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滂沱の日々  作者: 水下直英
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戦い終えて、手に入れたものは何か


 自治区へ帰還すると、無事に帰ってきた兵士たちの家族らがワッと駆け寄ってきた。


私の所にもカンディとニーナが近寄ってきて、ギュッと抱き締めてくれた。


ひと時の平和な時間が流れ、無事を喜び合う。


手すきの警備団員に怪我人の獣人を休ませるテントを設置するよう指示し、あとはアグトらに任せて区役所へと向かった。


入口ではスムロイやカカンドらとともに、ギルンダたち足弱の老人たちが待ち構えていた。


「ここならジッガが確実に通ると思っての。

 我らの為に戦ってきてくれたこと、感謝する。」


「みなの平和を守る為だ。

 他の戦士たちや獣人の勇士たちにも礼を言ってあげてくれ。」


「うむ、後で言って回ろう。

 しかしまずはお主に言いたくてな。

 老い先短いワシらは、

 お主を通して生の喜びを噛み締めとるよ。

 ありがとうな。」


「明日にも死にそうで不安になるから

 そういう物言いはやめてくれ。

 キミたちが一日でも長生き出来るようにと、

 我々は頑張っているのだから。」


「わっはは、すまんすまん。

 【精霊様】を困らせてしもうたな。

 さ、皆も礼を言うたら他を回ろうか。」


老人たちの感謝と祈りが終わり去っていく、その後ろ姿から何故か目が離せぬまま見送ってから、スムロイらと共に区役所へと入っていった。



 会議室での報告の中に大きな問題は無く、鍛冶小屋の完成やエルフ用の住居施設が建築中であることなどが次々と伝えられた。


「なに? また出たのか?」


再び北の観測施設にて、【グリフォン】が数匹発見されたのだという。


前回同様、【魔物】や野生動物を鉤爪で捕らえて飛び去って行ったのだそうだ。


「どういうことだ?」


「わからんな、北側の餌が減ってるというだけなんかな?」


「それかグリフォンの数が増えすぎてるか、だな。」


「そりゃヤベぇな、

 ゼダックヘインの旦那ですら手こずる相手なんだろ?」


「一応、話は通じるみたいなんだが?」


「いやいやいや、危険過ぎんだろ。」


ゼダはかつてグリフォンと言葉を交わしたと聞いている。


獣人の神祖である【人狼】と同じような存在、もしかしたらグリフォンと話すことでゼダの【悩み】に関する情報が得られるのでは?


いや、そればかりではなく、【悪しき神】の影響を消し去る秘密を持っている可能性すらある。


ゼダも連れて行くべきだろうか?


グリフォンと接触することはもう私の中で確定事項だが、ゼダの同伴には悩むところだ。


以前会話したというのだから連れて行けば接触はスムーズにいくだろう。


しかしゼダの望まぬ情報がもたらされたなら?


彼は再び落ち込んでしまうものと思われる、それは避けたい。


これは後でソムラルディに相談することとしよう。



 悪鬼の巣殲滅に赴いている間にヘネローソ精霊国からスィチャカが来訪していたらしい。


アヴェーリシャの方はまだだが、聖公国や連邦の情報は得られたとのことだった。


オンベリーフド連邦は小領地同士の仲の悪さで争っているものの、【オーガー】などの【悪しき神】関連の兆候は見られていないそうだ。


問題はサラパレイメン聖公国である。


さすがに教団総本部に入り込むことは出来ずにいるが、本部に出入りする信者から様々な推測混じりの情報は得られたとのことだった。


まず、度々難癖を付けてきた【ナールメイナ】はやはり怪しいらしい。


『聖公国乗っ取りを企んでいる』という噂が広まってから大人しくしているが、彼女の周囲では何かと【背信者】の処刑が行われているそうなのだ。


あくまで推測や噂話の域を出ない話なのだが、本当であれば【凶王】の振る舞いと重なる行いである。


それに対し、統領たる【司祭長】は完全にお飾りなのではないかと噂されているそうだ。


年配の女性が務めているのだが、最近はあまり式典に姿を見せないらしい。


それと別件だが、聖女が亡くなってから、聖公国ではその再来は訪れていないとのことだ。


魔法を使う者は居ても、人々を癒したという【聖女の御業みわざ】を再現する者は誰一人居ないのだとか。


私の【奇跡の力】を知ればどう思うかは想像にかたくない。


精霊国諜報部も細心の注意を払っていて、【奇跡の力】の件は聖公国に対しシャットアウトしているとのことだった。


逆に私の能力は【身体強化】が前面に押し出た情報操作をされているらしい。


『怖ろしいぐらい強い【オーク】の様に猛々しい少女』という噂だそうだ、少し納得出来ない気持ちが湧く。


しかし侮られ難癖を付けられるよりはマシかと思い直し、報告の続きを聞いた。



 南東の【ナステディオソ連合王国】は連邦同様に、三つの小王国が意見を割っているそうだ。


亜人蔑視が未だに根強く残っているものの、過去の【亜人戦争】発端の地に生きる人々は戦争に消極的らしい。


『獣人に舐められたままではいられない』『でも獣人は強い』『とりあえず別の嫌がらせを考えよう』という程度の悪意が、市井しせいの噂話から垣間見えるのだとか。


三つの小国それぞれが、相手に『お前がやれ』『そっちがやれ』と責任を被せようとしてすったもんだしている状況となっているらしい。


その位ならば戦争には至らないだろう。


市民が処刑されている様子もなく、今のところ【亜人戦争再来】の発端の地とは為りえないと思われた。



 本命のアヴェーリシャに関する情報が一番気に掛かるが、もはや故郷は遠い地なのである、まだ時間が掛かるだろう。


あとは北のアーマルイト王国の平和な様子や、ディプボス西の【プラァビダ侯国】が後継者争いの真っ只中であることが伝えられていく。


と、ここで手を挙げるものがいた。


「プラァビダ西の【フンバーニ連合国】であれば、

 我らに情報源の伝手つてがあります。

 如何いかがしましょうか?」


「ほぉ、ハッゲル殿、知り合いでもいるのか?」


「はい、我が国のすぐ北の国ですからな。

 国同士の交流も盛んなのです。

 ディプボスが通り抜け出来ると分かった今、

 一週間から十日ほどで辿り着けると思えます。」


昨日の戦闘の興奮状態がまだ続いているのか、言葉に活力がみなぎっている。


しかし、その提案を横の若い参謀がいさめた。


「隊長、ディプボスは良くともプラァビダを抜けるのは難しいでしょう。

 かの国は我が国と折り合いが悪いです。

 南方の国々を通った時の様に回り道もありません。

 我らが直接通行するのは困難です。

 精霊国の諜報部に任せましょう。」


「ぬぬ、そうだったな」


ベイデルの直言でハッゲルの意気はくじかれてしまった。


悔しそうな隊長殿の気分を変えようと話題を振る。


「そういえばハッゲル殿たちもここに来てから半年以上経つ。

 国許くにもとに家族が居る者もいるんだろ?

 帰国希望者はいないのか?」


「はっは、お心遣い感謝する。

 ですが、親を残してきた者はりますが、

 我らは皆独身ばかりです。

 急いで会いたい者は国許に居りませんよ。」


明るく話すハッゲルだが、彼は確かもうすぐ四十路に入る年齢だったはず、大丈夫なのだろうか?


新婚の隊員や年若いベイデルらに囲まれ、ハッゲルが病まないことを祈るばかりだ。


ハッゲル以外の参加者から気まずい空気が流れたところで、リルリカが手を挙げ精霊国へ明日から訪問することを話し始めた。


ウーグラを伴い少しの間不在になることを伝えられる。


誰かが不在となってもその穴を埋められる環境が整ってきたことに、少し満足感を覚えた。


そして、今さらながら昨日の戦勝をよろこぶ気持ちが湧き出てくる。



「【悪鬼の巣】を殲滅できたことで当面の脅威は去った。

 しかしいずれ新たな脅威が訪れるだろう。

 それまでに我々はもっと力を蓄える必要がある。

 セッパ殿らドワーフの技術を学べるだけ学び、

 訓練を重ね、戦闘技術を高められるだけ高めて欲しい。

 我らの行く先に幸多き事を祈る!」


「おぉ!」

「頑張ろうぜ!」

「任せといて!」


皆の勇ましい返事とともに、会議室へ【祝福の光】が舞い降りた。


きっと区役所だけでなく、自治区全体に降り注いだことだろう。


私はいま、自治区に暮らす皆々へ、感謝の気持ちがちているのだから。




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