1/28
1
爽やかな日差しの中を歩くこのひとときは、贅沢だ。
今日摘んできた花から、蜂蜜を思わせるやわらかな香りが、ほんのりと立ちのぼる。
(花の手入れが終わったら、紅茶とパイを用意しましょう。)
「今日は、お客さん来るかしら」
花や草木が所狭しと並ぶ道を進む。
その背後に、建物がぽつりと聳え立っている。
音のない静けさの中、見慣れた扉が現れた。
扉を開けると、いつもの景色が広がる。
窓から差し込む陽の光。開け放たれた窓から入り込む、心地よい風。
それらを一身に受けながら、店のソファで眠っている─間抜け面な男。
「警戒心を捨てた野良猫ね」
小さく呟いても、目を開ける気配はない。構っている暇はないので、いつも通り作業に取りかかる。
十時の鐘が鳴る前に、ひと通りの仕事を終えた。
あとは紅茶とパイの準備だけだ。
まだ開店前なのだから、客のことは気にしなくていい。
仮に誰か来たとしても、あの間抜けがいる。
起こしやすいよう、置き紙を一枚残す。
支度を整え、裏口から外へ出る。
庭を抜け、母屋へと足を向けた。




