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5-5 最良の結末

 ヴァレドはあっさり生き返った。何も無いところからいきなり足が現れて、上へ上へとあるべきものが積み上がっていき、頭まで現れた時にはもうそこにいるのは〝生きているヴァレド〟だった。

「体は要らなかったわね」

 エシュカが呟くと、ヴァレドは不思議そうにそちらへ目を向けて、「……!」何かを思い出したように目を見開いた。

「何がどうなってるんだ⁉ オレは神使に刺されて——……夢だったのか?」

「現実よ」

 さらりと言いながら異空間収納を開き、〈魔の領域〉で回収した死体を地面に転がすと、ヴァレドは露骨に嫌そうな顔をした。

「まさか自分の死体を見ることになるとはな……いやおかしいだろ、何で生きてるんだオレは」

「僕が魔神を倒したから」

 イルデットがしれっと答えると、ヴァレドはますます意味が分からないと言うような顔をした。

 そこでリオネラが仕方なさそうに口を開く。

「あの神使、レリーシャでね。記憶が——」

「待て待て待て待て。レリーシャ? レリーシャって言ったか⁉」

「言った言った。まあ聞きなよ」


 神の出した条件。〈魔の領域〉でのこと。それらをリオネラ中心に語り伝えた。ヴァレドは頭を抱えながら聞いていた。


「生き返るべきはオレじゃなくレリーシャだろ……」

 全て聞き終え開口一番がこれだった。

 苦渋に満ちた表情で、やり場のない怒りを抑え込んでいる。怒るのは筋違いだと分かっていて、それでも湧き上がる苛立ちに苦しんでいる。

 そんなヴァレドを見て、イルデットは「これはお人好しならどうにかする場面!」などと思い、声を上げる。

「レリーシャと一緒に生きたいんだろ?」

「……いや、レリーシャが生き返るならオレは死んでも」

「本当にそうか? それが一番の望みとは思えないけど」

「…………一緒にいたい。オレにそんな資格は無いが、望みってだけなら、また一緒に過ごしたい」

「じゃあ……」イルデットは空を見上げる。「僕が魔神を倒したんだから、僕の願いも叶えてくれますよね、神様?」

『そんな約束はしておらぬが、まあ良いだろう。ただし、神使を人間に戻すことは出来ぬぞ』

「生き返らせるのは簡単なのにですか?」

『訳が違うのだ』

 神は冷たく言い放ったが、ふと思いついたように妥協案を提示する。

『かの神使を、そこの元魔剣使いの寿命が尽きるまで下界に留まることを許そう』

 イルデットがちらりとヴァレドに視線を向けると、ヴァレドは同意を前面に示すように頷いた。

 羽が舞う。天から神使が——レリーシャが、一直線に下りてくる。

「ヴァレドっ!」

 勢いよくヴァレドの胸に飛び込んで、顔をうずめた。

 彼女をそっと抱き留めたヴァレドは思いが溢れ出るのを堪えてイルデットに顔を向ける。

「どう礼すれば良いか……オレに出来ることがあれば何でも言ってくれ」

「そうだな……」イルデットは悪戯な笑みを浮かべた。「〝聖剣使い〟を代わってほしい」

 まだ手に握っていた聖剣を差し出す。

 ヴァレドは面食らったような顔になった。

「もう役目は終わったんだろ? 代わるってどういう……」

「魔神がこの世界から消えて、魔物も瘴気も消えたんだ。瘴気病も全部治って、たぶん今頃あちこちで騒ぎが起きてる。だから、ヴァレドが王宮にでも行って〝自分が聖剣使いで、魔神を倒した〟とでも言ってくれれば」

「そんな手柄を横取りするような真似——」

「僕は故郷で平穏に暮らしたいんだ。下手に目立って王都から出させてもらえず無駄に担ぎ上げられるようなことになったら嫌だし……それをヴァレドに押し付けようとしてる訳だけど、やっぱ駄目か。ごめん」

「っ、」ヴァレドはひったくるように聖剣を奪う。「そういうことなら任せろ! オレは故郷に帰る気無ぇし!」

『聖剣を持って行くことは許可できぬ』

 天から声が響くと同時に手から聖剣がぱっと消えた。ヴァレドは眉をひそめる。

「それじゃオレが聖剣使いだって信じてもらえねぇだろ」

「大丈夫だろ」イルデットは気楽そうに笑う。「傍に神使がいるんだから。神使の証言なら誰も疑わないだろうし」

「大変だったアピールしちゃいなよ」

 リオネラが笑顔で口を挟んだ。それにエシュカも同意する。

「そうね、盛りに盛って報酬ふんだくれば良いわ」

「……例えば?」どう盛れば良いのか思い付かないヴァレドに、

「何回も知んだけどその度に聖剣で生き返ったとか」イルデットが適当に言い、

「倒すのに何日もかかったとか」リオネラがもともと想定していた〝大変だったアピール〟の内容を言い、

「5日に渡る壮絶な戦いの末、魔神を次元の狭間へ封じることが出来た——という感じかな」エシュカが具体的な提案をした。

 ヴァレドは「なるほど」と呟き、最愛の人に視線を向ける。彼女は乗り気なようで、何度も頷いていた。

 なら言われた通り盛ろう、とヴァレドは決心し、再びイルデットに目を向けた。

「それだけってのも納得いかねぇ。他に無ぇのか」

「うーん………………思い付かない。貸し1つってことにしといて」

「おう」

「じゃあ僕たち帰るから。リオネラはどうするんだ?」

「そうだねー……おねーさんはねー、聖剣使い云々のほとぼりが冷めたくらいに王都に戻るよ」

 リオネラは楽し気にそう言って、にひひと笑った。

 方針が決まり、それぞれ頷く。それぞれ行く方を向いて、歩き出す。

 イルデットもまた東を向いて、エシュカと共に歩き出した。

 帰路もまた、長い旅になる。だがそこに憂鬱さは微塵もない。

 達成感に浸っていると、「ちょっと飛ばすわよ」とエシュカが転移魔法を使った。


 やっと昇った朝日が、無人になった草原を柔らかく照らしていた。


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