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歪の檻に囚われた、彼女の末路  作者: 天代智
彼女の罪と罰、その末路とは
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慧 side 5



 時は流れて二〇二二年五月二十三日、私たちは復讐を決行した。舞台はもちろん、私が十二年前に監禁されたクリニックだ。そこを利用することができたのは、正義を拷問してから復讐決行の日まで彼を監禁したからだ。金をはじめ、いろいろと利用させてもらった。


 この復讐劇にはまず、複数の人間が必要だった。当時事件に関わった人間が、犯人を合わせて七人だったので、今回はタイムスリップする佐藤真を合わせて八人が必要となった。監禁される人間に、まず美香ちゃんに扮する私、孝治君、父の三人。これが今回の事件の犯人だ。


 残りの五人の内三人は佐藤真、正義、祥子。これはもう決まっている。しかし、正義を入れてしまうと真と祥子が気づいてしまうため、彼はクリニックの中には入れず、もっと重要な役割を与えた。真と祥子はこの十年間、互いに顔を合わせていないこともあり、この状況で出会ったとしても気づかない。特に真の方は、髪型や服装など、容姿が別人のように変わっていた。祥子は実際に気づかなかった。


 ゲストに工藤翼と甲斐田(かいだ)まき。後に名前が、平、潤美となる彼らだが、ゲストの二人は当時の事件と直接関わりはなかったものの、配役にはぴったりだった。


 私たちはまず、甲斐田まきこと潤美の家に向かった。


 潤美は私が入院していた時に出会った女性だった。彼女の通院の目的はDVによる怪我と心の治療。同じく精神科を受診していた私と彼女は次第に仲良くなった。母親から愛情を受けられず、ネグレクトをされていたことが私と彼女を繋いだものだった。


 後に私は父と一緒に引っ越したため、彼女とはメールで連絡を取っていた。その内、彼女がバイセクシャルであることと、過去に好きになった女性を死に追いやり、ずっと悔やんでいることを聞かされた。その好きだった女性が美香ちゃんだった。


 ケースワーカーとして親身に話を聞いてくれた美香ちゃんに、彼女はすぐに惚れてしまった。しかし、あの手この手でアプローチをかけたものの、自分の気持ちは伝わらず、次第に彼女は美香ちゃんを困らせたくなったという。


 その頃、美香ちゃんに付きまとっていた男がいることを知り、彼に美香ちゃんの転職先を教えてしまった。本当は彼女にだけ教えた、美香ちゃんの転職先だった。これが潤美の裏切りだった。


 美香ちゃんが事件に巻き込まれたことを潤美が知ったのは、テレビの報道番組だった。その頃から彼女は睡眠薬による過剰摂取で自殺を図るようになった。自分が美香ちゃんを売ったことで、事件に巻き込まれたと思い込んだ彼女は、この十二年間、ずっと悔やんで生きてきた。


 五月二十三日午後七時過ぎ。長い前髪を下ろして目元を隠し、Tシャツとジーンズ姿に身を包んだ私は潤美の家に行った。そこで飲み物にこっそりと睡眠薬を混ぜて、彼女が眠ったのを確認した後、拉致をした。


 彼女の足には私が一か月前に贈ったヒールを履かせた。出迎えてくれた時も履いて見せてくれたが、潤美はこのプレゼントを気に入ってくれたようだった。まさか美香ちゃんに扮する私と色違いのヒールで、痕跡をごまかすために贈ったとは思いもしなかっただろう。偶然にも、私たちの足のサイズは一緒だった。


 次に佐藤真と祥子の二人を拉致した。敷地内別居をしている二人を拉致するのは簡単だった。正義の名前を使ってそれぞれが好きな銘柄の睡眠薬入りの酒を送り、日時指定をしてそれを飲ませた。真は父のことを崇拝に近い感情で信頼しているし、祥子は夫の言うことには逆らわない。念のため、父の目の前で正義に電話をかけさせ、彼らに酒を飲んだか確認させた。


 時間を見図り、正義からもらった家の鍵で忍び込むと、二人はぐっすりと眠っていた。それにしてもこの二人は、一年近くも姿を現さない家族に、関心がないのだろうか? それとも、これが彼らにとっての普通なのだろうか? 定期的に電話で連絡はさせていたものの、まったくと言っていいほど、正義は彼らから心配されなかった。


 最後に工藤翼こと平の家に向かった。


 そもそもなぜ、この人間を拉致しようとしたのか。平は長年引きこもりの生活を送っており、母親の春子が孝治君の勤める病院へ相談に来た。彼は十二年前の事件の信者で、いつかは自分も美人な女性を監禁して好きなように扱いたいという願望があった。過去には公園で、児童が一人でいるところを狙い、トイレに連れ込んで体を触ったりしたらしい。


 言動がどんどん過激化していく息子を母親は止めたかった。たとえ息子を殺してでも、止めたい。これから私たちが起こす監禁事件の配役に孝治君が平を推薦し、父はそれを了承した。


 復讐の一年前から、私たちは平から信用を得るため、彼が好んで行うオンラインゲームに参加した。アカウント一つを三人で使いまわして平といつでも接触できるようにした。同じギルドとやらにも入った。ゲームには孝治君が詳しかったので、ゲームオタクの平から信頼を得るのは早かった。


 後にチャットで話すようになり、平に監禁脱出ゲームというものを教えた。内容は主催者と平以外の人間は本当に監禁しているということ。そして平には監禁部屋から脱出する方法を推理する、探偵という役割を与えること。見事正解すれば、賞金がもらえること。


 いかにも怪しい話だが、金よりもこの監禁脱出ゲームの特典を話したら、彼はすぐに食いついた。元から監禁に興味のあった男だ。監禁された人間には何をしてもいいという特典は、さぞ魅力的に映ったことだろう。


 平は五月二十三日の午後九時、私たちが運転する車に自ら乗った。行き先は教えられないから、と目隠しをしてもらった。ゲームだと思い込んでいる彼は疑うことなく目隠しをして、睡眠薬入りのコーラを飲ませた。平はすぐにいびきを掻いて寝てしまった。


 彼らを運ぶために使った車は正義名義のものだ。金持ちは車の趣味の人間が多い。正義も例に漏れず、何台も車を所持していた。先にクリニックの方で準備をしている父と、監禁をしている正義を除いた全員を乗せることができたので、彼らを運ぶのは一度で済んだ。


 私たちが到着すると、父は自分と同じポロシャツにスラックス、そして白衣を着せた正義を屋上へと連れて行き、彼の顔が誰だかわからなくなるほど殴って殺した。そしてその死体を屋上の端の方まで運ぶと、足先をロープで吊るしてから屋内に戻り、取りつけた六つの南京錠の鍵をすべてかけた。


 私と孝治君は車椅子を使って祥子、潤美、平の三人を運んで一階のロビーに寝かせた後、真を二階に運んだ。机の上の端の方に寝かせておけば、寝返りを打った時に机の上から落ちると思い、わざとそこに寝かせた。少しでも痛い目に合わせたかっただけで、特に意味はなかったが、これがどうやら計画の一押しになったようだった。


 私たちは配役通りに変装した。私は美香ちゃんだから、ブラウスにスカート、ストッキングを身に着けると、黒髪のウィッグを被った。化粧は車の中ですでに施していた。最近は眼鏡ばかりだが、この時はコンタクトレンズを入れていた。美香ちゃんがそうだったからだ。


 潤美と色違いのヒールを履いたのは、痕跡をごまかすためだが、ヒールを選んだのは背の高かった美香ちゃんに合わせるためだった。私はやや背が低かったので、踵の高いヒールをわざと選んだ。


 孝治君は真が嫌いだろう男に変装した。ウィッグを被り、眼鏡をかけたのはもちろん顔をごまかすためで、仕草や口調は普段の私を真似ることになった。その方がキャラクターがブレないからだ。


 二人ともウィッグを被ったのは、建物の中に髪を残さないようにするためだった。加えて、指紋を誤魔化す目的で指の腹にはそれぞれ爪用のトップコートを塗っていた。掌紋だけはどうにもならないので、孝治君は指を怪我したことにして、あらかじめ中に仕込んでおいたゴム手袋を使った。私はあえて使わなかった。


 父だけは、普段の父だった。ウィッグは被らず、指の腹にトップコートを塗ることもしなかった。


 私は父と二人で三階に行くと、父からロープで首を絞められた。もちろん、死なない程度に。そして散乱する人形たちと一緒に出番が来るまで寝転がる。私の背中には、新聞の切り抜き文字が置かれた。


『ナンジ、六ツノ罪ヲ告白セヨ、サモナクバ』


 これは真に向けたメッセージだった。祥子にも効き目があるといいと思っていたが、一番の目的は真だった。


 拉致、監禁、強姦、暴行、強要、そして人を自殺へと追い込んだ罪。すべて美香ちゃんに対して真がしたことだ。私が知る限りでもこれだけある。細分化すればもっとあるのかもしれないが、六という数字に意味があったので、これでよかった。


 床に転がる人形は鈴木親子に見立て、吊るしたラブドールは美香ちゃんに見立てた。これを真が目にした時、どんな反応をするのか、私は内心ワクワクしていた。いや、この復讐そのものに、私は興奮していたと思う。自身の犯した過去の罪を、あの男はどの段階で気づくのだろう、と。


 父と孝治君はロビーで他の三人同様、気絶するフリをした。あとは誰かの目が覚めるのを待つだけだったが、結局誰も起きなかったので、孝治君が最初に目覚めた人間として彼らを起こしたらしい。



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