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滂沱の日々  作者: 水下直英
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義務を果たさずして権利は享受できない


 内乱に苦しむプラァビダ侯国グライディア伯爵領の民、セレィデルたちの言を信じるならば祖国を捨てこの自治区へ移住を希望する人々が数百はいるらしい。


無実の罪を着せられ領民は次々に捕らえられ、第二王子への服従を誓わされているそうだ。


侯国は元々【アーマルイト王国】王家の血筋を持つ、【プラァビダ侯爵】なる野心溢れる人物が祖国を追われ、現在の侯国を創り上げたと以前カカンドから学んでいる。


侯爵が治める国ということで【公爵】や【侯爵】は存在しないという。


そうなると貴族の最上位は【伯爵】なので、グライディア伯爵領は国内でも民の数は多い方なのだそうだ。


と言っても侯国は人口が一万人弱の小国であるので規模は千五百人ほどらしい。


第二王子の軍勢から避難し、セレィデルたちの知る隠れ場所に居る人数が二、三百という情報だった。


セレィデルたちと共にやってきた護衛騎士の【ゴーデン】らも会議室に呼び出し、彼らから知る限りの情報を集める。


第二王子の軍勢は千程度で、しかも第一王子軍や中央を掌握する第四王子軍と睨み合っている為に、伯爵領に駐屯しているのは現在三百名もいないという。


「抵抗はしなかったのか?

 伯爵領だって少なくとも五百程度の兵力は在ったのだろう?」


「奴らは最初だけ全兵力で攻め寄せたのです。

 城を落として、伯爵様をしいし、

 恭順する者を全て自領へと連れ去っていったのです。」


「第一王子や中央の軍勢に対抗するため頭数を増やしたかった、って訳か。

 相当追い詰められてやがんな。

 元伯爵領の兵士にいつ暗殺されてもおかしくねぇぞ。」


ハザラが呆れ顔で首を振る、大義も戦略も無い第二王子のやり方に怒りすら覚えている様子が見える。


「しかしいくら不意を突かれたからって、

 僅か一日で決着が着くものか?

 魔法か? それとも装備の違いか?」


そんなカカンドの問いから、ゴーデンの重要な証言が引き出された。


「どちらでもありません。

 戦場へ突然【魔物】が乱入してきたのです。

 伯爵様たちは【悪鬼】に対応せんと陣を乱し、

 あの卑劣な【シェルトナハディ】の軍勢に呑み込まれたのです。」


「【悪鬼】、とな?」


今まで静観していたセッパやネテルミウスらが眼光を鋭くする。


そこからは性急なドワーフの質問によって、伯爵領での戦いが詳細に検分されることとなった。


【亜人戦争再来】について何も知らぬ侯国からの逃亡者たちは、目を白黒させながら皆の質問に答えていった。



「なるほど、

 これは我らに全くの無関係、という話ではなくなってきたな。」


「あぁ、

 思ってた以上に【悪しき神】の影響が拡がってるみてぇだ。

 この【救出作戦】も気合を入れていかなきゃな。」


戦場に乱入してきた【悪鬼】について特徴などを確認した結果、やはり【オーガー】だった。


数は一匹だけだったそうだが、黒く変質したゴブリンを数十匹従えていたらしい。


黒ゴブリンは通常種よりも強く、並の装備では一撃で倒せない強さを持っていたという。


そして、【シェルトナハディ】という第二王子だが、最近自領で残酷な処刑を次々に行い、王の不興を買っていたことも知れた。


その母である第二夫人は以前より怪しげな宗教に心酔し、『神の力を手に入れるのだ』とうそぶいていたらしい。


考えてみればプラァビダ侯国は【連なる山々】を挟んでいるが、アヴェーリシャのすぐ北に位置する。


あの国が【闇の力】の発生源であるならば、そこから山を越えて【悪しき魂】が波及してもおかしくない。


シェルトナハディの領地は侯国南側だというのだから尚更だろう。



「チュバリヌたちの情報も当てにならねぇな。

 完全に【悪しき神】の影響が出ているじゃねぇか。」


「全くだな、

 情報の精度を高めるよう言っておいてくれリルリカ。」


「うん、わかった」


素直に頷くリルリカに頷き返してから、皆をぐるりと見回す。



「ツェルゼン、モンゴ、

 兵力はどのぐらい連れて行ける?」


「うむ、

 三百と、いやエルフも含め三百五十、どうじゃモンゴ?」


「そうだな、自治区の警備も残さなきゃならん。

 そのぐらいが限界だろう。」


二人に頷き、ゲーナに視線を送る。


「ゲーナ、

 その兵力の糧食はどうだ?

 それと救助した後の食糧計画は?」


「大丈夫、すぐ準備できる。

 計画的には雨季で作物が全く収穫出来ないと厳しいけど、

 皇国との交易を食物に変更すれば

 救助者を三百人収容しても雨季は越せるはず。」


満足いく回答に頷き、今度はスムロイを見やる。


「スムロイ、

 侯国の者らを受け容れる手配を頼む。

 区民らに不満を抱かせないよう注意してくれ。」


「うむ、任せておけ。」


そしてハザラへ最終確認をする。


「ハザラ、何かあるか?」


すると今回はいつもと違い、提言が有った。


「そうだな、

 相手の兵力とほぼ同数ってのは心許こころもとねぇな。

 精霊国からも兵を出してもらうのはどうだ?」


「む、あまり借りを作りたい相手ではないが?」


「なぁに、そんなに多くなくていい。

 今回は隠れてる難民を救うのが第一目的だ。

 戦うとしてもその【魔物】たちぐらいだろう。

 その残ってる駐屯軍が二の足を踏む程度の兵力でいいんだ。」


「ふぅむ、

 【威圧】の為の兵力か。

 みんな、どうだ?」


「慎重にいくならその方がいい。」


「俺らが先に行って騎馬で追いついてもらうのはどうだ?」


「たぶん糧食は負担するよう言われるだろうけど、

 五百以内ならなんとかなるよ。」


皆の意見に頷き、若き精霊国外交官に指令を出す。


「リルリカ、誰かを使いに出してチュバリヌから兵を借り受けてくれ。

 見せ掛けに使うから足の速い者たちで、と伝えるんだ。

 数は三百から五百、多くても少なくても駄目だぞ?

 カカンド、ゼダックヘインにも一応使いを出す。

 ただし手出し無用と念を押しておいてくれ。

 なるべく戦わずに民を多く救いたい。」


「ジッガ様!

 精霊国へのお役目は是非私に!

 きっと説き伏せて参ります!」


「わかった。

 ウーグラに任す、頼んだぞ。」


「はい!」


私の指示で会議室が慌ただしくなる。


「ジッガ殿、

 既に救出作戦は構想出来ているのか?」


ハッゲルが少しだけ気まずそうに問い掛けてくる。


まだ祖国の粗忽さを気にしているらしい。


「ディプボスとの国境沿いに兵を置こうと思っている。

 そこまで民を逃がしてくる算段が必要だがな。」


「算段ですか?

 セレィデル殿たちに一任した方が良いのでは?

 歓迎されぬ他国に踏み入るのは危険ですよ?」


ベイデルが侯国内部に踏み入る危険性を述べてくる。


第三王子を伴い私たちが国に入ってしまえば、それは人道的な行いでも軍事介入と見做みなされてしまう。


下手をすると自治区と侯国が【戦争状態】となる可能性が出てくるのだ。


アヴェーリシャと違い侯国は距離が近く阻むものが少ない。


【敵国】と認識されるのはなるべく避けたいところだ。



「もう一度確認するが、

 集めて保護したいのは東端の【伯爵領】の領民たちだけ、だな?」


「はい、兄たちと違い私はまだ領地を得ていませんでした。

 私を匿ったばかりに伯爵領が犠牲となったのは痛恨の極みです。

 ホリィトアには何度謝罪しても許されぬことです。

 償いとしてなんとか領内の民を救いたく思います。」


娘が婚約者である第三王子を連れて来たのを匿い、父は戦死し、母は二人を逃がすために惨殺された。


グライディア伯爵夫妻の悲劇は貴族とはいえ気の毒に思えた。


「セレィデル殿、ホリィトア殿、

 厳しいことを言うようだが、

 これは貴方がたの国の問題であり、救うのは貴方がたの民だ。

 二人が先陣に立って民を導いて欲しい。

 私たちが出来るのはその助力だけだ。」


「し、しかし・・・」


言い淀むセレィデルとホリィトアを見つめた後、私は祈りを捧げた。


「愚かな欲望の前に命を散らしたグライディア伯爵夫妻。

 罪無き生を全うしたならばその魂は天に還り給え。

 そして娘とその婚約者へ一握りの【勇気】を与え給え。

 伯爵夫妻と共に犠牲となった者たちにも永久とわの平穏を。」


「あっあっ!」

「なに!?」


二人の身体と私の胸の内から光の珠が飛び出し、会議室を明るく照らす。


百以上あっただろう光は渦を巻き天井を突き抜けてゆく。


だが、ホリィトアの周囲を回る二つの光だけは、ゆっくりと、彼女を慈しむようにして残っている。


「母上? 父上なの?」


ホリィトアの声に応えるように、更に速度を緩めて彼女の頬を撫でるように回転する光。


「グライディア伯殿! 申し訳ありません!

 私が! 私が来たばかりに!」


横にいるセレィデルが血を吐くような謝罪を重ねるが、光はそれを許すかのように彼の元に行き、一回り、二回りして、最期にまた娘の方へ戻り顔に触れてから、天に昇っていった。


「父上! 母上!」

「グライディア伯!」


泣き崩れる二人をゴーデンら護衛騎士たちが慰める。



「善き人らであったようだな。」


「は……い、はい! とても! 素晴らしい方々でした!」


涙を零しながら、セレィデルが答える。


「【勇気】は、もらえたか?」


「はい! この胸に! しっかりと頂きました!」


「私も! 両親に恥じぬよう務めます!

 両親の愛した民を、救います!」


二人の決心に、キラキラと輝く光が舞い降りて彼らへと吸い込まれていく。



「二人の決意を天が認めてくれたのだ。

 では行こう!

 キミたちの【民】を救いに!」




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