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警戒している彼女とは別に、ソファで寝転んでいた家猫と化した男が、臨戦態勢にはいっていた。
「おい! お前、絶対に昔の俺思い出して笑っただろ。さっきからチラチラこっち見やがって、バレバレなんだよ!」
「あ、バレちゃいましたか。まあそんなこと、今はどうでもいいじゃないですか」
「どうでもよくねぇ! 人を馬鹿にしやがって、勝負だ!」
「はいはい。あとで相手してあげますから、大人しくしててください。それに、どうせあなたが負けるんですし」
「はぁ!? いつも手加減してやって─」
「ほら、静かに」
彼の唇をなぞるように、空中で指を滑らせる。その瞬間、言葉は途中で断ち切られ、まるで糸で縫い留められたかのように、彼の唇は固く閉ざされた。
突然の出来事を、鏡越しに見ていた少女は、信じられないものを見るように目を見開く。
「……っ、魔女」
ぽつりと零れた言葉が、店内に落ちる。
(魔女、ね)
「人より少し、魔法が使えるだけですよ。魔女なんて呼ばれるほどじゃありません。ただのフラワーショップの店員です」
「でも、あなたが…私を、ここまで連れてきたんでしょ?」
「いいえ。わたしではありません」
「…じゃあ、どうして」
少女の視線は定まらず、声も揺れている。混乱の渦中にいるのは明らかだった。本来なら、落ち着かせてから話すべきなのだろう。
でも、この先を聞くのなら、その手順に意味はない。彼女がここに来た理由、それ自体が重要だった。
「それよりも。あなた、ヴィラスの森に何をしに行ったんですか?」
「え…それは、ただ迷っただけよ」
「それはありえない。迷ったにしては装備が軽すぎます。それにあの森の周囲に、立ち寄るような場所はありません」
「ち、違うわ。ただの……散歩よ」
「散歩、ですか。あそこは、最寄りの村の人ですら近づかない場所です。他の地域でも、立ち入りを避けるべき場所として知られていると聞いています」
少女は、さきほどまでの動揺を押し殺すように、無理に平静を装っていた。その不自然さが、かえって目につく。
「死者の森」
「─っ!」
言葉を失った少女の反応を見て、確信する。




