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異世界一円紀行 ~魔法のコンロと100円のフルコース~  作者: みなと劉


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4. 伝説の青き聖域(ブルーシート)と百円の夜

 街を離れ、三人は次なる目的地「深緑のサラダ街道」へと足を進めていた。

 周囲は昼間とは打って変わって、いかにもファンタジー然とした鬱蒼とした森が広がっている。時折、草むらからガサリと音がし、凶悪な魔獣の唸り声が聞こえてくるような、冒険者にとっては気の抜けない危険地帯だ。

「そろそろ日が暮れるね。今日はこのあたりで野営にしようか」

 トールが足を止めると、ライラックは待ってましたと言わんばかりに背負っていた巨大な斧(調理兼護身用)を地面に置いた。 「野営! ってことは、キャンプ飯だよね!?

 トール、外で食べるご飯は家の中の三倍おいしいって、近所のおばあちゃんが言ってたよ!」

「それはこの世界の定説ですね。では、設営の準備をしましょう」

 リーマルがいつものように無表情で一歩前に出ると、彼が背負っている(見た目以上に容量がある)マジック・リュックサックから、次々と「伝説の武具」を取り出し始めた。

「……リーマル、それは?」 トールが尋ねると、リーマルは誇らしげに一枚の鮮やかな青い布を広げた。

「これは極東の島国で、聖なる儀式『ハナ・ミー』の際に地面を清めるために使われるという聖遺物……通称『ブルーシート』です。防水・防汚・防魔を兼ね備えた優れもの。これ一枚で、どんな過酷な地面も一瞬で快適なリビングへと早変わりします。ちなみに近所のホームセンターの特売で『20円』でした」

「20円で買える聖遺物か……相変わらずこの世界の流通はどうなってるんだ」

 トールは苦笑しながら、続いてリーマルが取り出した「魔導LEDランタン(10円)」を近くの枝に吊るした。さらに、パッと広げるだけで完成する「ワンタッチ・ポップアップテント(特価55円)」を設置すれば、そこには異世界の森の中に突如として、現代日本のキャンプ場のような一角が出現した。

 そこへ、森の奥からバキバキと木をなぎ倒す音が響いた。

 現れたのは、この森の主とも呼ばれる「キラー・ワイルドボア」。巨大な牙を持ち、鋼のような毛に覆われたランクBの魔物だ。

「グルルル……!」 猛り狂う魔獣を前に、トールは一瞬身構えたが、ライラックは逆に目を爛々と輝かせた。

「トール! あれ、最高級の『イノシシ肩ロース』が歩いてきたよ!」 「……そうだね。鮮度は抜群だ。ライラック、仕留められるかい?」 「任せて!

 ご飯の邪魔をするやつは、ミンチの刑だよ!」

 ライラックが風のような速さで跳躍し、斧を一閃させる。魔獣が断末魔を上げる暇もなく、戦いは数秒で決した。

 普通ならここから解体に数時間はかかる重労働だが、ここでもリーマルの調達力が光る。

「安心してください。以前10円で購入した『電動式・超振動マルチナイフ』の魔改造版を用意しています。これを使えば、三枚おろしまでわずか5分です」

「助かるよ。よし、今夜のメニューは『獲れたてワイルドボアのネギ塩焼き』と、リーマルが5円で仕入れてきた『フリーズドライの味噌汁』だ!」

 カセットコンロ(魔石式)に火が灯り、フライパンの上で肉が踊り始める。

 ジュワッという快音とともに、ネギとごま油の香ばしい匂いがブルーシートの上に充満していく。夜の森の冷たい空気が、最高のスパイスとなって食欲を刺激した。

「いただきまーす!」 ライラックが肉を頬張り、幸せそうに頬を緩める。 「はふ、はふっ……熱い、けど止まらないよ!

 この肉、野生の力強さがあるのに、味付けが完全に現代のオシャレ居酒屋だよ!」

「このネギ塩ダレ、実は隠し味にリーマルが買った『1円のレモン果汁』を使ってるんだ。さっぱりしてて、脂っこい肉には最高だろう?」

「ええ、そのレモン果汁も、賞味期限が明日までだったのでタダ同然で叩き売られていたものです。コストパフォーマンスとしては満点ですね」

 三人は、20円のブルーシートの上で、10円のランタンに照らされながら、数円単位の食材を最高のご馳走に変えて楽しんだ。

 周囲の暗闇には、まだ多くの魔物が潜んでいるかもしれない。しかし、この100円足らずで構築された「現代的な聖域」の中だけは、どんな王城の晩餐会よりも豊かで、温かな時間が流れていた。

「あー、お腹いっぱい……。トール、明日の朝ごはんは何?」 「まだ寝る前だよ、ライラック。……まあ、3円で卵が買えたら、フレンチトーストでも作ろうか」 「賛成!

 リーマル、明日の朝までに卵、安く仕入れといてね!」 「善処しましょう。ちょうど明日は近隣の村で『卵1円セール』があるという情報を掴んでいますから」

 異世界の夜空には満天の星が輝き、ブルーシートの上では、安くて贅沢な冒険者たちの笑い声がいつまでも響いていた。

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