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言い聞かせるように問いかけても、カトレアと呼ばれた存在は知らぬ存ぜぬといった様子である。
「あ、あの、その方は一体…」
「驚かせてしまってすみません。彼女は、春の妖精カトレアです」
妖精という言葉に、アマリリスは言葉を失った。
無理もない。レンツ王国は、春の妖精の加護によって守られている国だ。豊かな土地、潤沢な資源、四季折々の自然。そのすべてが加護の恩恵によるものだと、幼い頃から語られてきた。
他国がこの地に容易く手を出せない理由も、そこにある。だが妖精は滅多に姿を現さず、ましてや個人に加護を授けるなど、伝承の中の話に等しい。近年、王国の加護が弱まりつつあると囁かれている今、目の前の光景はあまりにも重い意味を持っていた。
「ほら、カトレア。アマリリスさんが驚いてしまったじゃない」
『まあ、わたくしほど偉大な存在なら、驚いて当然だわね。そこの人間、よく目に焼き付けておくことね』
「まったく反省していませんね。小さいのに、態度だけは立派です」
春の妖精とシェイラの間で繰り広げられる小さな応酬を、アマリリスはただ呆然と見つめていた。完全に蚊帳の外だ。
「もういいです。後であなたには話があります。カトレア。それより、アマリリスさん」
「は、はい!」
思わず間の抜けた返事をしてしまったが、気にしている余裕はなかった。
「ラグトさんに逢わせると約束しました。ですがその前に、あなたにしてもらわなければならないことがあります」
「えっ、と…なにをすればいいのかしら」
「あなたが身につけているネックレス。それを、わたしに渡してください」




