六三 猫を追え!
――おっ父。なぜおれは学校に行けんのじゃ。
そう問い掛けても父は背中を向けたまま何も答えてくれなかった。ただ嗅ぎ慣れた鉄臭さだけが狭い部屋中に漂っていた。
ある程度分別のつく年頃になると、その鉄臭さこそが――どうしようもなく染み付いた血の臭いこそが「学校に行けない理由」であると理解した。
男は屠畜を生業とする家系の息子だった。
食肉文化の定着と共に需要が増えた屠畜場は、明治期には全国で一五〇〇を数えた。その背景には、穢れ意識が付きまとう屠畜業が被差別階級民らの受け皿になっていたことも大きく影響している。
しかし、その設備や衛生面が問題視され、屠畜場法が制定されると事態は一変する。基準を満たせない屠畜場が次々と閉鎖されたのだ。個人経営の小さな屠畜場などひとたまりもない。男の父親が継いだのもそうした零細屠畜場のひとつだった。
屠畜従事者はたちまち食い扶持に困った。
職もなく、金もなく。
ただ、より強固となった差別意識だけが残された。
――綺麗なべべ着て熱いもん食べて、夜は布団で眠りよるんか。ええご身分じゃの。
生きるために必要なものを買いに街へ出るだけで疎まれ、避けられ、何軒も門前払いされる日々。ようやく雑穀を売ってくれる店を見つけても、近付くと不浄がうつるとばかりに品物を投げて寄越された。
破れた布袋から溢れた雑穀を、小さな粟や稗を一粒一粒拾い上げながら、男は賑わう牛鍋屋を睨み付けた。
――お前らが嬉しそうに頬張るその肉を、牛を、誰が殺したと思っとるんじゃ。その血を浴びたのは誰じゃ。
憎い。
何も知らないお前らが。ただのうのうと生きているだけのお前らが。
男の腹の中には燃え上がるような憎悪だけがあった。
ふと、瓦斯灯の脇で毛繕いをしている猫の姿が目に入った。陽を浴びて気持ちよさそうにする猫の口周りは血に汚れている。雀でも食らったのだろう。
惨めだった。
なぜ、同じように血で濡れたお前が、そのように暢気に過ごしていられるのか。陽の下にいることを許されているのか……
道具はあった。
解体の知識も経験もあった。
屠畜場は父親の代で閉鎖されていたが、正規の料金よりも安いからと、今も鶏や牛を持ち込んでくる客が一定数いたからだ。
猫を殺すのは愉しかった。
少し歩けば野良猫など幾らでも手に入ったし、犬のように強靭な顎がないから深傷を負う心配もない。人里離れた男の家ではいくら猫が鳴き叫ぼうが聞き咎められることもないし、皮を剥いだあとは食料にもなる。
そうだ、食料だ。
おれはただ、肉を狩っているだけ。
雀を狩る猫と俺とに何の違いがある。
生きるために狩っているのだ。当然の権利だ。
血の温かさも知らず、加工された肉をただ頬張っているお前らなどより、おれの方がよほど上等じゃ。
ある時、じっくりと長針を刺して甚振っていた猫が逃げ出した時は少しばかり慌てたが、針から己の身元が割れるはずはないとタカを括った。第一、瀕死の猫に藪まみれの湿地を抜けるだけの力が残されているものか。
まさか、その猫が銀座まで逃げていただなんて。
逃げる道々で怨みを募らせ、ついに生き絶えた猫が死後に鬼と成るだなんて。
挙げ句、その怨みを動力として、再び己の前に猫が――鬼と成った猫が戻ってきて牙を剥くだなんて、男は考えもしなかった。
◆ ◆
泥にまみれた革靴が鬼のこめかみにめり込む。
無様にも膝から着地し、よろめきながら距離を取ろうとする鬼だったが、蛇川がそんなぬるい退却を許そうはずもない。飛び退る鬼よりなお速く、疾風のように踏み込んだかと思うと、逃げる鬼の鼻面に足刀蹴りを叩き込んだ。
「オガアァッ!」
涎を撒き散らし、鬼が苦痛にのたうち回る。
しかし蛇川の追撃は止まらない。しなる脚が鞭となり、刃となり、時に空気ごと押し潰す圧となって襲い掛かり、鬼の輪郭を削っていく。
一連の動作は舞のようでもあり、春を喜ぶ若い鹿が跳ねる様にも似て美しいが、それらが与える衝撃は一つひとつが峻烈だ。
息をつく暇も、身構える隙も、ましてや反撃の余地など与えられようはずもない。絶え間なく押し寄せる痛みの波に最初のうちこそ怒りを覚えるが、じきにそれは後悔に変わる。
あとはただ嬲られながら懇願するのみだ。頼むから、どうか許してくれ。今すぐここから消えてやるから。
なんとか距離を取り、再び四つ這いになって周囲を窺う鬼だったが、怒りに燃える無数の目が、毛を逆立てた猫が、層になって取り囲んでいる――逃げられない。
「どうだ。逃げ道すら与えられず、ただ甚振られるしかない絶望の味は」
侮蔑に濡れたその声にハッと首を巡らせた瞬間、その根元にズブリと釘を突き立てられた。鬼の喉から黒い靄と共に、聞くに耐えない絶叫が迸る。
「今度は鉄に貫かれる痛みの味だ。次は……そうだな。目玉をくり抜かれる恐怖を味わうかね」
彼の暴力には慈悲も躊躇もない。まるで荒れ狂う焔のようだ。しかしその声はどこまでも淡々と冷えていて、それが何より恐ろしい。
なんだ、この男は。
いったい何者だ、この男は。
たまらず、鬼は平屋の屋根に逃げ上がった。
猫は優れた狩人だ。
人間からすればただの愛らしい毛玉だが、鳥や鼠にとっては恐るべき捕食者となる。
だが、その狩りの真価は「見つからぬこと」にある。音も立てずに忍び寄り、あるいは根気よく待ち伏せし。相手がなんの警戒もなく近付いたところを一瞬で仕留める。
今、藪以外には隠れる場所もない湿地帯で、真正面から蛇川に対峙せねばならないのは明らかに不利だった。
猫の武器はもうひとつある。爆発的な瞬発力だ。
しかし、それは猫の筋質と骨格があってこそ存分に力を発揮する。一瞬で最高速度を叩き出す速筋中心の筋肉。常に縮んだバネ状態を維持する後肢。そして、推進力を後押しする柔軟な背骨。そのどれもが人間には備わっていない。鬼と成ってしまえば人間離れした動きが可能になるが、とはいえその礎は元となった肉体に依存する。
逃げねば。
鬼の本能がそう警鐘を鳴らす。
この男は駄目だ。逃げねば。
鬼がまだ猫だった頃、鉄針を手にニヤつく男に首根を押さえ付けられた時よりも。
鬼がまだ男だった頃、悍ましい姿となり果てた猫が牙を濡らして襲いかかってきた時よりも。
さらに強大で圧倒的な、形容しがたい畏怖が鬼の脚を竦ませていた。
目に恐怖を宿して周囲を見回す鬼に、蛇川は明からさまな嘲笑を贈った。
「逃げるか? 別に構わんぞ。あんたと違って、僕には弱い者虐めの趣味などないのでね、退きたきゃご随意に。
所詮つまらん獣殺しだ。ヒトに向ける牙も持たぬ小物だ。そのまま逃げて逃げて、逃げた先で弱者の王となるがいいさ」
だが、と言葉を繋げた蛇川の声が、やにわに怒気を帯びて膨れ上がる。
「だが、覚えておけ。いずれ必ず、貴様のちっぽけな玉座を踏み砕く強者が貴様の前に現れよう。
確かに生まれには同情できる。だがその不遇は、鬱憤は、他者を虐げていい理由には決してならんのだ。自分より弱い者に矛先を向けた時点で、貴様は貴様を虐げた人間と同罪であるし、愉しんだ以上は極悪人だ。光も差さぬ地の果てで、やがて来る強者を震えて待ってろ、蛆虫め!」
途端、鬼の魂が二つに割れた。
絶対的な力に怯え、身を竦ませる男の魂と。
蛇川の度重なる挑発に憤り、その喉笛を食い破らんと猛る猫の魂とに。
肉体は猫の魂に従った。
背反する二つの意志を抱え、その後ろ足にわずかな戸惑いを匂わせつつも、傾いた平屋の屋根を蹴った鬼が、一直線に蛇川へと飛び掛かってくる。
あまりに強い踏み込みに乾いた破裂音が鳴る。割れた瓦が砂埃と共に落ちる。
怒張した指先。鈍い光を宿す牙。
黒く濡れた爪が、鉄針が、蛇川の目に突き刺さろうとしたその瞬間。
蛇川が消えた。
いや、
「うぬッ!」
素早く沈み、鬼の下に潜り込んだのだ。
同時に、両手で握り締めた〈哭刃〉を鬼の顎に突き立てる!
「おおおッ!」
澄んだ刃の進撃は、鬼の顎、喉、鎖骨を割ってもなお止まらない。重力を味方につけた鬼の恐るべき突進が、その推進力が、呪いと転じて鬼自身の身体を切り裂いていく。
ひとつ瞬きをするうちに。
地に伏せた蛇川と、空を切る鬼が交差する。
正中線を縦一文字に引き裂いた切っ先が、黒い靄の弧を描く。
割られた腹からこぼれた臓腑が黒い糸を引き、蛇川の傍にドサリと落ちる。
――斬った。
〈哭刃〉の刃は肉の深奥にあるモノをも斬っていた。
魂だ。
怒りに逸る猫の魂と、恐怖に竦む男の魂。澄んだ刃はその二者に生じた隙間を過たず断ち斬っていた。
猫の魂が情念から解き放たれる。
手応えからそれを感じ取った蛇川の瞳に柔和な光が、しかし口元には打って変わって邪悪な曲線が浮かんだ。
「……これで、心置きなく仕置きできるな」
だが。
結局のところ、蛇川がそれ以上拳を振るうことはなかった。蛇川が振り返ると同時に、一本の濁流と化した猫の群れが鬼に襲い掛かっていたからだ。同胞の魂が去ったことを敏くも察知したらしい。
もはや復讐の執行者は蛇川から猫へと移ったのだ。毛色の違いも見分けられぬほどの数と速さで、無数の猫が鬼に覆い被さってゆく。
呆気に取られ、立ち尽くしている間にも蛇川の長い股下を何匹もの猫が駆け抜けていく。行儀の悪い猫などは蛇川の背を踏み台にして馳せ参じるので、蛇川は忌々しげに舌を鳴らしてその場を離れた。
鬼は何度か立ちあがろうと踠いたようだが叶わなかった。一匹一匹は弱い獣で、身体も軽いが、なにせ凄まじい数の猫だ。小さな顎が、牙が、身体中の肉や筋を着実に裂いていく。
しばらくは鬼の絶叫が響いていたが、じきにそれも止んだ。声帯が咬み千切られたらしい。あとはただ、無数の猫が上げる怒りの声が響くばかりだ。
猫達がすっかり満足するまでに、一体どれほどの時を要したことだろう。
今やほとんどの猫が鬼から離れ、遠巻きに取り囲む位置まで退がっていたが、まだ数匹がしつこく手足にむしゃぶり付いていた。が、蛇川が近付くと藪へと逃げた。
蛇川は冷えた目で鬼を見下ろした。
無数の牙に嬲られ、皮膚という皮膚が裂かれた姿。露出した肉の合間からは咬み千切られた筋繊維や神経が飛び出し、ところどころから骨が覗いているにも拘らず、その胸はいまだ浅く隆起を繰り返している。
「惨めなものだ。死という最後の逃げ道さえ奪われ、少しずつ我が身が削られていく痛みを延々と味わわねばならんとは」
蛇川が静かに〈哭刃〉を構える。
「結局、貴様は、貴様が卑しくも甚振り続けた弱者自身によって報いを受けたわけだ。なんとも寓話的な結末だな」
唇が千切られ、黒ずんだ歯が剥き出しになった鬼の口が微かに動いた。「助けてくれ」と言ったのかもしれない。あるいは「終わらせてくれ」だったのか。もはや知る術はないし、どちらにせよ意味は同じだ。
澄んだ刃を鬼の胸に突き立てると、鬼は一度大きく息を吸い、喉に残った肉塊を震わせながら細く吐いて……ついに動かなくなった。
蛇川の四肢から力が抜ける。
ほとんど手傷は受けていないが、この疲労だけはいかんともしがたい。
湿った地面に膝をついて深く喘ぎ、戦慄く手でどうにか〈哭刃〉を鞘に納める蛇川に、何を思ったか、そろりそろりと猫達が近付いてきた。その目にもはや敵意はない。共闘を経て、種族を超えた仲間意識が芽生えでもしたのだろうか。鬱陶しい限りだ。
シイッと強く摩擦音を鳴らすと素早く飛び退るものの、しばらくすると再びにじり寄ってくる。何度か追い払おうと試みた蛇川だったが、やがて諦めた。
「……あ」
近付いてくる猫の中に、すっかり薄汚れた小柄な三毛猫――目の上に確かに薄茶の斑がある――を見つけ、蛇川は間の抜けた声を上げた。
そうだ。当初の目的をすっかり忘れていた。
滴る汗を拭う余力もないまま、蛇川は顔を歪めて苦々しげに吐き捨てた。
「なぁにが『可愛い』だ。どういう美意識をしていやがるんだ、あいつは。間抜けな公家面そのものじゃないか」
◆ ◆
君子危うきに近寄らず。
その「危うき」の最たるもののひとつが、退屈時、あるいは空腹時の蛇川だ。
そして今、蛇川はひどく空腹だった。なにせ、昼に一食まるまる食べ損ねたうえ、夜もとっぷりと更けているのだ。蛇川は細身のくせによく食べる。比類なき頭脳労働の対価に違いない。
それで、鬼気迫る勢いでライスオムレツをかきこむ蛇川のスーツが泥まみれでも、誰もそのことには触れなかった。
余計なことを言って苛立つ獅子の尾を踏んでは一大事だ。それに、彼が決して平和的な市民では――少なくとも、ただの凡庸な骨董屋亭主でないことなど『いわた』常連客なら誰もが知っていた。
蛇川は『いわた』に入ってからまだ一声も発していない。しかし彼が障子戸を開け、席に着く頃にはもう亭主は卵を割っていたし、猛烈にライスオムレツを食す蛇川に常とは違うものを感じたからだろう、頼まれもしないのにお代わりも作り始めている。
蛇川真純の観察眼に比する者など「蟒蛇様」――蛇川同様「ますみ」を名乗る双子の弟だ――以外に考えられないが、こと客の腹の空き具合を察するにおいてのみ、『いわた』亭主もいい勝負をする。
蛇川が上げ台に空の皿を置くと、心得たとばかりに出来立てのライスオムレツが乗せられる。蛇川は力強い目線を亭主に送ると、二杯目のライスオムレツに取り掛かった。会話もないまま妙に通じ合った動きをする男二人に、りつ子がくすくすと笑いを漏らす。
と、その耳が聞き慣れた鳴き声を拾い上げた。路地からだ。
手にしていた皿をカウンターに置き、りつ子が慌てて障子戸を開ける。そこにいたのは……
「ミケ!」
友人に呼びかけられ、ミケが甘えた声で返事する。蛇川が小さく鼻を鳴らしたが、食事の音に紛れて誰の耳にも届かなかった。
「ミケ、心配したのよ! ああ、ああ……可哀想に、こんなに痩せちゃって」
お父さん、と呼びながら振り返ったりつ子だったが、その先の言葉は必要なかった。ちょうどその時、上げ台にねこまんまを盛った椀が置かれたからだ。寡黙な亭主の空腹察知能力は猫相手でも働くらしい。
涙目のまま笑ってお礼を言うと、りつ子はミケにねこまんまを与えた。そのまま戸口に屈み込み、夢中で椀に鼻先を突っ込むミケを微笑ましそうに見守っている。前以上に痩せ細り、汚れてはいるが、見たところ怪我はしてなさそうだ。
「そんなに慌てると喉がつっかえちゃうよ。お前、いったいどんな冒険をしてきたの。小さな身体を泥まみれにして」
泥まみれ――泥?
屈んだまま振り返るりつ子の視線の先で、早々に二皿目を片付けた蛇川が亭主と山岡を相手に莫迦話をふっかけている。
「いや、まいった。空腹で目が回るとは。危うく倒れるところだった。しかし、定期的に飯を食わねばならんという身も不便なものだ。腹にもう一つ袋を作って、食い溜めしておけるようになればいいんだが」
「牛には胃袋が四つあると聞く」
「へえーっ、そりゃたまげた! 亭主は物知りだなあ」
「いいや甘いね。牛の胃袋は食い溜めのためにあるんじゃない、草をすっかり消化するのに何度も胃や口を行き来させるためにあるのだ。これを反芻という。ここまで知ってこそ知識だ。僕が言う袋というのはだな……」
「弁当という便利な文化がある」
「いやまったく」と山岡が両手に持った箸でチョンチョンと猪口を打つ。「骨董屋は存外物を知らんなあ」
どうやら酒を飲んで気が大きくなっているらしい。
無論、それで黙っている蛇川ではない。
「おい、助平巡査。酒など飲んでいる場合かね。ご内儀を余計に怒らせるのではないか」
「おうおう、骨董ヤクザよ。その件ならもう昨夜のうちに……ケッヘッヘ」と山岡が立ち上がり、胸を張って敬礼すると、
「男山岡、男の袋を空にするまで当家の姫君を抱きに抱きまくりまして、無事! 姫の怒気鎮圧に成功した次第であります」
「よろしい。蹴り出そう、不愉快だ。亭主も異論あるまい」
勢いよく立ち上がったそのズボンと革靴に、泥と一緒に猫の毛がたくさんこびり付いているのを。
何より、上衣の背に泥でくっきりと猫の足型が付けられているのを認め、りつ子の顔が綻んだ。
余計なことばかり言うくせ肝心なことは黙っている蛇川が、実は彼が自認するほど人嫌いではないということは、『いわた』常連客でさえほとんど知らない。だけどりつ子は知っている。物言いは苛烈であるが、その奥底にはほんの少し温かさがあって、それが時折、いや、ごく稀にではあるが、彼の身近な人々にそっと向けられていることも。
「……ね、ね、蛇川さん。小さいけど、氷がちょっぴり残ってるの。擦ってあげましょうか」
「はあ? いらん。僕は甘い物は好かんのだ」
「りっちゃぁん、本官におくれよう」
最後にもう一度ミケの頭を撫でて立ち上がったりつ子が、割烹着の裾で手を拭う。そのまま黙って蛇川を見つめたまま頑張っていると、ついに根負けしたか、大きなため息が返ってきた。
「……手はよく洗えよ」
りつ子の顔が満足げな笑みで彩られる。
やがて、仏頂面の蛇川の耳を、氷がおろし金に当たる爽やかな音がくすぐり始めた。何やらその音も常より少し弾んでいるような。
すっかり空になった椀を舐め舐め、小首を傾げたミケが、不思議そうにその様子を見守っている。
〈 猫を追え! 了 〉




