第16話 順調に進む武術大会
7月に入り武術大会が始まると学院中が浮かれた雰囲気に包まれ、連日繰り広げられる熱いバトルの話題で沸いていた。
そんな中、やはり圧倒的な強さを見せるジルラント様、ユリアーナ様、ドロシーちゃん、ライアーくんの1学年優勝候補の話題は盛んで、当初は前2人の圧倒的な強さばかりが話題となっていったが、日が経つにつれて2人に負けず劣らない天才的な才能を見せたライアーくんや適切に魔法と弓でサポートを行いながら(私との素材集めで同時にレベル上げを行っていた影響で)予想外の活躍を見せたドロシーちゃんの話題も増えていったように思う。
更にその4人の知名度が一気に上がる原因となったのが、大会が始まった初めの方で学院内に忍び込んでいたレッサーデビルと言う下級の悪魔を倒したと言うのも大きいだろう。
何でも、とある大貴族の長男(ライアーくんとは親戚らしい)がどうしても大会でそれなりに成績を残したいと焦り、怪しい商人から仕入れた呪具を利用して召喚したらしいのだが、最初の対戦相手を棄権させるべく襲撃を行ったところにたまたま訓練から戻って来ていたドロシーちゃん達が出会し、そのまま襲撃してきた悪魔を倒し、それを従える大貴族の長男を捕縛した事でさほど騒ぎにならない内に事件を解決してしまったのだとか。
その後、その大貴族の長男が今回の騒動を起こすように『魅了』の魔法を掛けられていた形跡が見つかったことから大会の棄権という処置だけで処分は済まされ(そのチームメイトにとってはとんだとばっちりだが)、大会の運営には一切影響を及ぼすことは無かった。
そう言えば、この大会の決勝トーナメントで出場する特別チームの顔ぶれは秘密になっているはずなのだが、私がオルランド様と一緒に特別チームで出場すると言う情報が既に広まっているらしかった。
その証拠に、大会が始まる少し前にドロシーちゃんが「オルランド様と2人で、特別チームとして決勝トーナメントに出るって本当?」と聞いてきたのだ。
そのため、突然予想外の質問に狼狽えてしまったのがいけなかったのか、ドロシーちゃんが「あはは、その反応は図星っぽいね。じゃあ、あの話は本当なんだ」と反応を見せたことでただの噂を真実だと確信させてしまったのだと悟ったのだった。
その後、真剣な表情で「アイリスちゃん。ボク、頑張るから」と宣戦布告して来たドロシーちゃんに、(私もうかうかしていられないな)と苦笑いを返す事しか出来なかった。
そうやって武術大会中心に学院が動いていく中でも当然ながら生徒会の手伝いはあるわけで、選手として忙しいジルラント様とユリアーナ様に代わって私に回ってくる仕事量は増えていた。
とは言ってもこの時期はほとんど素材集めが主な依頼で、コミュニケーション能力を必要とする仕事はほとんど無い(全く無い訳ではないが、数件程度でそれはユリアーナ様達が訓練の片手間で片付けてくれたらしい)ため、武術大会に向けたウォーミングアップついでにダンジョン通いを続けていた。
ただ、要求させる素材が取れるダンジョンのレベルが低い(年度の後半になるにつれて要求される素材の希少性が上がる傾向があるため、2学期が始まる9月頃にはそこそこ経験値が入るダンジョンに行けるらしいが)ため、私のレベルはこの学院入学後に2レベルしか上がっていなかった。
しかも、そのレベルアップに貢献したのはどちらかと言えば4月末の騒動で大量のアンデットを蹴散らした際に手に入れた物のため、未だこの生徒会の手伝いでの恩恵は感じる事が出来ない状態だった。
因みに、たった2レベルでは
アイリス Lv.204(次のレベルまで6,432)
(能力情報)
体力:20,340/20,340(10,170) 魔力:12,600/12,600 技巧値:300/300
攻撃力:11,276(3,076)+10,200 魔法力:16,458(6,158)+6,120
防御力:17,059(4,859)+2,040 俊敏力:16,132(5,532)
と、あまりステータスが伸びるわけでもないので現状私の強さは入学直後からほぼ変わっていない。
だが、話しによるとドロシーちゃんは私の素材集めを手伝ったこととユリアーナ様達に指導を受けたことで既に187までレベルが上がっているらしく、同じパーティーメンバーのライアーくんも190を超えるほど実力を付けているらしい。
しかも、最高レベルで入学しているジルラント様とユリアーナ様ももう少しで300レベルに届くかと言うところまで来ているらしく、正直教皇様の脅しなど無視してどう言うレベル上げを行っているのか教えを乞いたいところではある。
ただ、ドロシーちゃんから僅かに聞き出した内容としては普通にダンジョンに潜っているだけらしく、ジルラント様の王族特権でどんなダンジョンでも簡単に探索許可が出るため、ユリアーナ様が選出した効率良く経験値を稼げるダンジョンに通っているだけではあるらしいのだが。
そうやって日々は過ぎ去り、気が付けば7月の中旬に入る頃には残りチームも数えるほどになっていた。
そして、ある程度(突出したオルランド様を除いて)実力が拮抗している3学年や、特別に目立つ存在がいるわけでは無い2学年は毎回拮抗した勝負を繰り広げ、1学年は当初の予想通りジルラント様達のチームが圧倒的な強さでトーナメントを勝ち上がって行く。
正直、何度かドロシーちゃんを応援するために(『道具錬成』で横断幕を作るかをギリギリまで悩んだが、目立つ真似をするのは恥ずかしかったので結局止めた)何度か試合を見たが、ライアーくんを前衛にジルラント様が中衛、ドロシーちゃんとユリアーナ様が後衛と言うポジションで戦闘を行っていたのだが、どう見てもジルラント様とユリアーナ様は本気を出していなかった。
それでも十分に強いのだが、本気で戦えば恐らくその2人だけで相手チームを瞬殺出来る程の実力を隠しているようにしか見えないため、私は決勝トーナメントで戦う際にはこの戦闘を基準に油断しないよう気を引き締めるのだった。
その後、ドロシーちゃんとライアーくんの2人だけでも相手チームを圧倒できるまでの実力を付ける頃にはトーナメントは最終戦を迎え、最後の1戦は1学年の中でもかなりの実力者が集まるパーティーが相手ながらも危なげ無い試合展開で勝利を収め、「今年の1学年はついに打倒生徒会長を成し遂げるかも知れない」と学院の興奮は最高潮に達していたのだった。
正直、ハイレベルな戦いを繰り広げた2学年と3学年の最終戦がそこまで話題に上がらないのは可哀想な気もするが、それでも1学年代表の4人が明らかに強すぎるのでそれも仕方の無い事かも知れない。
その証拠に、決勝トーナメントが始まった初戦、1学年代表対2学年代表の試合でもジルラント様とユリアーナ様は積極的には戦闘に参加せずにその実力を隠し、主に戦闘を行ったライアーくんとドロシーちゃんも途中で少し危ないところがありはしたが問題無く勝利を収めている。
それに、その次に行われた3学年代表対特別チーム(この戦いで私はローブで正体を隠して後方で立っていただけで、3学年代表チームが放った弓や魔法は私の【竜皮】を突破することが出来なかったので流れ弾を避ける事すらしなかった)の試合もオルランド様1人に3学年代表の4人は圧倒されて呆気なく敗北してしまった。
しかもオルランド様はその試合で王剣『ジュワユーズ』は装備しているものの、王盾『アイギス』も王鎧『アキレウス』も装備せずに普通に学生服で戦闘を行っていたので、3学年の中でオルランド様がどれだけ突出した存在であるかを見せ付けて会場を響めかせたのだった。
因みに、『装備破壊耐性付与』の影響で一切傷付かないローブを強力な装備と勘違いしたのか、私は1学年代表戦に備えた強力な装備で盾になるだけの存在と認識する人もいたようで、決勝トーナメント最終戦前日の夜には盾役がジルラント様かユリアーナ様のどちらかを引きつけて残った3人をオルランド様が一気に叩く作戦ではないかと予想されていた。
だが、その予想もあながち間違いでは無い。
何故ながら、オルランド様がジルラント様を、私がユリアーナ様を個別に相手し、私の分身体(1体)がライアーくんとドロシーちゃんを相手にする作戦なのだから。
あと補足だが、この戦いで私は周囲に被害を及ぼす危険がある大技(ドラゴンブレスの(中)以上の出力がある(特殊技能)と凄まじい破壊力を誇る魔法である『混沌なる光』と『極四大属性』の2つ)の使用が禁止されている。
もっとも、言われなくてもこれらの技は対人戦で使うような規模の技ではないので最初から使うつもりなど無かったのだが。
こうして学院内の興奮が最高潮に達する中、とうとう半月続いた武術大会最後の大勝負、それも歴史に残るような1戦の幕が上がるのだった。




