そんな、馬鹿な」

ソヨンの父親、キム・テシンの経歴。彼は15年前、あの失踪事件が起きた地区の「青少年育成委員会」の副会長を務めていた。それだけではない。

失踪した5人の少年の一人、徳田和夫。あの「空の虫かご」を残して消えた大人しい少年の実家は、現在、キム一家が住んでいる屋敷の敷地そのものだったのだ。

キム・テシンは、徳田家が事件の心労で一家離散した後、その土地を安値で買い叩き、豪邸を建てていた。

2

はじめは、ソヨンから預かった汚れた手紙をもう一度精査した。

そこには、父親が夜な夜な地下室で行っている「儀式」の様子が記されていた。

『お父さんは、床に青い砂を撒いて、暗い声で誰かと話している。「次の席は用意できた。だから、私の事業を成功させてくれ」って。ジフンが殴られたあの日、お父さんは笑いながら言ったの。「これで、ようやく5人揃う」って。』

はじめの脳裏で、バラバラだったピースが音を立てて繋がった。

第一部で消えたのは5人。

そして今、この街で起きている不審な児童死や失踪の連鎖。

はじめは、古くからこの街に伝わる、歪んだ信仰の記録を地域の図書館で見つけ出す。

「……『五座の身代わり』。街の繁栄を維持するために、5人の子供を『あちら側』へ捧げ続ける儀式か」

15年前、あの5人が消えたのは偶然ではなかった。キム・テシンを含む街の有力者たちが、自らの富と名声のために、井戸の神へ子供たちを差し出したのだ。

しかし、先日「5人の成長した遺体」が戻ってきたことで、あちら側の「席」が空いてしまった。

キム・テシンは、自分の子供であるジフンとソヨンを、「新しい5人」の欠員補充として捧げようとしていたのだ。ジフンが死んだのは、虐待の結果であると同時に、儀式の一部だった。

3

「山下君、顔色が悪いわよ。何を調べてるの?」

心配して声をかけてきた姉の直子に、はじめは震える声で答えた。

「姉さん……あの一家がソヨンを連れ戻そうとしているのは、愛情なんかじゃない。ジフンの次に、彼女を『捧げ物』にするためだ。15年前の少年たちは、まだあそこにいる。そして、新しい仲間を待っているんだ」

はじめは、第一部の捜査に関わっていた元刑事・松井を訪ねる。

松井は、はじめが見せ証拠資料を読み、深く溜息をついた。その目は、恐怖と後悔に満ちていた。

「山下さん……君は気づいてしまったのか。あの検死室で、5人の遺体の胃から見つかった『青い砂』。あれは、この世の物質じゃない。あちら側の世界の『通貨』だ。キム・テシンは、自分の子供の命を売って、あの砂を手に入れ、事業の資金に変えていたんだ」

4

その時、はじめの携帯電話が鳴った。

施設からだった。

「山下君! 大変よ! ソヨンちゃんが……警察の保護を潜り抜けて来た父親に、無理やり連れて行かれたわ!」

はじめは受話器を握りしめた。

「どこへ行きましたか」

「……例の廃屋よ。あの井戸がある、古い屋敷の跡地に!」

はじめは走り出した。

法律、証拠、裁判。そんな悠長なことを言っている時間はもうない。

15年前に始まった「夏休み」の悪夢を終わらせるには、法律家としてではなく、一人の人間として、あの忌まわしい井戸の深淵に飛び込むしかなかった。

「待ってろ、ソヨン。今度こそ、絶対に間に合わせてみせる」

はじめの胸ポケットには、司法試験の合格通知ではなく、ソヨンが書いたあの「幼い依頼人」からの手紙が、重く、熱く突き刺さっていた。

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