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滂沱の日々  作者: 水下直英
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憎しみを浴びせられるのは辛く悲しい


 夜明けとなり、私たちは【怪樹】の残骸を一纏めにして土中へと埋め入れた。


その上から【祝福の光】を浴びせ、【闇の力】を地下深くへと追いやる。


ソムラルディ以外にも、エルフ部隊の何人かが【闇の力】を感知することが出来ていて、眉をひそめていた。


メナンデイルも感知し得た内の一人だったので、どのような感覚なのか訊いてみる。


「光の無き真の闇なり。

 日の反対は月ならず暗闇。

 根源の恐怖のみなもと感ぜらる。」


ソムラルディと違い、人間との触れ合いの無かったメナンデイルは言葉が古臭い。


だが何となくは意味が伝わる。


私やエルフの【精霊の力】には光を感じ、逆に【闇の力】はそれが一切無い。


日向ひなたに真っ黒な【影】だけがあるような『恐怖』の【感情】を覚えるのだとか。


ゼダは【闇の力】を『嫌な臭い』と表現していた。


彼の方が感情ではなく五感による直接的な発見が出来易いのかも知れない。



 太陽が中天から少し傾きかけた頃、後続部隊が到着した。


既に精霊国からの支援部隊も合流しており、スィチャカが挨拶に訪れた。


「ジッガ様、

 ヘネローソより四百の騎馬隊で参りました。

 速度重視で編成されておりまして、

 あまり実戦経験は無い者たちですが、本当に宜しいので?」


「構わない、我々がそう望んだのだ。

 希望通りの援軍を率いてきてくれたこと、感謝する。

 もしも、戦闘になった場合は自衛のみ考えて行動してくれ。」


「いや、それはさすがに。

 援軍としてお役立てください。

 さほど強くありませんが。」


相変わらず掴み所の無い回答をしてくれる。


思わず零れる苦笑いのまま、その肩を叩き労をねぎらう。


そのままツェルゼンやハザラ、ネテルミウスらを呼び寄せて戦略確認をして国境沿いまで向かう友軍を見送る。


私はセレィデル・ホリィトアらを引き連れ別行動となる。


避難民を救う為、その隠れ家へ向かい【プラァビダ侯国】へ潜入するのだ。



「【悪鬼】たちって【精霊の力】に反応すんだろ?

 ジッガは本隊に残ってた方が良かったんじゃないか?」


「避難民に大怪我をした者がいたら移動もままなるまい。

 その為にカンディも連れて来たんだ。」


「カンディもそうだがホリィトアも戦闘出来ないんだろ?

 【悪鬼】が出たら俺たちから離れんなよ?」


「いや、ドゥタン。

 お前は【肉壁】役なんだから最前線だよ。

 その近くになんて居られないだろ。」


「ぬなっ!」


「静かにしろ。

 無駄話をしていて見つかるなんて馬鹿のすることだぞ?」


「む、すまねぇ」


我が【リベーレン自治区】の【警備団】には、明確な序列は定められていない。


モンゴが【団長】、ツェルゼンが【特務隊長】で【教官】、それぐらいだ。


今現在、私が率いる【潜入部隊】にも序列は無い。


エンリケを除く【ジッガ団】と王侯貴族の二人、そしてドゥタン・キャンゾのコンビにツセンカとソムラルディの十二名の部隊となっている。


ガーランテ皇国への使節や、精霊国へ訪問した際の顔ぶれに近い。


だが、今回の部隊の目的は【避難民救出】である。


気を抜かず、危機感を持って行動するようドゥタンとアグトに注意を促す。


【まとめ役】の私がしっかりしなくては、と気を引き締めた。



 セレィデルの案内で【連なる山々】の山裾やますそを西へと進む。


高台の山林へ登ると、ディプボスとの国境沿いの荒地に自治区警備団と精霊国の混合部隊が陣を敷いているのが見えた。


かなり距離を置いた侯国側に、その半数ほどの部隊がひと塊になっている。


アレが第二王子シェルトナハディがグライディア伯爵領に駐屯させている部隊なのだろう。


【身体強化】されている私やアグトの視力でなんとか確認出来る距離だ。


ホリィトアらは見えていないようで感情を揺らがせることが無いのは幸いなことだろう。


親の仇を放置する辛さを無駄に味わわせたくない、アグトらに黙っているよう目配せし、セレィデルに先を急ぐよう促した。



 もう少しで避難民の隠れ場所へ辿り着く、とセレィデルが伝えてきた時、私は索敵に【魔物の群れ】の存在を感知した。


「【魔物】がいるぞ。

 数は二十弱、おそらく【ゴブリン】だ。

 新種の【黒い奴】かも知れん、

 隊列を組め、

 カンディ、セレィデルたちを頼む。」


「う、うん」


セレィデルらを中心に据え、私たちはひと塊となって進軍する。


【魔物】たちはこちらに気付いた様子は無い。


山林をできるだけ物音を立てずに進み、肉眼で確認出来るとことまで詰め寄る。



 話に聞いていた通り、ドス黒く変色したような【ゴブリン】たちが果実の生る木の周りで群れを成していた。


情報通りならば【ゴブリン】より手強いはずだ。


まずはソムラルディやゲーナによる弓矢で先制する。


ギギィッ!

ギャギャッ!


不意打ちの矢によって三匹のゴブリンが急所を射抜かれる。


「行くぞ!」


私とアグト、ドゥタンが先陣切って突進した。


鞭の攻撃でゴブリンが次々頭部を失い倒れ伏す。


アグトたちも前面のゴブリンたちを抑え、左右に回り込もうとする奴らはキャンゾとツセンカによって足止めされた。


その間にソムラルディとゲーナが【魔法の弓】によって凍らせ砕いてゆく。


戦闘しながら、私は【黒ゴブリン】の手強さの理由を知った。


『【自己修復能力】を持っている!』


鞭の一撃で爆散した魔物の手足が、徐々に生えてきているのだ。


「手足ではダメだ!

 頭を狙え!

 完全に息の根を止めろ!」


「おうっ!」


【オーガー】との戦いを経ている仲間たちにとっては、多少手強くともゴブリンはゴブリン。


ツセンカがカンディらを守る為に少し手傷を負っただけで、全滅させることが出来た。



 アグトらが黒ゴブリンの死骸を埋めている間に、ツセンカの治療を行う。


腕に負った引っ掻き傷がみるみるふさがっていく。


「これが【聖女】の力ですか。

 初めて見ましたが、凄いです。」


「侯国にも【魔法】の知識は有ったのだろう?

 【治癒魔法】は無かったのか?」


「有りませんでした。

 四元素に関するものだけです。

 【治癒魔法】と云えば【サラパレイメンの聖女】、

 他では聞きませんね。」


「やはりそうなのか」


一応他言無用と言い聞かせ、魔物の後処理を終えると避難民の許へと再出発した。




「着きました。

 あの廃鉱山跡地に民は身を隠しているはずです。」


セレィデルの指し示す方向を見てみても、木々に覆われた山壁が在るのみで人の気配は無い。


しかし生体看破で索敵してみると、見張りらしき二人の人間の存在が知覚出来た。


「確かに居るな。

 私が呼び掛けてみよう。」


魔力を込め、前方へ強く声を放つ。


「グライディア伯爵領の避難民たちよ!

 第三王子と伯爵子女の頼みによって救出に来た!

 怪我人や病人は居ないか!?

 すぐに国外に出たい!

 応答してくれ!」


私の言葉が届いたのだろう。


見張りのうち一人が坑道らしき洞穴へと引っ込み、すぐに数十人の人々が姿を現した。


「おぉ!

 本当に【ホワイリィトア】様じゃ!」


「【セントリレィデル】様も!

 よくぞご無事で!」


喜ぶ領民が声を上げている、しかし中には二人に【悪意】持つ者らも居た。


「今さら何しに来やがった!

 俺らの家は燃えちまってんだぞ!」


「アンタらを守る為に夫は死んだんだ!

 アタシだけ生き残ったって何にもならないよ!」


罵声を浴びせられ、セレィデルたちは苦しげに顔を伏せる。


だが、ホリィトアが唇を噛み締めながら顔を上げ、避難民たちに真っ直ぐ視線を合わせた。



「皆さんを守れなかったこと、

 亡き父グライディアに代わり謝罪致します。

 そして今現在、伯爵領を取り戻す力を持たぬ我が身を恥じ入ります。

 ですが!

 このままあの【シェルトナハディ】の悪鬼の如き所業の元に

 皆さんを置いておくことは出来ません!」


勇気を振り絞り領民へと対峙する婚約者の姿を前に、セレィデルが足を震わせながらも前に出る。


「皆の怒りはあの悪鬼の弟たるわたくしが引き受けよう!

 今はその【憎しみ】を【生きる力】に変えて欲しい!

 このままでは皆の命は【悪しき神】に吸い取られるのみ!

 今は! 今だけは!

 私たちではなく!

 この【リベーレンの聖女】である【ジッガ】様を信じてついてきてくれ!」


「な、何を言って・・・」


急に知らぬ名を出されて困惑する領民たちの中をかき分け、進み出た者が居た。


「あ、あの!

 【聖女】様ならばこの子を治してください!

 逃げる途中で矢が刺さって!

 どうか! どうか!」


女性の腕の中には五歳ぐらいの子供が居た。


肩を怪我したらしく、血の滲んだ布が巻かれ、顔面蒼白で荒い息を吐いている。


すぐにカンディを呼び寄せ、子供の手を取り、【魔力循環】を行う。


ソムラルディがゲーナを助手にして、子供の肩に入り込んだやじりを抜き取る。


抜き取った傷跡が、私の【奇跡の力】によってすぐに塞がってゆく。



おおぉぉ!



 周囲で成り行きを見守っていた人々から歓声が上がる。


廃鉱山の坑道から次々と避難民が現れ、怪我人や衰弱した病人が運び出されてきた。


やがて、怪我人たちが一人残らず治療された後、ようやく国外脱出についての話し合いが行われることとなった。




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