1
爽やかな日差しの中を歩くこのひとときは、贅沢だ。
今日摘んできた花から、蜂蜜を思わせるやわらかな香りが、ほんのりと立ちのぼる。
(花の手入れが終わったら、紅茶とパイを用意しましょう。)
花の香りに平和な時間。幸せを感じる空間に囲まれる。静かに目を閉じて、過ぎる時間を噛み締めた。
一人の少女はふと、空を見上げる。
「ついに今日ね。もう誰も、あいつの思い通りにはさせない」
決意の滲む言葉を呟き、止まっていた足を動かす。花や草木が所狭しと並ぶ道を進む。
その背後に、建物がぽつりと聳え立っている。
音のない静けさの中、見慣れた扉が現れた。
扉を開けると、いつもの景色が広がる。
窓から差し込む陽の光。開け放たれた窓から入り込む、心地よい風。
それらを一身に受けながら、店のソファで眠っている─間抜け面な男。
「警戒心を捨てた野良猫ね」
小さく呟いても、目を開ける気配はない。構っている暇はないので、いつも通り作業に取りかかる。
十時の鐘が鳴る前に、ひと通りの仕事を終えた。
あとは紅茶とパイの準備だけだ。
まだ開店前なのだから、客のことは気にしなくていい。
仮に誰か来たとしても、あの間抜けがいる。
起こしやすいよう、置き紙を一枚残す。
支度を整え、裏口から外へ出る。
庭を抜け、母屋へと足を向けた。
「にゃー」
歩いていると、足元に白い猫が擦り寄ってきた。
尻尾をゆらゆらと左右に揺らし、喉を小さく鳴らしている。
その仕草に、思わず笑みがこぼれた。
「お出迎えに来てくれたんですか? ソルーナ。あなたは、ソファで寝ている猫とは違いますね。今日も綺麗です」
彼女はご機嫌な様子で、「にゃっ」と短く鳴く。
少しだけ背を撫でてから母屋へ向かうと、気品ある足取りで、当たり前のように隣を歩いてくれた。
母屋の扉を開け、部屋を見渡す。差し込むのは温かな日差しだけで、人の気配はない。
キッチンに入り、出窓を開けてやると、ソルーナは静かにその場所へ姿を現した。
近くの棚から紅茶を取り出す。
今日は、出かける前に焼いたパイに合わせて、アッサムを選ぶ。
(……いい匂い。お腹が空いてきちゃった)
我慢できず、パイにかぶりつく。
バターの香りと、しっとりとした口当たりが広がり、思わず息が漏れた。




