Page3
しばらく睨み合いが続いたのち、王子は膝をついて平民女に頭を下げた。
「私のせいで、貴女に傷を負わせてしまい申し訳ない」と言いながら。
平民女は、王子が自分のせいで頭を下げさせられてることが申し訳ないのか、あたふたしていた。
ああ、もう、全然だめ。
私は自身のスカートを軽く持ち上げ、足で、膝をついて平民女に頭を下げている王子の頬を蹴り飛ばした。
「ねぇ、お前。まだ彼女に頭が高くってよ。」
私に頬を蹴り飛ばされたことでよろめいた王子が、両手を地面について支えにしたところで、今度は足で頭を上から踏みつける。
ぐっ、と力を入れると王子は呻いた。
王子は思い切り顔面を地面にぶつける。
そう、そのくらいの頭の高さがお似合いだ。
「あら?婚約者たる私が目の前にいながら、エリックは地面と接吻するのね。ふふふっ、悲しいわ」
微塵も思ってない事を言いながら、足をぐりぐりと頭に押し込む。
学院内では彼の従者はいないので、こんなに簡単にも王子を踏みつけることができた。
周りの生徒も、私が王子よりも権力が上だと理解しているから、私に逆らってまで王子を助ける人などいない。
(初めから、こうしてればよかったのにね)
権力にものを言わせ、奴隷のように命令を聞かせればよかった。
愛してるからと我慢して差し上げても、結末は殺されるだけだった。
王子のサラサラの金髪が私の靴の裏の泥で汚れてるのを見てると、少しだけ幸せを感じた。
すると。
「やめてくださいっ!!!」
王子を庇うように平民女が私の前に飛び出してきた。
「…どうして?」
私は足を一旦下ろして平民女に聞く。
「どうしてって…やりすぎです!私のために、ありがとうございます。でも…」
別にあなたのためじゃないのに。
はあ。まあいい。
平民女と話してる最中に王子が立ち上がろうとしたので「誰が立ち上がっていいと言ったの?」と土まみれの彼を再度蹴飛ばす。
王子が「うぐっ」と喚き、口から今朝食べたであろう食べ物を出した。もう、ほんと汚い。
汚物を撒き散らすだけの害虫だわ。
平民女は「大丈夫ですか!?」としゃがんで、王子を守るように私を見上げる。
王子は弱々しく支えられている。
あの時、私を見下ろし冷たい目で処刑を告げた王子が。
その事実は何故だか興奮した。
「ふふ、よかったわねエリック、そのご令嬢が慈悲深い方で。でも、身の程はわきまえなさいね、私のことを不快にさせたらお前のお父さまやお母さまに婚約破棄をお伝えするから」
愛があったから、1回目は婚約破棄は王子の切り札だった。
それを匂わせられれば、私が我慢するしかなかった。
でももう王子を愛したくはないから、婚約破棄は私の切り札になったのだ。
私は、私に蹴られた痛みに蠢く王子をちらりと見てから、遠巻きに見ている生徒たちに「エリックを踏んだせいで靴が汚れたわ、拭ける者はいないの?」と言った。
私の取り巻きになりたい者たちは、我先にと媚びたようにひざまづいて、私の寵愛を受けようときた。
「シャーロット様、わたくしのハンカチをお使いください!」「お美しいシャーロット様の靴裏をぜひわたくしのスカーフでお拭きさせてくださいませ!」
私は彼らに「エリックは私の婚約者だけど、未来の王様だからと言って少しプライドが高いみたいだから、みなさんできちんと教育してあげなさい。でも、大きな傷はだめよ、死罪になってしまうもの。」と笑って告げた。
彼らは、1回目は私が「貴族に相応しくない身の程知らずの下女を教育してあげなさい」と言えば私に媚びたい生徒たちがこぞって平民女に嫌がらせをした。
だから。
私と王子の身分関係を正しく理解している生徒たちは、その日からこぞって王子に嫌がらせをすることになった。
私は今度こそ救われたのだ。