表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
滂沱の日々  作者: 水下直英
123/123

話すべき内容は状況によってすぐ変わる


 山を下りていくと、【グリフォンの森】とおぼしき森林が前方に見えてきた。


連邦の手が全く入ってないことは、獣道が見当たらないことから窺える。


おそらく自由に動き回っているのは、空駆ける森の主【グリフォン】だけなのだろう。


意を決し、四人で森へと踏み入る。



 森の中は静けさに包まれていた。


既視感が脳裏をよぎる。


「ゼダ、ソムラルディ、

 【悪鬼の巣】を発見した時、

 こんな風に森が静かだった。

 どうだ? 【闇の力】が感じられないか?」


私の言葉でみな警戒心を強めたようだが、二人は怪訝な様子で顔を見合わせている。


「……いや、嫌な臭い、しない。

 獣の臭い、有る。

 長耳、どうだ?」


「うむ。

 何も感ぜずな。

 闇の気色は無し。

 されど、光の気色も無し。

 いかなることなり?」


ソムラルディの質問に答えられるものは居なかった。


四人で顔を見合わせる、僅かに逡巡したが私から提案を発した。



「森に少しずつ【祝福の光】を注いではどうだろうか?

 悪い方に転がることは無いと思うのだが?」


「む、グリフォンに注ぐまじくすべき。

 【魔物】を浄化する力がいかが作用するやわからず。

 近き所のみに掛くべし。」


「あぁ、分かっている。

 何か変化を感じたら教えてくれ、

 行くぞ?」


緊張した空気の中、祈りを捧げる。


広範囲に拡がらぬように気持ちを抑え、周辺の狭い部分にだけ光を降り注いだ。



 【祝福の光】の効果はあまり無いように見えた。


ゼダとソムラルディも首を横に振っている。


しかし私のみは少しだけ変化を感じていた。


森のさざめきが僅かに聴こえ始めたのだ。


そのことを三人に伝えたが、彼らは首を捻るのみである。


前回もそうだった。


この感覚は私の何が反応しているのだろうか?



 森の中を慎重に進んでゆく。


【祝福の光】によって私たちの通ってきた部分のみ、【自然の気配】が戻っているように感じられる。


やがて、ソムラルディの【索敵】に反応が出た。


「来しぞ!

 グリフォンなり!

 間違いなし!」


高速で向かって来る存在をすぐに私とゼダも知覚した。


キシンティルクに声を掛け陣形を整える。


不意打ちを喰らわぬよう大木を背に四人で固まっておき、私の【魔力の盾】で包んだ。



 現れたのは私が想像していた通りの【グリフォン】だった。


観測所の団員たちから報告されていた通りの姿なので間違いようもない。


わしの頭と翼、そして前足を持ち、胴体より後ろの部分は獅子という、前世の知識とも合致する怪物が姿を見せた。


薄暗い森のひらけた部分へと降り立ち、頭部から胸部分にかけて生えている白い体毛をきらめかせている。


先に降りた一際大きい一体に続き、計五体のグリフォンが目の前で羽根を畳んでいる。


押し黙ってはいるが、その生体反応から闘争心は感じられない。


どうやら最悪の事態は免れそうだと武器を下ろし、声を掛けた。



「突然の訪問、失礼した。

 私は山向こうで暮らす人間の代表、ジッガという。

 この森に暮らす者の代表者と話がしたい。

 いかがだろうか?」


私の言葉と共にゼダたちも戦闘態勢を解いていく。


案の定、五体の中で一番大きいグリフォンが言葉を発した。



「ジッガ、それがお前の名か。

 ワシは人間から、【アエトゥ】と呼ばれている。

 戦う気は、無いのだな?」


聞いてはいたが、流暢に人間の言葉を操る【アエトゥ】に少し面食らってしまった。


「あぁ、戦う気は毛頭無い。

 最近キミたちが度々私たちの生活圏に姿を現すため、

 戦いにならぬように話し合いに来たんだ。」


私の言葉を聞き、アエトゥはクルクルと喉を鳴らし、脇に控える四体を座らせ、『伏せ』のような体勢をさせた。


そして「クァクァ」と笑っているような鳴き声を発した後、ゼダに首を向けて話し始めた。


「そこなる【人狼】は、昔訪れし者か?」


「そうだ。

 あの時、理由無く、戦い挑んだ、済まない。」


「クァ、なるほどなるほど、許そう。

 誰も死ななかったからな。

 死んでいたら、許さなかった。」


「あぁ、幸運だった。」


どうやら過去の殺し合いは水に流せそうだ、と一安心した。



「アエトゥ、

 ではこのまま話し合いをしても構わないか?」


「構わぬ。

 ワシも、人間に聞きたいことがある。」


「ほぉ?

 ではそちらの質問を先に聞こう。」


これから友好的な付き合いをするべき相手だ。


穏便な話し合いをするならば、向こうの疑問から片付けていこうと判断した。


しかし彼からの質問によって、私たちの話し合いは中断することとなる。


「ワシらは前に人間の群れ、助けた。

 だが、その人間たちが弱っていき死んでいく。

 どうすれば良いのか分からん。

 何か知っているか?」


「何!?」


ゼダたちの方へ振り向くと真剣な表情で頷いている、すぐさまアエトゥらへ向き直り急いで提案した。


「まずは私たちをその【人間たち】の所へ案内してくれ!

 急げば助けられるかもしれない!」


私の剣幕にアエトゥは驚いたらしい、前足を片方上げて上半身を仰け反らせている。


「なんだ?

 あの人間たち、お前の【家族】なのか?

 なぜそんなに必死になっているんだ?」


「その人間たちは私の【仲間】の【家族】かも知れないんだ!

 命を助けたい! お願いだ!」


グリフォン相手ならば人間の様に【駆け引き】など必要無い。


真っ向から感情をぶつけた。


そして、アエトゥはまだ少し訝しげな様子ではあったが、


「案内しよう、ついて来い。」


と、四体のグリフォンに合図をして、森の奥へと走り出した。


流石に以前殺し合いをしたゼダたちを背に乗せるのは躊躇ためらわれたのだろう。


だが、森の中を駆けるグリフォンは中々に速い。


ソムラルディが少し遅れ気味だったが、何とか彼の索敵範囲が及ぶうちに【グリフォンの巣】へと辿り着くことが出来た。



 到着した場所は森の中心なのだと思われた。


見たことの無いぐらいの大木が立ち並ぶ樹上から、他のグリフォンの鳴き声が聴こえる。


そして生体看破魔法により、私は約二十人の人間が木々に囲まれた場所へ集まっているのを知覚した。


「アエトゥ!

 彼らを助ける!

 異存は無いな!?」


「勿論だ、任せる。」


「よし!」


ぐったりとした者が木々の根元に寝かせられ、何人かのまだマシな体調の者がそれを看病しているようだった。



 衰弱している彼らは、グリフォンが連れてきた私たちに気付き、一斉に怯えた目を向けてきた。


「心配するな諸君!

 私はラポンソの【仲間】だ!

 キミたちを救いに来た!

 落ち着いて治療を受けてくれ!」


「おぉ! ラポンソの!」

「アイツらも無事なのか!?」


彼らはソムラルディが推測した通り、ラポンソとはぐれた避難民で間違いないらしい。


私の言葉によって目に生気が戻り始める。


最も衰弱している者を教えてもらい、ソムラルディを助手として【魔力循環】を最大にして注ぎ始めた。



 最初は苦痛を伴う治療に恐怖を覚えたらしき人々も、治療後に活力を取り戻した者を目の当たりにし、従順な態度へと変わっていった。


元より反抗する力など無かっただろうが、彼らは【奇跡の力】を素直に受け入れてくれた。


「おぉぉ、ありがたや。

 これは噂に聞く『聖女の癒し』でしょうか?

 貴方あなたは【サラパレイメン】の?」


「いや、ヌエボステレノスの一角を借り受けた自治区の者だ。

 【聖公国】とはこれから敵対関係になるだろうな。」


「えぇ!? ど、どういうことでしょうか?」


この避難民たちの代表者という【ヨシュノフ】が、獣人とエルフを引き連れた少女である私という存在に、頭を抱えてしまった。


混乱する彼の相手はキシンティルクに任せ、私たちは治療を続けていく。


幸いなことに重病な者は居らず、【魔力循環】の痛みや疲労によって半数は眠りに落ちたが、残り半数はすぐに活力を取り戻せた。


治療を終えゼダらの方を振り返ってみれば、彼らはアエトゥやヨシュノフを交え話し合いをしていた。



「なんと?

 サラパレイメンが攻め込んできているのですか?」


「まだ、国境沿い、いるだけ。

 だが、戦いは、時間の問題。」


ヨシュノフはキシンティルクの情報に目を剥き、驚きを隠せない様子だ。


「しかし、何故人間であるジッガがエルフや獣人と共に居るのだ?

 【亜人戦争】の影響は消えたのか?」


アエトゥが首を振りながら不思議そうな声色でゼダに問うている。


「ジッガ、【我が友】だ。

 ジッガたち、いいやつ。

 だがまだ、悪い人間、いっぱいいる。」


ゼダが熱弁を振るい始めたが、やんわりと止めに入る。


余計な事を言って人間に対して悪印象を増やされては困ってしまうからだ。


衰弱から立ち直った人々を集め、今度こそ私たちは彼らからの情報を確認し始めていった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ