第50話「——ここにします」
「本当にそのルールでいいのか」
不承不承頷く。
いいか悪いかでいったらそりゃあ決してよくはない。提案したのはこっちだがそれでもまだ俺が有利になるようなルールを追加したいくらいだ。まだ異能すら使えない無能なのだから。
対してあっちは魔法を有する。そこにあるのは埋めようのない能力の差——的なことは再三述べた通りなので、だからこそ俺は一つ提案した訳だ。それが前述のルール云々である。
昨日棚町にも説明した三分間の鬼ごっこ。もちろん俺は逃げる役だ。魔法を使用してくる鬼から見事逃げ切れれば俺の勝ち。
そしてもしも俺が捕まれば魔法使えない部は廃部となる。実に分かりやすい図式。それだけに俺にかかるプレッシャーも大きい。
まるで底無し沼に片足を突っ込んでいるかのような気分で俺はこのデッドエンドゲームに身を投じなければならないのだ、……なんて、ちょっと自分に酔い過ぎたかな。いかんいかん、悪い癖だ。
ともあれ、俺が持ちかけたこの話にティエリア先輩は渋る所か二つ返事で快諾してくれた。
何でも、「魔物ハンティングのようで面白そうではないか」とのこと。
どうやら俺は魔物に見立てられているらしい。あれか、男は狼ってやつか?
まあ俺としてもありがたいんだけどな。これで当初の予定通りに事が運びそうだ、と喜んだのも束の間、よくよく考えたらそんなに予定がなかった。
「では、まず最初に魔法陣を起動しようか。哀れな生け贄にせめてもの手向けだ、特別に貴様にフィールドを選ばせてやろう」
ほう、ルール指定のみならず決闘の舞台まで選ばせて貰えるのか。とことん親切だな。
それとも絶対に負けない自信でもあるのかな。だが何にせよ好都合だ。自分の優位を信じて疑わない者は往々にして足下を掬われるものだ。ゲームのラスボスなんてそれが特に顕著だ。
ただティエリア先輩の場合、本当に足下を掬いでもしようものなら、スカートからパンツが見えてしまうだろう。けどその場合は不可抗力なので仕方がない、よね?
「おい、まだか? いい加減焦れてきたのだが」
「……あ、すみません」
と、危ない。話が有らぬ方へと脱線していた。いかん、俺も俺で隙だらけだ。
気を取り戻して考える。
どんな舞台を選ぶべきか。もっとも、俺は闘いの方向性は決まっているので(基本的に先輩から逃げ続ける)、あとはそれを活かせる舞台を選択するだけだ。
出来れば遮蔽物並びに障害物がある所が好ましい。更に視界が適度によく、適度に悪い環境も必要だ。足場は……、逆に悪い方がいい。砂利道みたいなのは流石に要らんけども、高低差ぐらいは欲しい。多少のリスクはあるが、平坦な道では追いつかれる可能性がある。
あとはそうだな、未知じゃなくて既知である場所にすべきだろう。袋小路に迷いこんだり、ぐるぐる同じ道を回って先輩とばったり、なんてならないよう気を付けなければならないからちゃんと見知った土地がいいだろう。
敗北の可能性は少しでも潰しておいた方がいい。一つ一つは小さな綻びでも、それらが積み重なってやがて大きな穴となる。それは万事にも言えることだ。だからこそ常に注意しろ。
以上の点を踏まえて導き出された決闘の舞台、それは。
「——ここにします」
聖マルアハ魔法学校敷地内の全て。
本作を少しでも気に入っていただけたら作品更新の励みにもなりますので、ブックマークや感想などをいただけますと幸いです。




