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歪の檻に囚われた、彼女の末路  作者: 天代智
彼女の罪と罰、その末路とは
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慧 side 8



 ・・・・



「矛盾点やおかしい点は、いくらでもあったのにね。あの男、タイムスリップをしたって疑わないんだから」


「そこは先生の言った通りだったね。真は一度思い込んだら、辻褄の合わないことも無理やり合わせようとするって」


「その豊かな想像力には呆れを通り越していっそ感動したね。私なんか、口を滑らせて十二年前にはなかった法律を口にしてしまったのに……」


「障害者総合支援法、だっけ? こっちは知らなかったから特に何も思わなかったけれど」


「まあ、やつは自称医師だったからね。知るわけがないか」


「違いない」


 孝治君はやや悲しそうに笑って、マグカップの縁を左手の親指でなぞった。憎き相手とはいえ、この数年間は真を看護師として支えてきたんだ。父の懸念はそこだった。孝治君の優しさが、復讐の妨げになるのではないかと。


 実際、彼は私や父以上に冷酷にも非情にもなれなかった。


 彼は看護師そのものを辞めた。誇りに思っていたのだろう。その仕事を、復讐のために利用してしまったことだけは、悔いているようだった。


 だが、私たちは復讐を果たした。父の命と引き換えに。


 私は誠さんに言った。


「闘病中だった父の体は、私たちの想像以上に負担がかかっていたと思います。アルコールは断ち切っていたのに、この計画のためにわざと飲酒までしてあの男を欺こうとしていました。辛くないはずがなかった。それでも、美香ちゃんを辱め、死に追いやったやつらへ復讐するために、人間を辞めた。医師としての誇りも、人としての感情も、何もかもを捨てて、復讐を成し遂げたんです」


 そしてすべての罪は自分が被ると言って。私と孝治君には直接、人を殺させなかった。


 すべてが終わった後、私と二階に隠れていた孝治君は祥子を連れて外に出た。外には大量の灯油を用意していた。自分たちがいたという、すべての痕跡を消すのであれば使った方がよかったのだろう。父の想いを汲むのであれば、なおさら。けれど、それを使ってどうするかは祥子に委ね、私と孝治君は、二人でクリニックを後にした。


 祥子はすぐには実行しなかったものの、数日ほど経ってからクリニックに火を放った。私たちがいた痕跡を消すためではなく、自分たちが犯した罪を燃やし消すために。


 それから祥子は、行方を眩ませた。燃やされた現場は、放火、死体遺棄、及び殺人事件として警察による捜査が行われた。


 後に警察から、佐藤真を殺したのは父と断定された。その他の放火、死体遺棄については行方不明の祥子が容疑者として全国に指名手配となった。


 完全犯罪などありえない。だから私と孝治君は、いつでも逮捕される覚悟はできていた。調べれば、きっとわかることだからと。


 私たちが結婚をしたのは夫婦という法的な絆で、これから一生、罪を共にすると誓い合いたかったからだった。決して祝福はされない穢れた契りだ。それでも、この結婚で最も嬉しかったのは、孝治君が美香ちゃんのことを姉と括り、思ってくれていることだった。


 私は誠さんを見つめた。


 いずれ耐えきれなくなった祥子が、私たちのことを警察へ洗いざらい話すのだろうと思っていた。それが今日まで父のこと以外で警察からは音沙汰がなく、おかしいなと思っていたのだが……まさかあの女が自殺するとは。これもまた、父に言われた通り、彼女へ腕のいい精神科医を教えたせいかな。


 何にせよ、最高のプレゼントだ。そして最高の手向けだ。


「ありがとうございます。誠さん」


 私はマスクの中で、醜く、口元を歪ませた。




 終。



いかがでしたでしょうか?

初めてのホラーミステリーで、至らぬ点もあるかと思いますが、少しでもお楽しみくだされば幸いです。

最後まで読んでくださりありがとうございました。

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