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滂沱の日々  作者: 水下直英
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初代の王様には尊き血筋など関係ない


 区役所の会議室にて、エルフ派遣団団長のネテルミウス、そしてプラァビダ侯国代表のセレィデルとホリィトアがいつもの面々に取り囲まれ座っている。


エルフたちに関しては事前に受け入れ態勢が整えられていたので、ネテルミウスは出席する必要は無かったのだが、『連れて来たのは我々だから』と参加を希望した結果だ。


「では話し合いを再開しようと思う。

 まずは侯国よりお越し頂いた【目的】を再確認したい。

 ただ、事前に申しあげておくが、

 私は魔法により相手の悪意や怒りが感じ取れる。

 偽り無き返答を望む。」


私の宣告により、ホリィトアの顔色が激変した。


セレィデルは先程同様におどおどとした様子のままだが、ホリィトアからは冷静さの仮面が剥ぎ取られ、怒りと悲しみと動揺がい交ぜになった表情を露わにしている。


横にいる彼女の状況に気付いたセレィデルが、心配げに肩に手を置き声を掛ける。


嘘を言われるのが嫌で先程の宣告をしたのだが、何も言わなくなるとは思っていなかった。


カカンドらに視線を向けると、ハザラが頷いて口を開いた。



「まぁ落ち着きなよ、お二人さん。

 ちょっとだけ、深呼吸してみな。

 そう、ゆっくり吸って……、ゆっくり吐く。

 どうだい?

 周りに人が何人いるか数えられるか?」


ハザラの問い掛けにセレィデルが視線を動かし、素直に周囲の人数を数えている。


ホリィトアは俯き、まだ深呼吸を繰り返しているようだ。


「セレィデル殿、だったな。

 落ち着いたかい?

 簡単な質問をするから『はい』か『いいえ』で答えて欲しい。

 いいかい?」


「は、はい。

 わかりました。」


やはり国の使者などではなく、何かしらの事情で逃げてきた避難民なのだろう。


もうハザラへ素直に情報を吐こうとする様子が見て取れる。


受け容れの待遇面を考えて使者と肩書を偽ったものと思われた。


「あんたらはプラァビダ侯国の正式な使者じゃあ無い。

 そうだな?」


「は、はい、そうです、その通りです。」


セレィデルの返答を聞き、ホリィトアが身を固くする。


「じゃあ次の質問だ。

 侯国の後継者争いに巻き込まれて逃げてきた。

 そうだな?」


「はい、そ、そうです。」


何かを諦めたようにホリィトアが溜息を漏らしている。


「じゃ、次だ。

 あんたはその後継者の王子の内の一人で、

 横の彼女はあんたの妻か婚約者だ。

 そうだな?」


「な! なぜそれを!?

 わたくしのことを知っていたのですか!?」



 予想外の展開となった。


ただの難民と思っていたが、実は王子だったらしい。


ハザラに言わせると『物腰が王族のソレ』なのだとか、私は全然気付かなかった。


しかし、自治区で人間の王侯貴族は蛇蝎だかつごとく嫌われている。


もちろん私も同じ心境である、王子だと分かった瞬間に目の前の若者が嫌な存在に変わった気すらしてしまう。


情報を得たら精霊国へ送り届けるのが無難なところだろうか。


下手に近くに置いてしまうと、区民が暴走して問題を引き起こしかねない。


この【リベーレン自治区】に【古の為政者の血】など一滴も必要としていないのだ。



 観念して事情を話し出したセレィデルに対し、ホリィトアは一向に口を開かない。


彼女の内に燃える怒りが、言葉を発する余裕を失わせているように感じた。


セレィデルが話した内容は、【後継者争い】というよりは、【内乱】と云える状況だった。




 父親である王が危篤状態となり、第二王子がその母親と共に暴走した。


腹違いの兄弟である第一王子と第三王子を暗殺しようとして失敗、第一王子と第二王子がそれぞれの領兵を挙げ戦争状態になる。


第三王子は婚約者に導かれるまま、彼女の実家である伯爵領へと逃げた。


ここで第四王子の後見人である将軍が中央の兵を取り込み挙兵して大混乱に。


後顧の憂いを絶とうと第二王子軍が第三王子をかくまう伯爵領へ攻め入り、伯爵夫妻を殺害するも第三王子とその婚約者は取り逃がした。




「で、その【第三王子】てのが、あんた、ってわけか。」


ハザラが同情と呆れの入り混じった表情でセレィデルの話を訊き終えた。


ホリィトアが怒りに身を焦がしている理由が理解出来た。


両親を殺されて間もない状態での逃避行だったのか、と同情心が湧く。


が、所詮しょせん王侯貴族同士の潰し合いに過ぎない、という気持ちもどこかに在る。


ラポンソらを受け容れた時の心境とはどこか違う。


『受け容れたくない』という気持ちがまさってしまうのだ。



 私以上に貴族を嫌い、恨みを抱えているカカンドが、今度は聞き役となった。


「で、ここまで逃げてきた目的は何だい?

 ここはアンタらみたいな王族が再起を賭けられる場所じゃねーぞ?

 もしそうなら王様になる奴は間に合ってんだ、

 他を当たりな。」


他の避難民を相手にしているのとは全く違う冷たさで、バッサリ切り捨てた。


ホリィトアが怒りで赤くしていた顔を蒼褪あおざめさせる。


だが、気弱に見えたセレィデルの方がカカンドに反論し始めた。


「誤解です!

 私はそんなつもりなど持ち合わせておりません!

 私たちは全てを捨てて二人で生きていきたいだけなのです!

 二人とも今までの名を捨てております!

 セレィデルとホリィトアという名は偽名なのです!」


かつて【アルザック】という名を捨てたハザラが片眉を吊り上げている。


思う所があるようだが口を挟むことはしないようだ。


セレィデルの話は続く。


「国の使者であると肩書を偽ったことは謝罪致します。

 しかしどうしても、この自治区の……、

 【聖女】様に御目通りしたかったのです!」


「なんだと?」


カカンドが怪訝な表情でセレィデルを睨み、その後で私をチラリと見てきた。


頷いてカカンドに聞き役を任す。


「【聖女】ってのは、聖公国の、ではなくてか?」


「はい、

 私は密かにルイガーワルド王国という、

 南西に位置した国と情報をやり取りしておりました。

 かの国からの情報により、

 この地に弱き者を助ける【聖女】在り、と知り得たのです!

 ジッガ様! ジッガ様こそが【聖女】なのでしょう!?」


「ほぉ?」


「お願いです!

 我が国に取り残された罪無き民をお救いください!

 どうかどうか! 私は彼女と民だけは見捨てられません!

 ルイガーワルド王より【予言】を頂いております!

 愚かな我が兄弟によって苦しむ伯爵領を救えるのは【聖女】のみと!

 何卒なにとぞ! 我らに導きをお与えください!」


セレィデルとホリィトアが、二人で机に頭をこすりつけて嘆願を始めた。



 我知らずハッゲルとベイデルを見やる。


ハッゲルはその太い眉尻を大きく下げ困り顔となり、ベイデルは右手で顔を覆い隠したまま思案に沈み始めたようだった。


己が王の口の軽さに困惑しているのだろうか?


祖国が余計な厄介事を投げて寄越した、という状況に恥ずかしさを覚えているのかも知れない。


しかし私の心境としては逆にスッキリした。


ルイガーワルド王の【夢の力】によって、ハッゲルやベイデルがこの地に訪れ助力してくれている。


また、かつて【アルザック】を援助したことでアヴェーリシャとの【戦争】が終わり、私たちは孤児院を出て村に帰ることが出来た。


の王に導かれる先には【良き結末】が訪れる気がする。


もしかしたら私と同系統の【精霊の光】を持っているのかも知れない。


会ってもいないのに不思議とこんなに好意を持ち得るのだから。



「皆はどう思う?」


頭を下げ続ける二人を前に、【仲間】たちの意見を確認してみる。


「俺からはなんとも言えねぇな。」

「ジッガに任せる。」

「もう決めてるんでしょ?

 顔に書いてあるよ。」


何の意見も出さず、ただ私に任せる、という意見で統一された。


「私は……、

 救いを求める弱者の手を払うことはしたくない。

 皆、済まないが力を貸してくれるか?」


「あぁ」

「了解だ!」


「ありがとう、みんな。

 では行動を急ごう。

 聞いた限り状況はかなり悪い。

 こうしてる間にも犠牲者が出ていると思える。

 セレィデル殿、どう救い出すか、

 今一度話し合いたい、いいか?」


「あぁぁ……ありがとう、ござい、ます・・・」


泣き崩れるセレィデルをホリィトアが抱きかかえる。


胸内ではまだ王侯貴族に対してのわだかまりが解けていないが、今だけは目をつぶろう。


彼らの望みを叶えることが、善き国を支えるいしずえとなることを信じて。




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