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転生しても俺は魔法が使えない  作者: 佐佑左右
廃部の危機と退部の時期

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第41話「……ボクにとってキミが初めてだったんだよね」

 ちらりと流し目を送るとロリ先輩は優雅な所作で紅茶を口にしていた。離れていても分かる茶葉のいい香りが不思議と心を落ち着かせる。そういえば前に上物の茶葉を使ってると言ってたな。なるほど、紅茶に疎い俺でも安物との違いは分かる。まあ、とりあえず紅茶は飲めればそれでいいのでタイプの人間なので、上質の茶葉を愛用するには縁遠いがな。


「ふぅ、やはり紅茶はいい」


 ティーカップがソーサーの上に置かれる。軽やかな音がした。


「……ボクにとってキミが初めてだったんだよね」


 唐突に何を言い出すんですかロリ先輩。言葉だけ聞けばまるで俺が先輩の操を奪ったみたいじゃないですか。ひいそれは笑えん。俺の名誉のためにもここはちゃんと聞き返さないと。


「えーと、は、初めてって?」

「ん、……ああ」


 説明不足を悟ったのか、ロリ先輩は得心が行った表情を浮かべ、ゆるりと誰にかけられたか分からない俺の疑惑を解消してくれた。


「部長さんと愉快そうに談話する男子を見たのが初めてだとボクは言ったんだ」

「そ、そっちですか」


 自分でも分かるほど動揺していたが、どうやら杞憂だったらしい。


 ふと気がつけば掌が汗でじっとり濡れていた。こりゃあもしもの時にフォークダンスは踊れないな。一人で勝手に納得しているとロリ先輩が怪訝な顔をしたので慌ててごまかす。


 あはは何でもないですよ……って、声が上擦った。


 しかしロリ先輩はさして気にした風でもなく、再び話し始めた。


「……さっきも言ったけど、部長さんは基本的に男と関わり合いを持たないんだよ。けれども何故かキミにだけは心を開いて見せた。驚いたよ、あれだけ嫌っていた異性とまともに会話を交わしているんだからね。しかも本当に楽しそうに。だからボクはこれをいい傾向と捉えた。差し詰め彼女にとってキミは、男性恐怖症を克服するいい薬だと思ったのさ」

「薬、ですか?」


 どっちかといえば薬というよりは雑菌の方が合ってるとは思いますがね。過去の同級生曰く俺は綾村菌を持っているらしいですからね。はいまさかの○○菌ネタ再登場。


「……しかし現実というのは厳しいものだね。こうなることを予測していたつもりではあったがボクもちょっと考えが甘かったな」


 珍しいことに、ロリ先輩が愚痴をこぼしている。レアといえばレアなのだが、なるべくなら見たくはない光景だった。なので俺は、己の心証が悪くなるのを承知で尋ねる。


「一ついいですか。どうして先輩はそこまで棚町のことを気にかけるんですか? 言っちゃあ何ですがそう無理して男性恐怖症を治す必要もないと俺は思います。別に今はトラウマを抱えてても、いずれ成長するに連れて徐々に改善されますよ、きっと。こういうのは往々にして時が解決してくれるものですし」


 嘘だ。自分自身すら騙せないほど俺の言葉は薄っぺらい。


 時が解決してくれる——どうしてそんなことがあり得るだろうか。


 心の傷はそう簡単に癒えることはない。ふとしたきっかけでトラウマは再発する。


 いつ、どこで、それは分からない。まるで導火線に火がついた爆弾をいつも懐に秘めているようなものだ。だからこそ本当に苦しい。


 そんなだから棚町のことも少しは理解できるつもりだ。何せ俺もそうだからな。


 とまあいくら俺が辯解してみせた所で所詮は心の声、ロリ先輩に伝わるべくもない。


 よしんば伝わったとしてもそれはただの悪意であり、残念ながら好印象を持たれやしない。 がくっと下がる好感度。先輩ルートがあれよあれよと遠退いていく。所謂『選択死バッドチョイス』というやつである。


「分かりやすい顔だなぁ」


 そう言ってロリ先輩はからからと笑う。俺の不景気フェイスの何が分かりやすいんですか。いい加減なこと言ってると、その可愛らしい笑顔を写メに撮って俺だけの宝物にしますよ?


「……彼女はボクの恩人なのさ。その彼女の悩みなんだ、どうにか解決してあげたいと思うのは別におかしなことでもないだろう?」

「恩人?」

「ボクだけの、という訳でもないがね。他の部員にとっても、キミにとっても、ね」


 はて、そう言われても思い当たる節があるようなないような……、と悩む時点でだいだいはないのである。「~にするか~にするかで悩んでるんだけど、どっちがいいと思う?」と二者択一を迫りつつ、実際には既に正解が決まっている相談と同じだ。自分の中で既に結論が出ているので、もし間違った答えを選んでしまうと「えー、でもそっちはないよね?」となるのでゆめゆめ注意が必要だ。ああいう人種は他人に肯定を求めているだけなので、相手をするのが実に馬鹿らしい。はっきり言って時間の無駄だ。


「その様子だとボクの言ってることに覚えがなさそうだね」

「はぁ、すみません」


 なんとはなしに俺が悪いような気がしたので謝っておく。ついでに頭も軽く下げる。そのままロリ先輩のたわわな胸元にゴーイングマイウェイしたいが、ぐっと堪えて妄想でカバー。


「別にいいさ、顔を上げたまえ。ふむ……そうだね、キミにも話しておこうか。この部の成り立ちを」


 そう前置いてから、ロリ先輩はぽつぽつと語り始めた。在りし日の創部物語を——。

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