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転生しても俺は魔法が使えない  作者: 佐佑左右
炎もたけなわ~フレイクエム~

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第49話「——お願い、勝って! じゃないとぶち殺すジョっ、……ひひゃかんひゃ(舌噛んだ)」

 強烈な一撃に一瞬だが俺の意識は飛びかけた。

 引っ叩かれた右頬が尋常じゃないくらいヒリヒリと痛み、火傷に見舞われたかの様にジンジンと熱を持っている。

 余りの容赦の無さっぷりに思わず涙をこぼしてしまう。


「何しやがる!」


 俺の怒声に伏日がビクッと、


「ごごごごめんなさイ綾村先輩! この埋め合わせは必ずしますから許してくだサイ!」

「いや伏日に怒っている訳じゃないから気にすんな。それよりお前に聞いているんだ棚町」


 女子にビンタされたのなんて小四の頃の席替え以来だ。あの時はその女子が好きだった男子の隣になれなくて腹いせに俺が叩かれたんだっけか。


 とばっちりもいい所だが、小学生なんてそんなもんである。しかし眼前のこいつは小学生ではない。物事の善悪を一端に理解出来る(はず)の高校生だ。当然この突拍子もない行動にも何らかの意味はあるのだろう。


「男に直接触れないのは知っているけど、だからって後輩に命令してまで俺を叩かせた理由はなんだ?」

「理由も何も、ただ私なりに綾村くんを応援してあげただけよ」

「応援だと? あのアン○ニオ○木ばりの闘魂注入がか?」

「そうよ決まっているじゃない。痛みとは興奮を煽るものなのよ。そして興奮とは無意識に力を呼び起こすもの。とどのつまり、私は頼りっ気のない綾村くんが勝てるように今出来る唯一の応援を施してあげたという訳。それでもまだ足りないと言うのなら、左頬もやってさしあげましょうか、伏日さんが」

「……えエッ、棚町先輩!?」


 次やられたら俺が気絶するから止めておいた方がいい。それで困るのはお前らもだぞ。


「それよりも応援するなら普通温かい言葉をかけるものじゃないのか。暴力って……ねぇ?」


 相変わらず一般と感覚がずれてる棚町である。


「へぇ、なら綾村くんは私が熱血青春漫画みたいに『お願い、勝って! じゃないとぶち殺すゾ(はあと)』ときゃぴきゃぴした声で発破をかけた方が頑張れたかしら? そういうのは私よりロリ先輩の方が適任だと思うのだけれど、それでも貴方がやれというのならやぶさかではないわ」

「超いらねぇ何それ俺を笑い死にする気か俺は腹が痛いがお前はキャラが痛いなついでに言えば片腹痛くて腹痛で痛い」

「やりなさい伏日さん。なるべく惨たらしくバチンと」

「ひェ!?」

「すまん悪かった、つい本音が。……あ、いやいや違った。棚町さんみたいな素敵で無敵な方に応援してもらえるなんて俺はとんだ果報者だよホント」


 慌ててフォローを加えると、ふんと鼻を鳴らして棚町は黙った。


 どうやら間に合ったらしい。後一歩遅かったらと想像すると、考えるだに恐ろしい。


 きっとリンチならぬミンチにされていたはずだ。肉まれっ子世にはばかるってな。


 分かってる、ちょっと言ってみただけだ。


「寸劇は終わったかな?」


 俺が棚町から距離を取ると今度はロリ先輩が声をかけてくる。


 ついさっきまで我関せずといったスタンスだったのに、表情は真剣そのものだ。まさかとは思うが、ロリ先輩まで俺にビンタするつもりじゃないだろうな。それは俺達の世界ではご褒美というものだ。是非やって欲しい。さあ、さあ!


「これから戦地に赴くというのに呼び止めてしまってすまないね。けどボクからも一つキミに応援の言葉を送りたいのだがどうだろう、受け取ってくれるかい?」

「当たり前じゃないですか! ロリ先輩の応援ならいくらでもいつでも貰いますよ。なんなら内容が重複しても構いませんから!」

「ふふ、有り難う。でも一回しか言えないから集中してよく聞いてくれたまえ」


 こういう時は耳の穴をかっぽじるべきなのだろうが、けれどもかっぽじるという感覚がよく分からないので結局普通に聴くことにする。


「えー、こほんっ。あー、うん、うん。よし、いいかな」


 必要以上に咳払いするロリ先輩。俺を応援するのにそんな心構えをしなきゃいけないのか。どんだけ気苦労を強いているんだろう。


 ロリ先輩は「……じゃあ言うよ」と息を吸い、


「——お願い、勝って! じゃないとぶち殺すジョっ、……ひひゃかんひゃ(舌噛んだ)」


 萌え死ぬかと思った。いつもは飄飄としているロリ先輩なのだが、口を押さえ痛みに悶える彼女の姿は見た目相応に幼く、それでいて可愛らしい。ビー玉のように透き通った瞳には房のような涙が浮かんでいる。普段は決して見られないであろうロリ先輩の姿に息を飲む。


 こんな人間が果たして実在してもいいのだろうか。彼女の前ではロリコンじゃない俺ですら理性が崩壊してしまいそうになる。天にも登る心地とはこのことだ。それほどの蠱惑的魅力が彼女にはあった。許されるのなら、このままロリ先輩を連れ去りたいくらいだ。重ねて言うが俺はロリコンではない。


 と、ようやく痛みが引けてきたのかロリ先輩は上目遣いで俺を見る。マジ可愛い。


「……どうだったかな、部長さんの言葉を借りてみたんだけども。ボクの応援はちゃんとキミに伝わったかい?」


 はにかみながらそう尋ねてくる。激カワいい。


「そりゃあもうバッチリですよ! ロリ先輩のおかげで生きる気力が出てきました」

「ふふっ、それはよかった。恥を忍んだ甲斐があったというものだよ。これで安心してキミに任せられる。今度はボク自身の言葉を送るよ。——勝ちたまえ。ただそれだけだ」


 命令形なのに優しい口調。そこにロリ先輩の人柄を感じた。だからこそ彼女の期待を裏切る訳にはいかない。部員の一員として俺に『魔法使えない部』創設の話をしてくれた。それが俺には嬉しかった。やってやるって思った。結果は行動で決まるのだ。だから空回りの勢いでもいい。とにかくやる気だけは失ってはならない。


「——はい!」


 力強く、ただそうとだけ応えた。


「じゃあ今度こそ行ってくるよ」


 さっきと一緒だといまいち締まらないのでとりあえず片手を上げてみた。少しキザな感じもするが気にし過ぎだろうか。固唾を飲んで見守るみんなを背に、そのまま俺はティエリア先輩を追って入場ゲートを抜けて行く。


 ああ、そういえば最後に伏日からも応援の言葉があったりしたのだが、長くなるのでこれはかいつまんで説明させてもらう。話の流れで決闘後伏日から特製栄養ドリンクをもらうことになった。彼女制作ということで何が入っているのか分からないので正直いらないのだが、本人を前にして断る勇気が俺にはなかったとだけ伝えておこう。


 そうそう、さっきから姿の見えない頸野はというと、実は保健室で横になっている。


 虚弱体質なあいつは長距離移動が祟ったらしく、廊下で盛大にすっ転びそのまま喀血。これはまずいと判断した棚町に従って保健室へと連行した訳だ。これが俺達が遅れて来た理由。


 しかも棚町は俺が頸野を保健室に運ぶことをよしとせず、頑なに部長である自分がそこまで運ぶと言って譲らなかった。なので俺はすごすごと引き下がり、そこでやり取りは終了。


 驚いたのは棚町が頸野を担いで保健室まで辿り着いたことだ。それも頸野を励ましながら。途中何度かロリ先輩や伏日が交代を申し出ていたが、棚町はそれを全て断っていた。


 強情っぷりもここまでくれば清々しい。まさかあんなにパワフルだとは思わなかった。俺が棚町を見直した瞬間である。


 閑話休題。


 アリーナに入場を果たした俺は、手持ち無沙汰に立っていたティエリア先輩にまず謝ることからスタートした。何度も待たせてしまったのだから、筋だけは通しておかないとな。


「見ていたよ。なかなかどうして人気者のようだな貴様は。女が三人集まれば姦しいとはよく言ったものだが、女所帯に男が一人だとああなるのかな?」

「さあどうなんですかね。俺は男ですからよく分かりません。ただあの応援に見合った結果を残さなきゃいけないとは思いますが」


 でないと俺がぶち殺されるんで、とは言わないでおいた。


「ふむ、それもそうか。つまらないことを聞いたな。忘れてくれ」


 そう言うとティエリア先輩は右手を軽く払って、ポイ捨てをする動作をした。どうやら俺に関する質疑はゴミと同じらしい。別にいいけどちょっとショックだ。


「それじゃあ」


 と、俺が切り出そうとした時だ。


「——さて、それでは改めて決闘をしようじゃないか綾村」


 俺が言おうとしていたことを先に言われてしまった。なんと幸先の悪い幕開けだろうか。

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