伝説の武装の使い方
もうもうとした土煙が収まると。
床で魔王が膝を抱えながら、小動物のようにプルプル震えていた。
勇者の攻撃の余波か、魔王の黒のローブはボロ雑巾のようになっていたが、命には別状はないようだ。
そして勇者はどこにもいなかった。
床に深く残る勇者の攻撃痕を見ると、魔王に当たる直前でなぜか微妙に攻撃方向が変わり、床を砕きながらそのまま室外に飛び出していた。
外は千mを超える崖であった、勇者はそのまま崖下へと落下していったのだろう。
床には、ひっそりとバナナの皮が落ちていた。
「・・・また死んだかな、あいつ攻撃とか殺気が乗ったものは無意識で防ぐけど、意識がとんでるあの状態だと、すぐ事故死するんだよな」
「前回の死亡原因は、頭上からの花瓶でしたかしら」
「それは前々回、前回は排水口に落ちて流されただな。どうせ棺桶入れれば勇者能力で復活するけど、死・に・す・ぎ」
「いつもの事キル」
「宝が全部ふきとんじゃったよぉ、ぐすり」
「下は大きな河ではなかったですの?」
「そうだ、早く回収しないと勇者が流されて、見つけ出すのが面倒くさくなる」
「まだ斬り足りないキル、キル、キル、キル」
「宝ぁ、お金ぇ」
と勇者パーティが崖下を見ながら騒いでいた。
「ここから勇者の場所まで行くのは、時間がかかるなぁ」
ハクが主を失った棺桶を担ぎ直しながら、そうつぶやく。
高さ千m、通常の移動経路で行くと、目的地まで10km以上はあるだろう。
「神鎧を使えば良いですの」
クロクロが、天を指し示し不穏なワードをしゃべる。
神鎧、それは世界に十二騎しか存在しない伝説の武装。
神が作りしアーティファクトであり、一騎で国を滅ぼせるとか言う・・・そういう代物だったはずだ。
「えーあれ窮屈なんですぅ」
「あれだと獲物を斬った実感が感じられないキル」
アカネとアオイは、その伝説の武装に対し文句たらたらである。
「仕方ないだろ、行くぞ」
アカネとアオイの頭をポンポンとたたき、ハクはそう言った。
勇者パーティは円陣を組むと、古い装飾の施された半透明のメダルを取り出し天にかざした。
「知恵を司るアテーナーの力を示せ」
「戦いを司るアレースの力を示せキル」
「愛と美を司るアプロディーテーの力を示せぇ」
「純潔を司るアルテミスの力を示せですの」
「「「「神鎧降臨!」」」」
彼らがそう叫ぶと、天にかざしたメダルから眩しい光が発生する。
メダルの光は天を貫き、空中に4つの複雑で巨大な立体魔法陣が描き出される。
その魔法陣が星のように光輝くと、その光の中から染み出てくるように、金属製の人型が現出してくる。
その人型の大きさは約8m、巨人である。
現出した数は四騎。それぞれ用途が違うのか全て違う形状と装備をしていた。
伝説のアーティファクトが四騎、その戦力は魔軍全軍でも滅されかねないレベルである。
こいつら何と戦うつもりなのだ?
その頭のおかしいレベルの物体が、空から静かに降りてくる。
巨大な盾を持った騎士のような白い巨人は、賢者ハクの元に・・・
無数の剣を装備した攻撃的な赤い巨人は、剣士アカネの元に・・・
細身で美しい女性のような青い巨人は、武闘家アオイの元に・・・
月輪のような弓を背負った黒い巨人は、聖女クロクロの元に・・・
地上に着地した巨人は、従者のように彼らの前に膝を折り傅く。
巨人達の胸元が開き光を放ち、光りに包まれた勇者パーティの面々が吸い込まれていく。
勇者パーティを収納し胸元が閉じると、息を吹き返すように巨人は立ち上がり空中に浮上する。
勇者の棺桶は白い巨人がしっかりと握られており。
まるで白い巨人の専用武器のようであった。
「じゃあ、また近いうちに遊びに来ますね」
拡声されたハクとおぼしき声が響くと、四騎の伝説の神鎧は、崖下へ向かって爆音と光の筋を残しながら超高速で飛び去っていった。
残された魔王は彼らが去っていくのを、呆然と見ることしか出来なかった。
というか移動するだけに使ったの?伝説の武装を?意味がわからなかった。
勇者パーティが去った後、魔王は散らかっていた書類を一枚拾い、その裏に何かを書き、転がっていた机の残骸にぺたりと貼り付けた。
ため息を一つすると、魔王は転移ゲートを開き何処かへと消えていった。
貼り付けられた書類の裏には、こう書かれてあった。
「モウイヤジャ、魔王ヤメルノジャ」
魔王の心を折って、プロローグぽいもの終了




