新しく出逢った者との交流の仕方
兵士らの編成や兵站を担当する輜重隊に関しては、ツェルゼンやゲーナらに任せ、私たちは騎馬で先行することになった。
主に魔法使いで編成された私たち先行部隊は、【草原】の草刈りや、坂道などの難所を迂回するルートを切り拓く【任務】を任されている。
我々の仕事如何で、侯国までの進行日程が数日は短縮できる重要な任務だ。
「あの時に途中の丸太橋、壊さなきゃ良かったな。」
「今さら言ってもしょうがないことを言うなマグシュ。」
「そうだよぉ、ほら、さっさと草をどけてよ。」
草原の草刈りではリルリカが大活躍だった。
チュバリヌから学んだという【風魔法】によって、丈の長い草が一直線に刈られてゆく。
精霊国が数十年前に【精霊】から授かったという【水の刃】の応用なのだとか。
私たちには刈られた草を両脇にどかすだけの簡単な仕事だけが残された。
エルフたちやアグト、ドゥタンらが黙々と作業する中、マグシュが元気な声を上げている。
もしかすると数日後には侯国と【戦争】になるかも知れない状況なのだが、空元気でも彼のような存在は精神的に有り難い。
クヨクヨしていてはまた気持ちが塞ぎ込んでしまうだろう。
マグシュが上げる明るい声にハテンサやベルゥラも笑い声を返している。
セレィデルたちは後続部隊にいるので、せめて今だけは明るい気持ちで過ごしていたい。
「ネテルミウス殿は【火魔法】が得意なのだろう?
今度マグシュらに手解きしてもらえないか?」
「はい、我などに宜しくば喜びて。
戦ひのほかに能の無き我なれど、
役に立てば幸いなり。」
以前とは打って変わり、とても低姿勢な返答をする彼女だが、それには理由が有った。
先程草原に到着して、リルリカらが作業を開始した時に、ネテルミウスから【力試し】の申し出があり、私がそれを受けたのだ。
素手での格闘戦だったのだが、彼女は中々に強かった。
エルフの中で一番の強者、と大言壮語を吐くに相応しいものを感じた。
しかし、私の【身体強化】がそれを上回り、ツェルゼンから叩き込まれた【戦闘技術】でも彼女を凌駕した。
人生初めての【敗北】を目前にして、彼女は乱心してしまう。
得意とする【火魔法】を放ったのだ。
【炎の矢】が彼女の五指から射出され眼前に迫ったが、私は練られた【魔力】を前方に壁として置き、全て防いだ。
一歩間違えば再び【草原】が焼け野原になる彼女の行動は、エルフの【最長老】の見た事も無い烈火の様な【説教】を発現させてしまった。
『森の民の風上にも置けぬ!』という己の存在意義をぐらつかせる説教に、ネテルミウスは現在心が折れてしまっている。
トボトボとした歩調で草をどかしていくネテルミウスを、何とか元気付けようとその背中をポンポンと叩きながら慰めの言葉を重ねる。
「初めて負けそうになって気が動転してしまったんだよな?
わかるぞ、その気持ち。
獣人の王のゼダックヘインという者が大層強くてな?
素手での【力比べ】だと全く敵わないんだ。
もう笑うしかない強さだぞ?」
「この上尚強き者や居る。
我など大樹に対しての小枝如き存在かな。」
「あ……」
励ますつもりが更に凹んでしまった。
もう駄目だ、やはり私は感情の機微が上手く掴めない。
無言でまた背中を叩き、その場を離れた。
【草原】を抜け、再び騎乗して移動し始める。
逃避行の際に苦しめられた【坂道】に到着したが、ソムラルディに案内されて森の方へと向かった。
少しだけ回り道になるが、大木を十本ほど倒せば馬車でも通れるようになるらしい。
「どうやって倒すんだ?
私の【炸裂魔法】だと五本が限界だが?」
「うむ、
今こそ森の民の力を見するほど。
【メナンデイル】、任せしぞ。」
「は、はい!」
ソムラルディが名を呼び、エルフの一団から進み出たのは、私やマグシュと同年代と思われる幼い少年だった。
一人だけ特別若いので気になっていたが、どうやら【魔力】の高さで選抜された者らしい。
ネテルミウスとアグトを背後に控えさせ、メナンデイルが大木の前に立つ。
「う~、シハッ!」
可愛らしい掛け声とともに射出されたのは、噂に聞いた【水の刃】だった。
魔法の刃はズバッと大木を切り裂き突き抜けていく。
事前に知らされていたらしいネテルミウスとアグトがすぐに大木に飛びつき、倒れる方向をコントロールする。
ズズゥン、と轟音を立てて大木が向こうへ倒れていく。
見ていた私たち人間側の兵士らから『おおぉ!』と感嘆の声が漏れる。
少し照れくさそうに微笑み返すエルフの少年は、人間に対しての偏見を持っていないように見える。
出来るだけ交流を多く持ち、【最長老】のような嫌味な爺ぃにならないよう導かねばならない、と強く思った。
メナンデイルの【水の刃】は私の炸裂魔法より燃費が良いらしく、十本の大木を軒並み倒していった。
残った切り株はカンディの【土魔法】によって土が柔らかくされ、易々と抜き取られていく。
エルフの少年の素晴らしい水魔法に感嘆し、途中で声を掛けてみた。
「すごいなメナンデイル。
私と同じぐらいの年なのに、魔力量が多いんだな?」
「あの、いえ、
僕、十五歳なれば、
ジッガ様より歳上ぞ?」
「えっ!?
お、……そ、そうかぁ。
うん、それでも凄い、凄いぞ?」
「はぁ、
かたじけなくそうろう。」
てっきり同じ年頃と思い込んでいたが、相手はエルフだった。
少年期は人間より数年成長が遅いらしい。
にしてもアグトと同い年には全く見えない。
ソムラルディが九十歳越えというのには敵わないが、エルフ風の喋り方と相まって結構なインパクトが有った。
ともあれ、迂回路は完成したので坂道手前に【看板】を立て、後続部隊に道案内を置き示す。
ここまでの作業は順調に終わり、少し戻ったところの以前掘った井戸がそのまま使えそうだったので、そこで野営を行うことにした。
恐らく後発部隊は草原の橋近くで野営をしていることだろう。
我々は明日、短めの森を抜け易く整備し、小さい川に丸太橋を掛ける任務が有る。
それが終われば全速力で駆け、断崖の細道を横目に侯国へ向かい、障害となる物を排除する役目を担う。
ソムラルディやネテルミウスはその先には何も無いと言うが、エルフの感性は当てにならない。
それを不用心に信じ込んで馬車が通れなくなり、何日も無駄にする訳にはいかないのだ。
とにかくエルフに対しては【思い込み】をしてはならない、そう学んだ。
その日の夜、寝る前に歳の近い女同士で色々なことを話した。
リルリカ、カンディ、ベルゥラと少し下世話な話で盛り上がる。
特にベルゥラは深井戸掘りの頃はずっと一緒だったのが、最近戦いや会議などが多かったので久々に砕けた話をした気がした。
カンディがさり気なく『好きな人がいるのか?』という質問をしていたが、軽く流されてしまった。
それでも、カンディの【女の勘】によると、ベルゥラの好きな相手はエンリケではないらしい。
皆、自分の話は極力せず、他人同士の相性について真剣に語り合う。
最終的に、ハッゲルはウーグラと結婚すればいいのに、という結論となった。
翌朝になって思い出し、カンディにそのことを話すと『いやぁ、やっぱり無いね』と答えられた。
新設した迂回路を騎馬で進み、短めの森に到達した。
前回通った道を、さらに通り易く整備していく。
ベルゥラの【固着魔法】にエルフたちが少し驚いた表情を見せた。
やはり彼女やエンリケの魔力は珍しいものらしい。
エンリケは更に【硬化】が使えるので、さらに希少な魔力ということだろう。
森の整備をしていると、一瞬マシラの群れが索敵に引っ掛かったがすぐ消えた。
こちらの戦力を正しく把握したのだろう。
もしかしたらエルフの存在に気付いたのかも知れない。
何にしろ戦闘にならないで良かった、無駄な時間は掛けたくない。
サッサと整備を終え、全ての馬に魔力循環を行い、丸太橋を掛けるべく再出発した。




