5-2 b さいきんの学園もの2
ギスギスした食事会はアピスが一人息巻いて終わった。
シェリアも家の関係を持ち出されて脅されてからは、もはや何も言えなかった。
アピスは来週、アリスを捕まえて最後通告を言い渡すつもりの様だ。通達が来週になったのは、アピスが家の都合で1週間休むためだ。
シェリアは涙目になりながら、とぼとぼと教室へと戻っていた。結局、彼女は最後まで食事にほとんど手を付けることができなかった。
アリスのために本当にすまん。
ところが、シェリアの受難はこれでだけでは終わらなかった。
落ち込んだ様子で廊下を戻るシェリアに二人の女子生徒が立ちふさがった。
たしかどちらもさっきのアピスの食事会にいた。キャロルとスラファって名前だったはずだ。
キャロルは、教室だの廊下だのでしょっちゅうアリスに探るような目線を投げてよこしてくる感じの悪い女子だ。金髪縦ロールののいかにもわがままなお嬢様って感じの子だ。
クラスの女子の中にはアリスにそう言った視線を浴びせてくる女子が何人かいる。手を出してこないだけジュリアスの取り巻きよりましではあるが。
アリスの中に居る時にそういった視線を受けるとなんか癇に障る。アリスも気づいているはずだが、子供のころから病気のせいでそういう視線で見られることに慣れている彼女は歯牙にもかけない。
スラファのほうはキャロルといつも一緒に居るから覚えていたといったくらいの地味子だ。落ち着いて、おとなしい感じを受ける栗毛の女の子だ。
二人とも、アリスやシェリアよりも背が高く、年上に見える。実際そうなのだろう。
「シェリア!」キャロルがシェリアの前に立ちふさがって、彼女を見下ろしながら居丈高に声をかけて来た。
突然詰め寄られたシェリアがおびえながら返事をする。「はい・・・キャロル様。何用でございますか。」
「あんた、アピス様に言われた意味、どういうことかわかっているの?」
「は、はい・・・。」シェリアがうつむいて下唇を噛んだ。
年齢以前にこのクラスのほどんどの生徒がシェリアより良い家柄の子供たちだ。シェリアには反論するべくもない。
「アピス様に逆らう気?」キャロルはそう言ってシェリアを睨みつけた。
ああ、またアリスのせいでシェリアがトラブルに。
慌てて感染者リストを開いて何かできないか考える。
ウィンゼル・・・は居ないし。ゴリーズやノロイと仲間たちは明るくて人のいるところには出ようとしないし。蛾は・・・寝てる・・・。クロはスラムでアリスの膝の上だ。
「も、もちろん逆らう気なんてありません。」シェリアは慌てて答えた。「で、でも・・・」
「じゃあリデル様のことはどうする気なのよ!!」シェリアの答えにキャロルの語気が一気に荒くなった。
しかたないゴリだ!一番近くに居るゴリをダメもとで向かわせよう。ゴリなら虫だから、多少無理な言うことをきいてくれるかもしれない。これでキャーってパニックになれば・・・ん?
・・・リデル様?
「・・・リデル様?」
「そうよ!リデル様よ!」キャロルが腰に手を当ててシェリアを睨みつけた。「リデル様、一人になっちゃうじゃない!あの凛々しくも愛くるしいお顔が悲しみに歪むなんてあってはならないの!」
「・・・・・?」予想外の方向に盛り上がっているキャロルをシェリアがぽかんと口を開けて見つめた。
「ごめんねー。キャロルン、リデルさんのこと好きみたいなのー。」隣でニコニコと状況を見ていたスラファが説明を入れてくれた。
「当たり前よ。男子に負けない運動神経。端整なお顔立ち、そしてふわっふわの金髪。それなのに、笑うととろけそうなくらい可愛いのですもの。はぁん。」キャロルは両手を頬に添えてふにゃふにゃと体をくねらせながら言った。もはやシェリアのことなど見ていない。
「・・・・・」シェリアはあっけにとられている。
あれ!?
もしかしてこの子、今までアリスのことそんな感じで見てたの?あれって、そういう視線??
「それに、なんと言ってもあの決闘!あんな細腕の美少女がジュリアス様をコテンパンにやっつけてしまったのよ!!乙女のように美しく、獅子のように気高く、白鳥のごとく気高く剣を振るい、ジュリアス様を圧倒して見せた。まさに剣の女神の生まれ変わりに違いないのですわ!」
そうだったかな?どっちかというとバーバリアンの頭領みたいな戦い方してた気がするけどな。
!!
って、ちょうど今、後ろジュリアスが通ってるし!
「ジュリアス様のような人間レベルの剣技ではリデル様の女神の御技には敵わないのよ!」まさか後ろをジュリアスが通っているとは知らないキャロルは興奮で声が大きくなっている。
おま、ジュリアスに聞こえるぞ。
ジュリアスがめっちゃ苦笑いしてる。こりゃ完全に聞こえてるな。あ、シェリアと目が合った。
シェリアの額に一筋のひや汗が垂れていくのを感じる。
ジュリアスは「大丈夫だよ」とでも言うように二人の後ろからシェリアにこっそりとウィンクしながら手を振って笑いかけるとそのまま廊下を歩き去って行った。
なんか、あいつ、実はめっちゃいいやつだな。
「で、あなたはリデル様を裏切るつもりなの?」ジュリアスが後ろを通過したことなど全く気付かないキャロルがシェリアに詰め寄った。
「そんなこと、しません。」シェリアはきっぱりと言った。
「良く言ったわ。」と、キャロル。「じゃあ3人でアピス様を何とかしましょう!」
お。
お?
「三人ってわたしもー?」スラファがキャロルに訊ねた。
「そうよ。」キャロルは当然とでも言うように答えた。
「何とかってどうやって?」とスラファが再び訊ねた。
「・・・・・。」キャロルは何か言おうと自信満々で口を開いたが何も案が出てこなかったので、今度はシェリアに向き直って言った。「あんた、なんか考えなさいよ。」
「えっ!?私っ!?」突然振られたシェリアが驚いて声を上げた。「え、その・・・明日、リデルちゃんと一度話をしてみようかとは思いますが・・・」
「そうよね!まずはそれからね。」と、キャロル。「リデル様がなんとおっしゃっていたか逐一報告なさい。」
「??お二人はご同席なさらないのですか?」キャロルの言い方に疑問を覚えたシェリアが質問した。
「な、ななななにを言っているの!?」キャロルが顔を真っ赤にして手をバタバタさせる。「わたくしがリデル様とお話なんて!そんなそんな恐れ多い。」
「リデルちゃん喜ぶと思いますよ。」
「・・・・・・・ブッ」キャロルはしばらくにやけ顔のまま電源が切れたかのように停止した後、突然鼻血を拭いた。
「「!!」」突然の鼻血に二人がビクッとする。
「ぐっ・・・そ、そんなこと、とてもじゃないけどできませんわ。ぐふ。」といいながら口元が笑っている。
そんなこと、って、こいつは何を想像したんだろうか?
スラファが慌ててキャロルの鼻血をハンカチで拭ってあげた。
「ていうか、おまえ!」突然キャロルが両手でシェリアの頭部を両手で挟み込み顔を近づけると、目を見開いてシェリアを睨みつけた。
「ヒッ!」シェリルがいきなり豹変したキャロルの剣幕に思わず恐怖の声を上げた。
痛い痛い、指が食い込んでる。
「さっきから、たかだか子爵の分際でリデル様のことをなれなれしく、リデルちゃん、リデルちゃんと・・・・」
「ドッヂソン家、今、男爵だよー。」スラファが突っ込む。
「リデル様はそのような枠の外におられるお方。あの気品。まさに女神。あえて人間の陳腐な階級になぞらえるならば、そう女王。」
おしい。
「それ、アピス様に言っちゃだめだよー。」と、スラファ。
「それを、このようなどこの馬の骨ともわからない小娘がたぶらかしおって・・・うらやまゆるせん。」気のせいかキャロルの背後にゴゴゴゴゴとか見え始めてきた。
「キャロルン、どうどう。」見かねたスラファがキャロルの両手を引きはがした。「ごめんねーシェリアちゃん。キャロルン、思い込みと緩急が激しくって。」
「・・・・。」シェリアはどう返してよいか解らない。
「行きますよー。」スラファはあっけにとられているシェリアをその場に残し、「憶えておきなさいよー!」と何故か三下の捨て台詞を吐くキャロルを引きずって、教室に戻っていった。




