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インタビューを受け、予想外の激辛チョコも食べる冴子。

今回、忙しくて投稿時期がずれました。

実はこのシリーズ、これを含めてあと残り4話で完結になります。1話、すごく短いのもありますが最後までお付き合いいただければと思います。

ドアを開けると甘い匂いが漂ってきた。

 また、遊里がお菓子を作っているのだと思う。

まあ、おいしいものが食べられるので私としてはうれしいけれど。

「ただいま。」

キッチンにかかる暖簾を上げて、声をかける。

「おかえり、冴子。」

見るとテーブルの上にはオーブンから出されたクッキーが広がっていた。

なんの思いつきなのだろうか?

無駄に作るような事はしない遊里だし。

「夜になにをしてるのよ。」

「クッキーを作っているの。」

「見ればわかるわよ、夕飯を食べて寝ようって時に?」

「明日、持っていくからよ。今晩作っておいてね。」

「誰に。」

「仕事の知り合いよ。」

「ふーん。」

私の知っている人間ではないようだ。

「お夕飯は?」

「お風呂出てから食べる。」

「じゃ・・・」

「クッキーは食べないわよ。」

言われる前に言った。

「冴子・・・」

残念そうに言うけど、夜にクッキーなんか食べるわけないじゃない。

おやつよ、おやつ。

何でお腹が空いているのにおやつを食べなきゃいけないのよ。

私はキッチンから浴室に移動した。

今日は結構歩いたからお風呂はいい感じ、入浴剤も温泉の素で温まる。

クッキーなんてを作ってる遊里を見るに、お夕飯はあまり期待できないかもしれないと思いながら湯船に浸かった。

ふくらはぎがパンパンだわ、お湯の中で揉む。

あと手、腕。

チェロを弾くより、色紙にサインをしていた時間の方が長かった気がする。

CDショップでのアルバムの販売促進イベントというものに参加したのである。

 笑いたくもないのに笑うのも疲れるし・・・こんなこと言ったら遊里に怒られそうだけど(苦笑)。

私は疲れを取るためにいつもより長めにお風呂に入った。



次の日、朝起きると遊里はもう居なかった。

朝早い仕事らしい。

今日の私の仕事は、インタビューが2つばかり。

演奏はしばらく無しの、プー太郎である。

そろそろ、師匠から打診を受けている仕事を真剣に考えないといけないらしい。

仕事をしないと食べてはいけないし。

遊里は食べさせてくれるっていうけど、この歳で無職でヒモはちょっと・・・イヤ。

キッチンのテーブルの上にはシジミ汁&お粥と、包装されたクッキーが置いてある。

私の分らしい・・・しかし、遊里は誰に作っていたのか。

具体的な名前が出てこない感じだと、私と面識がない仕事関係かしら。


 ・・・別に、ヤキモチとか焼いてるわけじゃないんだからね。


一人、朝食を食べる準備を始めた。

ほとんど温めてしまえば食べられるもので助かった。

温めすぎないように、ちゃんと鍋に付いている。

いつぞやは何度もお湯を沸かしすぎてヤカンのお湯がなくなったという事もある私だから・・・。

あれは、音楽に入り込んじゃったからだわ。

そうそう、と自分に言い聞かせる。

そう思ってるとぶくぶくとお粥がまずい状況になった。

「あっ!」

ちょっと考えごとをしただけなのに、もう。

な、なんとか大丈夫、よね・・・。

シジミ汁も止めて、と。

「頂きますー。」

無線でとばしたキッチンにあるTVを付ける。

朝からろくでもない番組を見るのはイヤなのでN○Kに回し、天気を確認した。

今日も快晴、少し乾燥はするらしいけれど。

何を着ていこうか? 

普段着でいいって言ったけど、さすがに休日バージョンのスエットはマズいか(爆)。

向こうで衣装とかスタイリストは用意してくれないみたいだし。

ファン受けとかは狙ってないから、読者がガッカリしない程度の服にしよう、うん。

あとは、写真よね。

あのレンズを向けられると、どうしてもひきつってしまう・・・どうしても克服できない目下の問題。

 遊里だって10枚に1枚くらい撮れるか撮れないかの写真だもの。

インタビューを受けている時に撮ってくれればいいんだけれど。

そっちに集中しているので、カメラを意識しなくてもいいから。

 ・・・うむ。

やっぱり、お粥もシジミ汁も美味しい。

美味しいものの前ではそんな心配も、食べている間は風のように流れて行った。



「今日はよろしくお願いします。」

インタビュアーの女性はにこやかに笑った。

「こちらこそ、よろしく。」

私も営業スマイルで対応する。

インタビュー場所はおしゃれな喫茶店で、ガラス張りの店内は外からの光を存分に浴びていて明るく暖かい。

驚いたことに貸し切りらしく、営業時間であろう時間にもかかわらずお客は居なかった。

「小日向さんは甘いものはお好きですか?」

インタビューの内容を書いた紙を準備しながら一つのテーブルにあるイスに座った私に聞いてきた。

「ええ、好きですよ。」

「よかった、ここのシェフはパティシェも兼ねてるんです。今日はすごく美味しいケーキをいただける予定なんです。」

 ほうー、インタビュー特典。

「普段はこういうお店とかはこられるんですか?」

「来ますよ、自分で作るよりは美味しいので。」

作るのは面倒くさいし、それにうちには専属の名パテシェが居るし。

「お料理とかはされます?」

もしかして、インタビューはもう始まってる?

「多少は。」

そう言い、濁してごまかす。

下手なことは言えない、誘導っぽい質問もあるし侮れないわ。

「イメージだと、お料理もお得意そうに見えます。」

「よく言われます、でも人が思っているような感じではないのですけど・・・」

「主に日本を活動の場にしているのは何かあるんでしょうか?」

「日本の方が落ち着くから、というのもあります。もちろん外国からの仕事も来ているので調整できれば受けるようにはしています。」

「世界に羽ばたく、ではないですが野望とか目標とかありますか?」

「あまり大げさなものはなくて、好きなチェロを一生弾ければいいかなと。」

「無欲ですねー。」

意外そうに言われる。

別に有名オケとかと一緒にやりたいとか、あの有名ホールで演奏したいという気が沸かないだけ。

 まあ、演奏家の意識としてどうかな?という感じで、同業者にふざけるなって怒鳴られそう。

「先月出されました、CDですがどどういった感じなのでしょうか?」

「メジャーなものじゃなく、マニアックなものを集めてみました。知らないけれど、一度聞くと忘れられないような曲を。」

「少し、私も勉強してみたのですが確かに聞かない作曲家の名前で、音源も少ない曲ばかりでした。」

 私はひねくれてるからと、心の中で言ってみる。

知られた曲じゃ面白くないし、他のアプローチでCDを作ってみたのだった。

師匠は私らしいって苦笑していたけどね。

「確かひとつ有名なチェリストの代表曲も入っていましたね、プレッシャーとかありましたか?」

そんなものは、あまりない。

「おこがましいかもしれませんがオマージュを込めて、選曲して弾かせて頂きました。」

パシャ、パシャとシャッター音がし始める。

いよいよ写真を撮り始めたようだった。

とりとめのないインタビューが続く、とりあえず私は早くインタビューが終わればいいと思いながら受け答えをした。

休憩30分を挟んでその後も1時間インタビューを受けた。

ロングインタビューじゃない、疲れた。

最後に、美味しいケーキと紅茶が出てきたからいいけど。

確かにほっぺが落ちそうなくらい美味しいケーキだった。

遊里とタメを張れるわ。

「お疲れさまでした。」

「お疲れさまです、こちらこそありがとう。」

お店にサインを頼まれたので色紙に書きながら、答える。

「正直言うと本当はもっと、怖い人かと思っていたんですが。」

「世間での私の見方がそうなのだから、そう思うのも仕方がないわ。」

色紙を手渡す。

私だって衝突したくはない、けれど相手がなぜかつっかかってくるんだもの。

逃げるのは私の生き方に反する。

「でも、聡明な方であるのはわかりました。」

聡明って・・・そんな誉め言葉、初めてもらったわ。

私に似合いそうもない言葉なのに。

我が強いとか、生意気だとかそういう言葉は常時受け取っているけど。

「今度、生で聞ける機会があったら足を運ばせて頂きます。」

「強制はしないから、お好きなときに。」

最後にパシャリ。

カメラマンはなんの注文も付けなかったので、とりあえず写真らしい写真は撮れたのだろう。

「掲載された号は送らせて頂きます。」

「ありがとう、楽しみにしているわ。」

やっと一つ目の取材は終わった。

しかし、本日の仕事はまだまだあるのである。

ため息を付いて、次の指定された場所へ向かった。



「郵便、来ていたわよ。」

CDショップにアニメCDを買いに行って帰ってきたところで言われる。

「この間の取材記事が載ってる雑誌かしら。」

早くCDを聞きたいところだけれど雑誌を見たそうにしている遊里にねだられて先に封を切る事にした。

「どれよ、どれ?」

ソファーに座って、封筒をあけようとする私の背後から急かす。

「落ち着きなさいよ、遊里。」

バシッと本で頭を叩いた。

「だって、早く見たいじゃない。」

「もうー・・・」

ぱらぱらとめくる。

「あ、そこ。」

はい、はい。

白黒かと思ったら、センターカラーのようだ。

「5pもあるよ。」

「長々と答えたからよ、せっかく答えたインタビューを大幅にカットされていたら落ち込むわ。」

私が気にするのは写真だ、写真。

うむ、まあまあか。

正面切ってというのはないけれど、いい角度だわ。

「正面から撮るのはあきらめたね、このカメラマン。」

遊里は苦笑して言う。

「インタビュー中、何枚も撮っていたけど何も言わなかった。」

「冴子のこと、人づてで聞いてたんじゃないかな。撮りにくいって。」

「そうかしら。」

「そうだね、きっと。」

そういうと私の首に抱きついてきた。

「遊里?」

「冴子って、やっぱり美人だよね。」

私が見ている記事を指さす。

「そう? 否定はしないけど。」

「・・・冴子らしいなぁ。」

遊里の唇が私の耳をかすめた。

「・・・もしかして、こんなので欲情したの?」

「うん。」

即答なの?(呆)

「まだ、明るいわよ。」

「いつもあまり気にしないのに、今日に限ってそんな事を言う?」

耳たぶを甘噛みされる。

どうしてもその気、らしい。

「じらしてみたのよ。」

私は首に回された遊里の腕をつかみ、ゆっくりほどいた。

「ひどいね、弄んでない?」

「すぐにOKしたら、つまらないじゃないの。」

振り向いて遊里の顔を見る。

「冴子。」

「そんなに急がせないでよ、遊里。」

私は笑うと自分から唇を重ねた。




一通り手順を踏み、熱くなって頂上にのぼった心身は落ち着いてきていた。

指を絡めて愛撫を受ける私。

落ち着いて来たけれど、遊里の愛撫に徐々にまた反応しはじめている。

身体は正直とよく言ったものである。

「遊里。」

「なに?」

「そういえば、クッキーって誰にあげたの?」

後でわかったのだがクッキーを作っていたのがホワイトデーの前日だった。

「冴子にしては珍しく気になるの?」

遊里は顔を上げる。

「少しね。」

「もしかしてヤキモチ?」

「うぬぼれないでよ。」

うにーっと空いている片方の手で遊里の頬をつねる。

「いたたっ・・・たんま! 冴子、痛いってば。」

上体を反って痛がる。

ムカつく事を言うからよ、まったく。

私にそういうことを言ったらこうなるの分かっていうんだから。

身体の上から蹴落としてやろうかと思ったけどそれは止めた。

「痛いよ、凶暴なんだから。」

「で? 誰にあげたのよ。」

下から聞くのも微妙な位置だったけど。

「○さんのところのティーンエイジ達よ、まだ中学生。バレンタインにもらったからそのお返しに。」

「中学生もマセてるわね。」

「別に今は友チョコもあるくらいだから、お世話になってるからという感じじゃない?」

・・・遊里はわかってない。

時々、鈍感だと思うのは私だけじゃないはず・・・私にだって分かるわよ。

ま、そんな自覚がないからわき見もないんだろうけど。

「あ、そういえば冴子にチョコもらってないのを思い出した。」

そんなこと思い出さなくてもいいのに・・・。

「色々もらったのなら別に私からもらわなくてもいいじゃないの、食べ過ぎると良くないし。」

「本命からもらえないって悲しくない?」

「常時一緒にいるから、ピンとこなかったわ。」

本当に。

バレンタインデーって、そもそもチョコをあげるようなお祭りじゃないじゃない。

聖バレンティヌスの殉教日だし。

チョコじゃなくて、本かバラを送るとか聞いたことがあるわ。

「チョコ欲しいー。」

「今更なによ、諦めなさいって。」

なんだか、クッキーからチョコの話しになり、雰囲気が変わってしまった。

「私って、愛されてないんだ。」

「・・・いきなり何、言うのよ。」

気を引くギャグなのはわかるけど。

「だって、そういうイベントは大事じゃない?」

再び両手を私の左右に付いて、顔を近づけてきた。

「そういう事に振り回されるのが嫌いなのよ、私は。」

「冴子ってそういうタイプだからね、仕方がないか。」

大げさにため息をつかれた。

少しムッとする。

「世間にはもっといい子が居るんじゃないの?」

「あ・・・怒った?」

地雷に触れたのが分かったらしい、私もあまりしつこいと爆発する。

でも、今日は久しぶりだから我慢をしてみる。

「だいぶ、地雷に触れかけているわよ。」

「まじめに? マズいな、ごめん冴子。」

すぐに謝る。

謝れば私の機嫌が直ると思っているのだ、遊里は。

・・・まあ確かに(笑)、80%くらいは大概に折れるけど。

話題によっては許さない場合もある。

「美味しいシジミ汁を作ってくれるなら機嫌を直してもいいわ。」

「やっぱりそれなの?」

遊里が苦笑する。

「それしかないでしょ? 知ってるくせに。」

私に合う、美味しいシジミ汁は遊里にしか作れない。

私とつき合うには最低条件として、美味しいシジミ汁を作れないと眼中にも入らなかった。

「チョコはもらえず、シジミ汁は作るのね。」

「そんなに欲しいなら後であげるわよ。」

チョコにこだわるわね、バレンタインを過ぎたらただのチョコじゃない。

過ぎてからあげても意味をなさないと思うけど。

「絶対、冴子がくれるのは定番の98円の板チョコよね。」

「・・・・・・」

考えていたものを言い当てられて私は黙った。

もっと、いいものを期待しているのかしら。

「黙ったってことは、当たり?」

「・・・チョコはチョコじゃない。」

多くは言うまい。

まあ、そこはチョコのあげ方を変えて盛り上げよう。

「それはそうだけど・・・」

納得がいかなさそうに言う。

ベッドでチョコをあげるのあげないのと言い合うことでもない。

「シジミ汁。」

私は空いている片手を遊里の首にかける。

「今から?」

「飲みたいの、作ってくれるでしょ?」

飲みたいからなのか、遊里を好きでやっているのか分からないけど(ひどい)囁いた。

「キス。熱烈なキスしてくれたら作ってあげる。」

「いいわよ、キスぐらいなら。」

唇が重なる。

そのあとは遊里の方が積極的になった。

私にしてって言ったくせに。

おかげで顎が痛くなるほどキスをする。

止めるタイミングがつかめないほど、遊里の舌は離してくれない。

 ・・・でも、いつも思うのだけれど遊里とのキスは気持ちがよかった。

落ち着いた気持ちがまたすぐに上がってくる。

「ゆ、うり・・・」

自分の声が声になっていないのがわかる、分かっているけれど自分ではどうにもならないのも分かっていた。

キスをしながらも遊里が笑うのが雰囲気で分かる。

「こういう冴子が見られるのが特典よね。」

やっと唇を離すと、言った。

「・・・ムカつく・・・」

「口が悪いわね、冴子。」

そう言いながらまたキスをする遊里。

「でも、あんまり従順じゃ小日向冴子じゃないもの。多少、そういう毒があってもいいわ。」

「遊里って、意外とS?」

「冴子相手なら・・・ね。」

私以外じゃなくても言いそうな気がする。

「キスしたんだから、ちゃんと作って。」

「・・・いきなりソレ? ムードも何もないじゃないの。」

「シジミ汁が飲みたいの。」

「私は冴子としたいんだけど。」

「イヤ。飲んだあとならいいわ、考えても。」

「考えるの?」

唖然としたように言う。

私の中ではシジミ汁>遊里だけど、遊里の中ではシジミ汁<私らしい。

それじゃあ、当然の態度よね(笑)。

でも、意見は変えるつもりはないし。

「えー」

「ずっとしてたじゃない、まだするつもり?」

「まだ、満足してないのに。」

これ以上まだするつもりなのか・・・。

確かに、キスでちょっとは盛り上がってきたけどシジミ汁は飲みたい。

「シジミ汁、作って。」

強く一言、要求。

ぐっと一瞬詰まるものの、やはり私のお願いは拒否出来ないようで拳を握りしめてから『いいわ』と言った。

もちろん私はやった!と大喜び。

ため息を付きながら遊里は上着を羽織って部屋から出ていったのだった。



「はい。」

遊里が仕事から帰ってきたので私は本日買ったチョコレートを渡した。

さすがに板チョコはかわいそうなので有名店のチョコレートである。

「・・・おお、ちゃんとしたチョコだわ。」

「失礼ね、悪態をついてもちゃんと買ってくるわよ。」

でも、意地悪をしてすごく辛いヤツにした。

食べたらどうなるかしら、楽しみだわ。

「ね、食べてもいい?」

「夕ご飯は?」

「食べて来たけど、これは別腹よっ。」

よほど嬉しいのか、顔がだらしないくらいに緩んでいる。

みっともないったら・・・。

まあ、中のチョコレートの味を知ったらと思うと微妙。

「いいけど、お茶でいい?」

「いいわ、それでも。」

「じゃ、手洗って来て。うがいもね。」

「はいはいー」

完全に浮かれているようだ、よほど私にチョコレートをもらって嬉しかったらしい。

子供のように急いで洗って来て、リビングのソファーに

着席した。

そそくさと包み紙を開ける、トリフのようなチョコが4つ。

有名店のチョコは意外と高いようで、これで1500円以上はする。

さすがにあまり買わない私はびっくりしたものだった。

しかも、チョコなのに激辛ってどうなのよ。

お茶を準備してもしもの時のために(笑)待っている。

「いただきます。」

何も拝まなくても・・・。

 パクリ。

私は知らず知らずのうちに少し前かがみで遊里を覗いてしまう。

しかし、全く遊里には変化がない。

「?」

口を動かし、チョコを食べているのに。

 おかしい。

「どう、おいしい?」

恐る恐る聞いてみたり。

「うん。」

口の中にチョコが入っていながら言い、うなずく。

「・・・・・・」

ロシアンルーレットだったかしら? 確かみんな同じだって店員さんが言ってたのに。

ゆっくり食べて、お茶を飲む。

その様子はあわてたものでもなく、冷静そのもの。

遊里の味覚がおかしいのか、あまり辛くないのか・・・。

「食べる?」

遊里が差し出す。

私は少し、考えてから確認したい衝動にかられてトリュフ型のチョコを1個もらって食べた。

「・・・・・・・」

噛んで口の中で壊した瞬間、口の中に辛さが広がった。

動きも思考も止まる。

「*△○*¥■*!!!」

言葉に表せない言葉というのはこういうことなのだなと思った。


 激辛!!!!


買ってきたチョコはやはり辛かった!

それなのに遊里は平然と食べているし! なんなのよ!!

咳込んだので思わず、遊里に出したはずのお茶を飲み干す。

けど、程々に温いお茶でものどの異変を癒すことは出来なかった。

「冴子、大丈夫?」

いたずらされた遊里が、心配して私の背中をさする。

絶対、変。

こんな辛いチョコを平然と食べられるなんて・・・。

「ゆ、・・・遊里は大丈夫なの?」

まだ、痛い。

辛いのを通り越して痛い。

「この、辛いチョコ?」

チョコの箱を持ち上げて言う。

私はうなずく、情けないことに咳こんで涙目である。

「辛いものは好きなのよ、冴子知ってると思ったんだけど・・・」

苦笑いをする。

・・・でも、限度って言うものがあるでしょうが!

私も辛いのは苦手じゃないけど、これは許容範囲外よ。

有名店もチャレンジャーだわ。

「負けたわ・・・」

「意地悪でくれたんでしょ?」

「そうよ。」

「だと思った。でも私には効かなかったわよ、だって冴子がくれたチョコだもの。」

「慰めてくれなくてもいいわ。」

どっさり、ソファーにもたれる。

「まあ、あのやりとりで普通のチョコをくれるとは思っていなかったからね。何かひねってくると思ったら・・・」

まんまと私は遊里が思っていた事をしてしまったわけだ。

ちょっと、安易すぎたかと反省する。

「罰が当たったってわけね、私。」

「まあ、冴子の予想外の辛さだったみたいだから飴とか牛乳とかヨーグルトとか食べたら?」

「・・・しばらく、じっとしてる。」

じっとしていても、辛さがジンジン身体を熱くさせてゆく。

辛いのもあるけど、血行も良くなりそうだわ(苦笑)。

「甘いチョコも、あるけど?」

ひょいと、遊里は板チョコを取り出す。

「・・・・甘いの?」

「チョコは基本的には甘いでしょ?」

「基本的にはね・・・」

嫌みなのか、遊里。

「一口もらうわ。」

口の中がまだ、ひりひりする。

お茶を飲んでも全然、違和感も取れない。

「?」

遊里が隣に座ってくる。

「チョコ、くれるだけでいいのになんで隣に座るのよ?」

「え? まあ・・・手順があるのよ。」

手順なんか必要か? と思ったけどもうどうでもいい。

彼女が何か考えがあるのはわかったけど。

パキッ。

板チョコが割られる。

私は手を伸ばす、遊里はその手をどけた。

「んー。」

「・・・・・・・」

がっくり。

うちらは、新婚、またはバカップルか!?

「・・・何のマネよ。」

「ほら。」

私は普通に、チョコが欲しいんだけど。

遊里は自分の口にチョコのかけらをくわえている、私に食べろといっているらしい。

親鳥から餌をもらうひな鳥じゃないんだからやめてよ。

「やってみたかったのよね。」

「いい年して、そんなことしないでよ。」

「ほらほら。」

引かないらしい。

私もいい加減、この辛さは中和したい。

でも、遊里のこれは・・・ちょっと躊躇する。

流れの中でなら躊躇しないこともないけど。

「もうー、分かったわよ。」

ずっとやっていそうだったので仕方がなく(?)もらうことにした。

たぶん、このままなだれ込んでしまうのだろうと思う。

でなきゃ、遊里はこんなことしないもの。

 はー、余計なことはしなきゃ良かったと反省した。

辛い思いもしなくて良かったし、こんなバカっぽい(今は)しなくても良かったのに。

私は顔を近づけて、遊里がくわえているチョコを受け取る。

甘い、いつものチョコの味が舌に広がった。

これよ、これ。

本来のチョコの味。

ホッとしていると遊里が私の唇をふさいできた。

私が食べてるのに。

「これがほんとの甘いキス?」

「・・・確かに。」

そう言われればそうね(苦笑)。

口の中にチョコがなくなり、今度は遊里の舌が私の口の中にある。

遊里は私が反撃しないことをいいことに舌を絡めてきた。

いたずらに辛いチョコをあげた手前、私はそのままにすることにした。

 どうせ、最後にはいつも遊里の思い通りになるのだから。

サービスよ、サービス。

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