表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
滂沱の日々  作者: 水下直英
113/123

この果てしない大地は誰の物でもない


 雨季が訪れた。


聞いてはいたが、初めて体験する【豪雨】は恐ろしさすら感じられる凄いものだった。


セッパたちがドワーフ独自の【感覚】で脆弱な地層を指摘してくれていなければ、土砂崩れが数ヶ所で起こっていただろう。


十人ぐらいでチームを編成し各所を見廻ってみると、想定以上の被害が見て取れた。


扇状地扇端から大きく拡げた畑が一番酷い有り様だ。


雨によって畑の各所が水没しているので、そこに植えられた作物は全滅だろう。


水はけ用にと脇に水路を掘っていたが、想定以上の雨量に役を成していない。


いや、それがあったからこの程度で済んだ、と思うべきか。



「ゲーナ、計画的にはどうだ?」


「うん、

 悪い方での計画通りかな。

 雨季でも皇国との交易は出来る、って

 キシンティルクさんから聞いてるけど、

 【草原】の開発を急ぐべきかもね。」


「そうか、

 ソムじ、ソムラルディ、

 【共同開発】はもう始まってるよな?

 ケジャナたちも追加で送るべきかな?」


「構わず。

 【草原】の仕事は有り余れり。

 規律はネテルミウスら守る。

 あとは食糧問題ばかりなり。」


「ん、ゲーナ、どうだ?」


「果樹園で果物が採れ始めてる。

 それを交易に出せれば大丈夫。

 自分たちで食べてもいいしね。」


「うん、

 あ、モンゴとかテビンスが【酒】を造りたいって言ってたが?」


「そんなの余裕が出来てからだよ!

 お酒なんてトラブルの元なんだからしばらくお預けに決まってるでしょ!」


「あ、うん、すまない」


ゲーナは酒飲みの大人たちに対して何か含むものがあるらしい、しばらく触れないでおこう。


モンゴたちが残念そうに嘆く様が想像できる。


そういえばメナンデイルが果物を食べたがっていた、草原の警備をしているエルフ部隊に果物を届けてやらねばなるまい。



 居住区に戻り、テント暮らしのプラァビダ避難民のところへ訪問する。


老人や女性、子供らは集会所や大きめの家に引き取られていて、残っているのは健康な警備団候補の者ばかりである。


テント入口で警備兵の役目を果たしている者に声を掛けた。


「ゴーデン、何か被害は無いか?」


「はっ!

 ございません!

 お二人も平穏無事であります!」


「ん、二人を呼んでくれるか?」


「はっ!」


厳つい体格のゴーデンがテントの奥へと入っていき、セレィデルとホリィトアを連れて来た。


故郷を守れなかった悔恨が残る二人は、進んで苦境に身を置こうとする。


セレィデルはともかくホリィトアには集会所へ行くよう勧めたのだが、頑としてテント暮らしを選択していた。


「ジッガ様、どう致しましたか?」


いつも二人でいるんだな、と彼らを見やるが、恋人同士ならばそれが当たり前なのかと思い至る。


「あ、うん。

 囲まれていたようだが大丈夫か?

 また何か文句を言われていたのだろうか?」


「あぁいえ、大丈夫ですよ。

 ジッガ様の【魔力循環】を見様見真似みようみまねで試していたのです。

 わたくしよりホリィトアの方が才が有るようです。

 見て頂けますか? それらしきことが出来ていると思うのですが。」


「ほぉ?」


セレィデルだけでなくホリィトアにも魔力があるとは初耳だった。


早速ソムラルディ相手に【魔力循環】を行わせてみる。


「ふむ、

 水の魔力かな。

 氷より水に近し。」


「へぇ、純粋な水の魔力は初めてじゃないか?

 あとはカンディぐらいだろ?」


「あぁ~、

 でもワタシ水を増やすとか浄化しか出来ないからぁ。」


「まぁ、ではカンディ様に教えて頂きたいです。

 私の魔力を自治区にお役立てください。」


「えぇ~?

 教えるとか出来ないよぉ、困っちゃう~。」


ホリィトアは水の魔力持ちらしい。


今度精霊国に行くことがあったら連れて行くべきだろう。


リルリカに頼んで同行してもらい、その鍛練法を学んでもらっても良い。


今後のことを考えれば【水】の確保は必要不可欠の要素だ。


精霊国の成り立ちを見ても分かるが、水が在るだけで人は生活出来るのだから。


私の中でホリィトアの存在価値が格段に上がった気がする、現金なものだと我ながら思う。


「あぁ、それはそれとして、

 雨の中ここでテント暮らしをするのも辛いだろう。

 良ければ【草原】での【共同開発】に移行してもらいたいのだが、

 いいだろうか?

 もちろん家族を連れて行っても構わない。

 女性の中で室内作業をする者もいるだろうから相談次第となるが。」


「もちろん構いません。

 いよいよ自治区の為に働けるのですね。

 有志を募ります、皆の力をお役立てください。」



 新しい自らの役割に燃え立つ二人は精力的に動き始めた。


私たちが区役所に戻り他の報告を受けている間に、二人はケジャナとゴーデンを伴い移住者編成の完了を伝えて来た。


「随分早いな、準備は大丈夫か?」


「逃げ出した我らに元より荷物などありません。

 我らの新たな居場所を一刻も早く確保致したいと思います。

 どうかお導き下さい。」


「そうか、その気持ちはとても良く理解出来る。

 私が連れて行こう。

 ソムラルディ、カンディ、行こうか。」


「うむ」

「うん!」


「ゲーナ、あとで食料などの手配を頼む。」


「わかった、いってらっしゃい」


「よし、行こう!」


雨の中、集会所に伯爵領からの移住者が集められ雨具を装着していく。


馬で行けば【草原】の橋まで一日で行けるが、歩きだと途中で野営が必須となる。


今すぐに出れば山間の道は越えられるとは思うが油断はできない。


豪雨の中での移動なので速度も鈍るだろう、子供連れに気を遣う必要もある。


山を抜ける前に野営をする訳にいかないので少々無理をする必要性が感じられる。


移動する約百五十名の民に対し出発の檄を飛ばすことにした。



「グライディア伯爵領より辿り着いた諸君!

 話は聞いているだろうか!?

 【草原】を開拓するためにキミたちの力を借りたい!」


幼い子供も居るはずだが、しわぶきひとつ立てずにみな黙って聴いている。


プラァビダから逃れてきて日が浅い、まだ緊張感が解れていないのだろう。


「今日これから【草原】へと向かう!

 この地域は雨季の為、今日中に山を抜けたい!

 皆の団結が試されるだろう!

 心を一つに歩き続けることが出来るかということだ!」


おぉぉ


低いどよめきが起こる。


「これから諸君には【草原】を切り拓いてもらいたい!

 【国】を興すためだ!

 我々の【国】であり! キミたちの【国】である!

 我々は【祖国】を失った!

 しかし! 我々は新たな【国】を得るのだ!」


おおぉぉぉ!


先程より力強いどよめきが湧き上がる。


「我々の【国】がどのようなものになるか!?

 それは! それを創り上げ! そこに暮らす! キミたち次第だ!

 私は『皆が安心して暮らせる国』を創りたい!

 キミたちはどうだ!?

 子供に! 孫に! 子孫に誇れる【国】を創りたくないか!?」


おおおぉぉぉ!!


人々が理想を叫ぶ声が重なり合い、大きなうねりとなっていく。


「では行こう!

 我々の【国】を創りに!

 我らの行く末に光在れ!!」


私の叫びと共に光が降り注ぐ。


集会所に歓喜の声が湧きあがった。


自分たちが祝福されたのだと喜び合っている。


弾ける感情と共に出発した私たちは無事に日が暮れる前に山間の道を通り抜けることが出来た。



 数日ぶりに雨音を聴かない夕食を摂っていると、ケジャナに話しかけられた。


「姫様が仰っていたことが私にも分かりましたよ。

 ジッガ様と我が身を比べられてしまったんだねぇ。

 でもジッガ様、姫様には姫様なりの長所があるからね。

 今夜は私とお話させてもらうとしようかね。」


「え、あ、あぁ、構わない。

 ではプラァビダやグライディアについて色々話そう。

 きっと今後に活かすと約束する。」


「そんな固い話ばかりじゃすぐ砕けちまうじゃないか。

 硬軟織り交ぜるのが賢い女のやり方だよ、覚えとかないとね。」


「あ、うん、わかった」


ホリィトアの乳母もしていたというケジャナには、有無を言わせぬ強引さが有った。


だが、不思議と嫌悪感は感じない。


もし、祖母が生きていたならば、こういう関係性だったのかも知れない。


そう思わせられる雰囲気をケジャナは持っていた。


自治区に帰ったら、ニーナにまたスープを作ってもらおう。


ふと、そんな思いに囚われていると、ケジャナに『話をちゃんと聞くように』と注意をもらった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ