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滂沱の日々  作者: 水下直英
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付き合いの深度は相互理解と直結している


 セッパやラポンソらをともない、エンリケのもとたずねた。


彼らはもう何回か訪れているようだが、今後の武具の普及進度を計る為に話し合う必要がある。


武器防具製作保管庫は広めに造られているので、この人数でも問題無く座れた。


律儀なエンリケはもう何回目になるかわからない戦勝祝いを述べてきて、数人の苦笑を引き出している。



「で、セッパ殿、

 獣人の保管していた【鉱石】は使えそうか?」


今回の遠征で既に【王の館】に保管されていた物資は譲り受けてある。


獣人の鍛冶技術では扱えないとのことで、後日交換で届ける作物は気持ち程度で良いそうだ。


「うむ、正直に言えばまだわからんな。

 ワシらにとっても初見の鉱物じゃ。

 明らかに鉄ではない。

 もっと高熱を出せる炉が必要だ。」


「ん、出来そうか?」


「【剣閣】では【石炭】を使っていたんだが、

 ここらでは手に入らんそうじゃな。

 木材から良質の炭を造り始めとるが、

 恐らく石炭以上の高温は出せんじゃろな。」


私には鍛冶知識が無いため、詳しくは分からないが【石炭】かそれに代わる燃料が必要らしい。


どこかを掘って奇跡的に【石油】でも見つかればいいのだろうか?


いや、【石油】だと現世の技術では活用法が見い出せない、『良く燃える不思議な水』程度の認識のまま放っておかれるに違いない。


今まで見た【前世の知識】で【石油】は良いエネルギー源と知ってはいるが、それを活かす【機械技術】など知り得ていない。


見付かってもいない物で悩むのも馬鹿馬鹿しい。


現実的な解決方法を模索するとしよう。



「この近くでは【石炭】を見付けられないか?」


「ふぅむ、

 獣人から聞いた話では西側、

 ここからじゃと南西側の山々で【鉱石】が採れるようじゃな。

 それを採るついでに探してみるとしよう。」


「うん、気を付けて進めて欲しい。

 キシンティルクに使いを出しておく。

 ラポンソ、人選はキミに任せる。

 経験者を選抜してセッパに預けてくれ。」


「わかりました。」


今まではあまり進捗の無かった武器防具の件だが、セッパらが加わったことで一気に進められそうだ。


魔物素材の武具研究や、硬化の魔力の活用法ばかりに悩んでいたエンリケは、新たな素材や技術の到来に目を輝かせている。


「セッパさん、

 その鉱山の調査ってどれくらいの期間が掛かりますか?

 長く掛かりそうなら、

 出発前に【はがねの武具】について色々教えてください。

 僕でも加工出来るでしょうか?」


「がっは!

 いいのう小僧こぞう、やる気じゃな。

 お主の【硬化魔法】にはワシも興味がある。

 ラポンソ、

 鍛冶と魔法はどう組み合わせとるんだ?」


「え? いやぁ、

 俺、あ、いやぁ、

 私たちはまだ鍛冶が出来てなかったんで・・・」


「なんじゃなんじゃ!

 人間は伝承通りの者ばかりじゃないようだな!

 皆が知恵を出し合い協力せんでどうする!?

 よし!

 皆で鍛冶場に来い! エンリケの魔法を色々試すんじゃ!」


そう言ってセッパはエンリケやラポンソらを伴い、どやどやと出て行った。


『邪魔になるから』と私たちは置いてけぼりだ。


結局、武器防具がこれからどうなるかとか、警備団全員にどれくらいの質の武器がどの程度普及するかとか、それに一体どれくらいの期間が掛かるかとか、何も分からないままとなってしまった。


「セッパは他のドワーフより多少マシなれど、

 ドワーフはドワーフなり。

 馬鹿者の手綱はひしと握りおくべきぞ。」


ソムラルディの言にも一理ある。


話し合いの苦手なドワーフの扱い方はしっかりと把握しておくべきだ、との実感が湧く。


そんな中カンディは、『ドワーフって皆とすぐ仲良くなれるんだねぇ』と呑気な感想を漏らしていた。



 残されついでに、ソムラルディと【グリフォン】についての相談をしてみる。


もちろんカンディには事前に他言無用と厳命し頷かせていた。


「うむ、確かに興味深し。

 されどなお危うし、賛成すべからぬ。」


「何故だ?

 危険そうならすぐ逃げればいい話だ。」


「魔獣は群れなり。

 言の葉を解す魔獣は一匹。

 言の葉を解さぬ魔獣は【魔物】ならむ?

 君一人では敵わぬ、

 数多あまたに行かば犠牲者いづ。」


「それは、……そうかも知れない・・・」


ソムラルディにあっさり論破されてしまい、二の句が継げない。


意気消沈する私の耳に、エルフが溜め息を吐く音が聴こえてきた。


「いかなる物語になるや分からぬが、

 獣人の王は具しゆくべしな。

 彼らがいかが生還せりや、

 よく聞き策練り給え。

 それついでにまた謀らむ。」


「え? お、うん! 分かった!

 すぐに使いを出す!」


武器庫を飛び出し、区役所へ走って向かう。


残されたソムラルディとカンディが、そんな私の【稚気ちき】に苦笑いを漏らしていたことを、後で知った。



 雨季が到来する前に、畑の作物を採れるだけ収穫してしまうこととなった。


獣人の国の雨季とは、私たちが経験したことの無いような大雨が降るらしい。


作物が駄目になってしまう可能性も考えられるため、皆真剣に作業している。


自治区の畑は初期に比べ大幅に拡がっていた。


七百名の人員を支えるためにどんどん拡大したのだ。


それを収容する保管庫も同様に増築され、新築されていき、ゲーナの氷結魔法が大活躍している。


長い乾季に苦しんでいた獣人たちにとっては有り難い【雨】だが、数本の深井戸によってまかなえている自治区にとっては不安しかない。


初めて経験する【雨季】がどのような影響を及ぼすのか、慎重に見極める必要がある。



 グリフォンの件の返事が中々来ない内に、予定通りの者らが、意外な者らを連れて来訪してきた。


それはエルフから派遣されてきた一団、そして、ディプボス西に在る【プラァビダ侯国】からの使者だった。


いや、本人らは【使者】と自称しているが、その実態はほぼ【避難民】なのだと思われた。


侯国の国境を越えたところで、逃避行時の私たちの様にエルフの一団の詰問を受け、ここまで辿り着いたのだ。


折よくエルフからの派遣団と共に、人間の【難民】がくっついてやって来た、というのが真相と思える。



 広場の一角で危険物の持ち込みがないかなど、カカンドらが所持品調査をしている横で少し話し合う。


派遣団団長の四十歳だという【若い】エルフがまず簡単に事情を説明してくれた。


【ネテルミウス】と名乗ったこのエルフの団長だが、ソムラルディよりかなり【体格の良い女性】である。


『本当にエルフか?』と訊きたいが、失礼になると思い口には出さない。


耳も長いし顔つきもエルフらしい特徴を持つ。


しかし見えている腕やふくらはぎの筋肉が凄い、服の下に透ける筋肉量がうかがえるがドワーフに負けないぐらい有るように思えた。


「ネテルミウス殿、

 凄く、あー、強そうだな?」


「我は森の民随一のつわものと思ひ上がれり。

 今まで敗北を知らず。

 【悪しき神】との戦には一番槍を任せなむ。」


「ほぉ、それは頼もしい。

 是非私たちにも訓練でその強さを伝えて欲しい。

 共に戦える【同志】となりたいものだ。」


「人がいづればかり出来うるや我も知りたし。

 足手まとい群れたりとも話にならぬからな。」


「ネテルミウス、

 そこまでにしおけ。」


見掛け通り気の強そうなネテルミウスだが、最長老のソムラルディには遠慮するらしい。


大人しく引き下がったネテルミウスと入れ替わるように、人間の男女が進み出てきた。



 この男女が侯国の者らの代表なのだろうが、顔面蒼白で疲れがありありと見える。


三十名程のエルフに囲まれ、五人程度の人間たちでは気の休まらぬ旅だったと思われる。


オドオドとした様子の男性に対し、女性の方がその背中に手を回し励ましているように見えた。


なんとか気を持ち直したらしき男性が口を開く。


「わ、わたくしは【セレィデル】と申します。

 プラァビダ侯国東の、ぐ、グライディア伯爵領よりの使者です。」


「私は【ホリィトア】です。

 同じくグライディアより参りました。

 リベーレン自治区のことを最近知りまして、

 是非友誼を結びたく思い伺いました。」


顔を蒼褪めさせたまま固い言動のセレィデルに比べ、ホリィトアの方は疲れを見せながらも流暢に挨拶を述べてきた。


だが、冷静そうな彼女の内側には、【激しい憎悪による怒り】が燃えているのが感じ取られた。


それは私たちに向けたものではなく、西にある彼女の祖国へ向いているようだった。


内心では厄介事の気配に気がしぼんでいるが、荷物の調査が終わったようなので、詳しく事情を聞くべく、皆を引き連れ集会所へと向かった。




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