オレイン領の町シェスナ
早めに出たので昼にはシェスナへ着いた。リスデンよりは小さな町だ。馬車のみんなと挨拶をしてここで別れる。手書きの地図と町の中の地図を見ながら
「ここはオレイン領の中心の町ではないようですね。」
「リスデンで言うとツルナン村みたいな感じかしら。」
「そうですね。でも村ではないから、宿屋やギルドもあるみたいですよ。」
シェスナの隣町がオレイン領の中心の町のようだ。隣といっても馬車で1時間ほどかかるらしい。
「とりあえず宿屋を探しましょう。」
「その後は冒険ギルドね。」
宿屋を探していたら、先にギルドが見つかった。ギルドで宿屋の場所を訪ねると、向いが宿屋だと教えてくれた。部屋を予約しようとしたら、あいにく今日は満室だと断られた。他に宿屋はないかと聞くと、家族で経営している小さな宿屋が何軒かあると教えてもらった。
「綺麗な町ね。リスデン程ごちゃごちゃしてないし、ツルナンやシェスナ村みたいに寂しくないわ。」
「そうですね。住みやすそうな町ですね。」
宿屋を探しながら街並みを眺めていた。通りの先に赤茶色のレンガの家が見えた。
「あ、あの家可愛い。レストランみたいね。」
中へ入ってみた。レストランがメインの宿屋らしい。
「この宿は2部屋空いていますか?」
「2部屋ですか?空いてないですね。ツインの部屋なら1部屋ありますよ。」
「そうですか。他の宿は・・・。」
すぐにかぶせて言われた。
「今日はどの宿も空いてないですよ。明日はこの町の町長の娘さんの結婚式があるんです。家に泊まれない親戚が宿を占領していてどこも満室ですよ。」
私と真人は顔を見合わせ、
「ではその部屋でお願いします。」
ツインの部屋の予約を入れた。宿はリスデンと同じように一週間単位だと割引になった。
娘さんが部屋へ案内してくれた。階段を2階へ上がった突き当りの部屋だ。鍵を開けて中に入る。
「こちらのお部屋です。鍵はこれです。ではごゆっくり。」
扉を閉めて出て行った。
「思ったより広いわね。」
部屋は入ってすぐ2人掛けのテーブルと椅子のセットがあった。その奥にベッドが2つ並んでいる。
「ベッドは少し離しましょう。」
「そうね。ちょっと近すぎるわよね。」
2人でベッドを抱えて壁際にずらす。
「ええと、あっちがお風呂かしら。」
その場を離れて奥の扉を開ける。風呂ではなくトイレだった。他に扉は入口しかない。
「下で聞いてくるわ。」
さっと扉を開けて部屋を出た。
下へ降りると店主の旦那さんと女将さんの2人だけだった。2人で遅い昼食をとっていた。
「おや、どうかしましたか?」
食事の手を止め、私へ話しかけてきた。
「お風呂はどこにあるのでしょうか?」
「ああ、お風呂ね。ここは周りの宿屋と共同の温泉があるんですよ。案内しましょう。」
店の扉を出て温泉へ案内してくれた。
宿から5分程歩いたところに温泉があった。
「ここで泊まっている宿と部屋番号を言って下さい。男湯と女湯は分かれてますから。」
「ありがとうございます。利用時間はどうなってますか?」
「夕方4時から0時までです。」
そう言って女将さんは戻って行った。温泉とは有り難い。ゆっくり湯船につかれるのはどのくらいぶりだろう。私もスキップして宿へ戻った。
「温泉ですか。」
真人も嬉しそうだ。こちらへ来て湯船につかったことがない。今日は2人とも長湯しそうだ。
「今からギルドへ行ってどんな仕事があるか見てみましょう。それから・・・。」
「温泉ね♪」
今日は移動の疲れもあるから早く温泉に浸かりたい。急いでギルドへ向かった。
この町のギルドは出張所という扱いだ。この町独自の依頼もあれば、グリージアの依頼もある。グリージアの依頼を受ける時は、達成の査定がどちらに持って行くか受ける時に確認しないといけない。とりあえず移動の手続きをするために受付へ行く。
「こんにちは。どういった御用ですか。」
「リスデンから移動してきたので、手続きにきました。」
「それではタグをこちらへかざして下さい。」
パネルが光る。
「はい、手続きは完了しました。依頼はあちらのブースで受けて下さい。」
ブースへ移動しようとしたら、壁に地図が張ってあるのが目に留まった。2人で地図の前に移動する。
「オレイン領の地図よね?この町の北の方に小さな村があるわ。」
「書き足しておきましょう。」
どんなに小さな村でも情報を持っている人がいるかもしれないから、出来るだけ足を運んでおきたい。その後ブースでどんな依頼があるか確認した。
「薬草の採取も結構ありますね。種類も多いです。」
「狩りは少ないのね。討伐は結構あるわ。」
知らない魔物の名前もあるので、期限の長そうな依頼を2つ受けることにした。
宿に戻り、着替えを持って温泉へ行った。まだ早いので入っている人は少なかった。
「あ~、生き返る~。」
頭から足先まで洗って温泉へ入る。体がだらしないくらい伸びきった。
「ああ、もう上がりたく無くなっちゃうかも。」
「そうだよね。あんたもそう思う?」
髪の長い引き締まったボディのお姉さんがお湯に入りながら話しかけてきた。褐色の肌に緑の目。ニッと笑うと八重歯が見えた。
「ええ。いつもシャワーだったので。」
「そうよね、温泉最高よね。」
小柄のぽっちゃりした女性が八重歯のお姉さんの隣に入ってきて言った。
「あたしたち、この町に来たら必ずこの温泉に入れる宿に泊まるの。」
「私は今日が初めてです。この辺りってどんなところなんですか?」
情報収集とばかりに聞いてみた。
「この辺は薬師が多いのよ。癒し処だから、他にも温泉があるわよ。」
「でもあたしたちはここがお気に入りなの。お肌がすべすべになるんですもの。」
八重歯のお姉さんは温泉から足を出し、すべすべ具合を見せてくれる。この温泉は美肌の湯らしい。そういえば私のお肌もすべすべになった気がする。
「この町に来る前に手紙で予約を入れておくのよ。確実に宿が取れるわ。」
「あたしたちお得意様だから。」
ねーっと2人で顔を見合わせる。よほどこの温泉が気に入っているのだろう。どのくらいの割合出来ているのか知らないが、手紙で予約が取れるほどのお得意様なのだろう。
「随分と仲がいいんですね。同じお仕事をされているのですか?」
その言葉に小柄の女性が反応した。
「ノンノン。私は薬師なの。彼女は私の護衛。」
「そう。あたしは彼女専属の護衛なの。」
専属とは、随分と稼いでいるのかな。薬師って儲かるの?そんな疑問をぶつけようと思ったら、先に向こうから答えが返ってきた。
「私、ちょっと特殊な薬を作っているの。だから定期的にここに薬草を仕入れに来るのよ。彼女はその時必ず来てくれる護衛なの。幼馴染だから特別価格で。」
「ふふ、この依頼がある時はパーティの仲間に言って仕事外してもらってるんだ。」
聞くと八重歯のお姉さんは4人パーティで冒険者をしているらしいが、みんな時々ソロで仕事を受けているそうだ。
「そうなんですね。パーティを組んだらずっとその人たちと仕事をしないといけないのだと思ってました。」
2人とも意外そうな顔で私を見る。
「え、あなた冒険者なの?」
「見えないわー。湯治できているのかと思ってたわ。」
小柄な女性が私の反対側へ移動する。
「あ・・・あの・・・何か?」
2人に挟まれ、少し引いてしまった私に
「あたしはマイ。こっちはメルフィラって言うの。どう、一緒に薬草取りに行かない?」
八重歯のお姉さんが聞いてきた。
「薬草ですか?」
「ちょっと特別なところに生えていてね、あんまり手に入らないのよ。でもほかの人に場所を知られたくないから普段は行かないんだけど、今回はどうしても必要でね。一緒に採りに行ってくれる人を探してたの。」
メルフィラがグイグイ来る。
「パートナーがいるので私1人ではちょっと・・・。」
あまりに強引な勧誘に1人で勝手に決めるのは危険だと思った。
「それじゃあその人がOKならいいってことよね。」
マイは立ち上がって言う。
「どこに泊まってるの?私たちは『白狼』って宿なんだけど。」
「『小さな花かご』です。」
「ああ、あそこね。ごはん美味しいわよね。それじゃあ後でそっちに行くわ。あなた何て名前?」
「はい、トモミです。」
「トモーミね。わかったわ。それじゃあ後で!」
そう言ってマイは上がっていった。その後をメルフィラがついて行った。




