5-2a さいきんの学園もの2
さてアリスはスラムにつくと、早速タツの家へと向かった。
タツの家ではすでにケンと何人かの少年たちが待っていた。
ボールボーイをやっていた少年もいる。
彼らはアリスに文字を教えてもらっているのだ。彼らはケンが主導して集めたスラムの子等だ。ケンは本気でこのスラムをどうにかしたいと考えているようだ。
彼らはアリスが再編した教科書(教科書といっても大きめなカルタのようなカードだが)を見ながら、文字を憶えようとしていた。
アリスの作った勉強用の教科書カードは両面に絵が描かれ、その一方のみにその絵の内容をしめすスペルが書かれていた。
少年たちはスペルの見えないほうを表にして地面にそれぞれ文字をつづり、その後紙をひっくり返して答え合わせをするのだ。そして、彼らは、カリア石を賭けあって点数を競って遊んでもいるのだった。
最終的にカリア石の獲得多かった者はアリスの持ってきたこの世のものとは思えないほどおいしいお菓子を少し多めに貰えるのだ。お菓子で釣る辺りが、アリスらしい考え方だと言える。
ケンとタツはスペル当てをしている仲間には加わっていない。彼らはこのあたりの単語はすでにマスターし、アリスに新しい単語を教わっているからだ。彼らは自分たちがつづりを知りたい物についてアリスに質問し、アリスからそれらのつづりを教えてもらっているのだ。
彼らは自分たちが町民でも読めないような文字を少しづつ読めるようになってきていることが楽しいようだ。
「アリスねーちゃん。」ボールボーイをしていたちびっ子、ショウが他の少年たちと車座で座ったまま、首だけをアリスに向けて呼びかけた。「みんな、正解しちゃって差がつかねーよ。新しいの作ってくれよ。」
彼らは文字は順調に憶えているようだ。特にケンとタツの成長は目覚ましい。
「そうね・・・、ケンとタツ、あんたたちもこのカード作ってみない?」アリスが言った。「私だけだとちょっと大変なのよね。何を題材にしたらいいかいつも悩むのよ。みんなが知ってるものじゃないとダメじゃない?あなた達のほうが何をカードにしていいか考えやすいと思うのだけど。」
「いいぜ。」ケンが言った。「でも紙なんて高価なもんないぜ。」
「板で良いのよ。そこに石で傷をつけて掘るの。」
「OK、作ってみるよ。」タツもヤル気の様だ。
「スペル間違えちゃだめよ。」アリスは言った。「そういえばお守りは売れた?」
「うんにゃ。」ケンが答えた。「やっぱ、俺たちだとぜんぜん相手にされないや。誰も見ようともしないし、話しかけたらもっとアウトだ。ずっと橋のところに立ってるのもバカらしいし、もう止めたよ。お前の言った通りだ。」
「うーん、そもそも、スタートラインにも立てないか・・・。」
「町の連中にとっちゃ俺たちゃスラム人で完全に他所の世界の生きもんなんだろうな。」ケンは吐き捨てるように言った。
「私のほうも、公の場で身につけるようにはしてるんだけど、相手にしてくれなかったのよ。」アリスに話しかけてくる貴族がほとんどいないし、そもそもアリス自身がほとんど公の場に顔を出さない。アリスは王女でありながらインフルエンサーとしてはC級だ。たぶん悪い噂のほうのインフルエンサーとしては優秀かもしれない。それにアリスは最近は大体の場合リデルでいるため、王女でいる時間が少ない。「リデルの時にもつけようかしら」
「もうあきらめようぜ。」
「ダメよ。」当初あれだけ難色を示していたアリスが意外にも食い下がった。「たとえ儲からなかったしても、なんでダメだったかが解かれば次に生かせるのよ。今のままだと、カリア石が商品として価値がないってのと、あんたたちが売るのが相手にしてもらえないってのと二つしか解ってないのよ。そんなん最初から解ってたことだわ。」
「うーん。」ケンとタツは何を返答したらよいか解らず唸る。
「とりあえず石は取っときなさいよ?まだ私の宣伝もうまく行ってないから。もっといろいろ試してみましょう。」
さて、お昼休みの時間なので、シェリアに視点を移そう。
昨日の話の流れであれば、アピスがみんなを集めて食事会をしていて、シェリアはそこに参加しているはずだ。本来ならアリスもそこに連行されていたはずだった。
アリスには逃げられたがアピスの食事会は開催されていた。そりゃ、食事を用意してただろうし仕方ない。
食事会はかなりギスギスした感じで進んでいた。
食事会は学校の一角にある広めの食堂でおこなわれていた。20人掛けのテーブルにアピス派の女子生徒13人が座っていた。アピスを一番奥のお誕生日席に据えて、両サイドに6人づつ座っている。アピスが何か言うたびにアピスの両隣の二人が時々おべっかのように相槌を打ち、そのほかの生徒たちのほとんどはアピスの憤りの言葉を黙って聞いていた。一番の末席に座っているシェリアだけが、アリスのフォローをしていた。
「あの方のアレは、一体どういうことですの?」アリスを捕まえられなかったことにご立腹のアピスが言った。
両隣の女子が「まったくそうですわ!」と大げさに頷いて同意した。
『アレ』っていうのがなんのことか本当に解っているのだろうか。少なくとも自分にはいくつもあるうちのどれのことを言っているのか解らない。
「きっと、リデルさんはアピス様の言いつけを守ったのです。」シェリアがフォローを入れた。
緊張のせいかシェリアの食事はほとんど進んでいない。その他の生徒はアピスと目を合わせないように黙って食事に集中している。
「私の言ったのは、そういうことじゃありません。私は授業を受けなさいと彼女に言ったはずです。でなければ、きちんと休む理由を学校に明示して公に休むべきです。学校をズル休みする時に学校を通過するのはやめなさいと言った訳ではありませんのよ。彼女には言葉が通じないのでしょうか。」アピスはそこまで言ってから、気が付いたように付け加えた。「確かに、いちいち学校を通過して行くのも腹立たしいこと限りありませんけれども!!」
「用事があったのかもしれませんし・・・。」
「ドッヂソン家にそんなもんあるもんですか。」アピスは決めつけて言った。「クラスの平和のためにも、彼女には常識的なルールを守ってもらわなくてはなりません。」
アピスが鼻を鳴らす。相変わらず動きそのものは気品があるが、苛立ちのためその動きはせわしない。彼女の内心の怒りが透けて見えている。
どうでも良いけど、アピスはこんだけしゃべってて、なんで料理の減りが一番速いんだろう??気になる。
「先の事件の件でお父様からも彼女がどんな御仁かとの質問を受けました。」アピスは言った。「かの件についてはジュリアス殿下のご友人たちが悪いことでしたので、いろいろ内密にして差し上げましたのに。恩知らずったらありはしない!!」
アピスの中では、例のあの事件は本当に善行に数えられてるのね。
「場合によっては学校をやめてもらいましょう。」
えええ?
「アピス様、リデ・・・」シェリアがアリスに何かフォローを入れようと声をあげた。
「シェリアさん!」シェリアの声を遮ってアピスが言った。「リデルさんとは距離を置きなさい。それができなければわたくしアピス=ミンドートはシェリア=タイゾの面倒は見ませんよ。」
家名入れて脅してきやがった。
シェリアは言おうとしていた言葉を飲み込んだ。
・・・・ん?
なんか、前にも感じたことのある違和感をアピスの言葉に感じた。
結局、その違和感が何なのか見出せぬまま、ギスギスした食事会はその後もアピスが一人息巻いて終わった。




