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シェイラが魔法を使ったときよりも、はるかに大きな衝撃が彼女を襲った。驚きは一瞬で、すぐに胸の奥から怒りが噴き上がる。視線は、首元に鋭利な刃を突きつけるかのように研ぎ澄まされていた。
今まで床に縫い留められていたように動かなかった足が、強引に前へと踏み出される。二人の距離は、確実に詰まっていく。
「あなたがどうして…ラグトの名を知っているの!?」
「どうしてだと思いますか」
「わからないから、聞いてるのよ!」
問い詰めているはずなのに、シェイラの態度は変わらない。その余裕が、焦りを煽る。
「答えて!どうして知ってるの!」
「あの花が、見えますか」
空気を読まないほど落ち着いた声だった。治まらない怒りと動揺を必死に押さえ込み、シェイラが指差した先へと視線を向ける。
そこには、テーブルの上、ガラスドームの中で静かに咲く花があった。さらにその周囲にも、同じ花が点々と咲いている。違いは、触れられるか否か、それだけだった。
「花がなんだって言うのよ!見えるわよ!」
「なんの花ですか」
「そんなのどうでもいいから、ラグトのことを教えて!」
「では、答えてください。あの花はなんですか」
「もう……っ!あの花はタイムでしょ!」
苛立ちを隠そうともせず吐き捨てると、シェイラはふいに視線を逸らした。
この場にいるもう一人の存在、元野良猫へと身体の正面を向けた。整った顔立ちの男は、彼女と同じテーブルを、気だるげに眺めている。
「アルス、何か見えますか?」
答えをわかっていて投げかけられた問いだと察し、アルスは小さく息を吐いた。
「はぁ……花なんか、見えねーよ」




