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4-3 b さいきんの学園もの

 教室についた二人は、先生によってクラスメイト達に紹介された後、クラスの真ん中ら辺に着席した。アリスとシェリアは隣同士で、アリスがど真ん中の席に座ることとなった。

 アリスが5x5の中心なのは警護上安全な位置という意味もあるが、どの脱出口もアリスから遠いという理由で決定されたことをオリヴァを通じて知っている。

 新しいクラスも、教室の様子は下のクラスとほとんど変わらなかった。

 アリスとシェリアの席を含めて席数は25人分。出席している生徒は男子が少なく女子が多めだ。そういや下のクラスでもそうだったな。ちなみに、下のクラスは3つあるが最上級のクラスは一つしかない。

 いくつかの席は欠席になっている。年齢も上がると貴族の責務が出てくるため、欠席が多くなるらしい。これもオリヴァルートで聞いた話だ。

 部屋自体は変わり映えがしない。ただし、年齢が高い分、生徒たちが大きいため、教室は前回の時よりかなり手狭に感じる。いちおう、見渡せばアリスより歳が下そうなのもいる。そう言えばシェリアもそう見える。

 ジュリアスはいなかった。後ろにいくつか空いてる席があったが、そのうちの一つがそうなのだろう。

 理由は推測がつく。

 というのも、ベルマリア公の名前が気づいたらリストから消えていたからだ。あまり考えたくはないが、どうしても、いくつか良くないストーリーが思いつく。

 

 一時間目の授業は国語だったが、アリスは特に問題も起こさず真面目に受けてくれた。いや、まじめには受けてはないか。アリスは明日の分の課題までチャチャッと教科書を読み進め、先生からのいくつかの質問に答えていたら授業が終わってしまったのだ。国語の教科書を読み切った後のアリスが怖い。

 今日この日の問題は1時間目の休み時間から始まった。

 背の高い女子生徒が二人の女子生徒を引き連れてアリスの席にやってくると話しかけてきた。

 「こんにちは、リデルさん。ご機嫌麗しゅう」話しかけてきた女子生徒はかなりの美人であった。長いストレートの黒髪、スレンダーで背が高い。モデルのようなスタイルだ。目鼻立ちも整い知的な顔のつくりをしていた。

 方向性は違うが見た目だけならアリスも負けてはいない。

 だた、彼女は一挙手一投足、すべての所作が上品で可憐であった。

 「こんにちわ、ミンドート様。よろしくお願いいたします。」アリスが素早く彼女の洋服から蘭の花を模した家紋を探し出して、どこの貴族かを判断してあいさつした。ミンドートってことは公爵令嬢か。

 「アピスと呼んでくださいまし。」アピスがニッコリと微笑んだ。その動作だけでもすごく美しい。自分が常に見られていることを理解して最大限に美しく見せようとしている所作だ。アピスの後ろに控えている女子生徒たちもたたずまいからして綺麗だが、このアピスという子は群を抜いている。さすがに公爵のような高貴な貴族ともなると普段の動作からして作法の出来映えが違う。アリスもこういうのを見習ってほしい。

 「リデルさん。」アピスは手に持っていた扇子をバッと広げると顔の前に持ってきた。そして口元を隠しながらアリスに言った。「私の傘下にお入りなさい。女性同士悩むこともありましょう。わたくしアピス=ミンドートはこの学園でか弱き女性を助けるために存在いたしますの。ドッヂソン家はエラスティアにもベルマリアにもついていらっしゃいませんでしょう?ミンドート家は過去の出自も現在の立場も気にいたしません。等しく受け入れます。是非、わたくしの庇護下におはいりなさい。この学園のみならず、今後の社交界でも大きな力になりましてよ。ひいてはご実家の格にも関わることになるかと存じます。」

 と言いながら、アピスがちらちらとウィンゼルを気にしているのに気が付いた。とりあえず媚びておくんだ。

 ウィンゼルがくるっと回る。

 アピスは興味などないかのようにウィンゼルを無視して言った。

 「特に、わたくしから何かを命令することはございませんのよ。一緒にお茶をして、お話をして、困ったときは助け合う。あなたとはそんな仲間でありたいと思いますの。」

 「ありがとうございます。アピス様。」アリスが立ち上がって可憐に礼をした。やればできるじゃん。「せっかくのお誘いですがご遠慮させていただきますわ。」

 どこにアリスの気に入らないところがあったかは分からないが、なんか断りそうな気はしてた。

 アピスがとても驚いた顔をした。扇子で顔の下を隠していても丸わかりなほど表情に出ている。田舎の侯爵が公爵家のお誘いを断ったのだから当然だ。

 「もしかして、他の公爵様に義理立てされていらっしゃるのかしら?わたくしどもは他の公爵家とのつながりを優先しながらのお付き合いでも構いませんことよ。」

 「お誘いありがとうございますわ。お心遣いとてもうれしいのですが、私、そういったことには興味がございませんの。」アリスはもう一度丁重に断った。

 アピスの目がこれ以上ないくらい大きく開かれた。眉がつり上がっている。

 めんどくさいことになったぞ。

 「そうですか。残念ですわね。」アピスは語気を荒げることもなく、事務的にそういうとくるりと後ろを向いて自分の席へと戻っていった。どうでも良いが、振り向き方まで、身体の真ん中に軸が通っているかのようで見ていて気持ちが良かった。

 アピスが去っていくと、様子をうかがっていた何名かの男子がアリスの元に駆け寄ってきた。

 「お前、分かってるな。」少年の一人、ノッポのがアリスに小声で声をかけた。なんかこいつ見覚えあるぞ?

 「ミンドートに付くなんて愚かだもんな。」そばかすの切れ目の少年がかぶせるように言った。そしてこっそりとアピスのほうを振り返った。

 「せっかくベルマリアの御曹司で次期国王が居るっていうのに、そっちにつかないなんてどうかしてるもんね。」と言ったのは太っちょの少年。彼はほかの少年より年下に見える。てか、本当の次期国王に向けて良く言ったもんだ。

 「事実ベルマリアとミンドートでは同じ公爵と言えど格が違う。ジュリアス様が居る限り、アピス嬢は自分の家柄じゃ人を集められない。だから、女子派閥を作っているんだ。女性同士なら簡単に仲間になるしな。気をつけると良い、彼女は自分の公爵家の格をあげようと必死なのだ。」そう言ったのはアリスに絡んできた中で一番年上の茶髪の少年だ。こいつも見たことあると思ったら、さっきのノッポと二人、前回ジュリアスの後ろについていた金魚のフンだ。「そこらへん、ドッヂソンといえどさすがは王家の外戚。君は状況を見る目があるな。」

 「というわけで、ようこそ、ジュリアス様の袂へ。」アリスに寄って来た男子のうち最後の一人、金髪だが少し残念な顔の少年がアリスに言った。「心配いらないよ、ジュリアス様の配下にも女子はいるからさ。」

 「ただ、一応勘違いしないでもらいたいが、我々はベルマリアの派閥である以上にジュリアス様の配下だ。」茶髪が言った。「だから、ジュリアス様には失礼のないように。アピス嬢のお遊びの社交界ごっことは少し違う。この国の未来を支えるための土台作りだと思ってくれ。」

 「申し訳ありませんが、ご遠慮させてください。」

 「はあ?」少年たちが驚きの声をあげた。その声に教室中の視線がアリスたちに集まった。

 「意味が解らん。」ノッポがアリスの机をドンと殴った。「アピス嬢の誘いを断ったのだろう?」

 クラスに緊張した空気が流れるが、やられたアリス本人は全く気にしていない。

 「なら、ジュリアス様の元に来るということだ。」太っちょがアリスににじり寄ってきた。そばかすと金髪も眉にしわを寄せながらアリスのことを睨みつけた。

 完全にヤカラじゃないか。

 ウィンゼルがびっくりして、シェリアのところに避難する。当のシェリアも少年たちの怒気に怯え切っている。

 「ドッヂソン家ごときでは分からないかもしれないが、次代の国王は国を治める上で人脈作りを早いうちから行っておかなくてはならない。今ここで、ジュリアス様を拒むことは、国の行く末をないがしろにしているのと同じだぞ。」茶髪が呆れたように言った。

 「そうだ、お前はバカだ。」そばかすが付け加えた。もはやただの悪口じゃないか。

 「悪いことは言わねえ。仲間になっておけ。」太っちょがアリスを下からのぞき込むように睨みつけた。

 こいつらほんとに貴族か?アピスとの差が大きすぎて信じられん。貴族にもいろいろ居るんだなぁ。こいつらのほうがアピスの下について礼儀作法を学ぶべきじゃないかな。

 「うーーん。何かいろいろ込み入っているご様子なので、やっぱりご遠慮させていただきますわ。」アリスは少し首をひねってから答えた。

 「あ?」「君はバカなのか?」少年たちがアリスに詰め寄ってきた。

 「それにジュリアス様直接のお誘いをいただいておりませんので。」とアリス。「私などが勝手に仲間に入れてもらっては悪くございますわ。」

 「き、貴様っ。」少年たちの何人かの顔がゆがみ、怒りで真っ赤に変わった。

 これは後になって分かることだが、この時怒り狂ったのはいずれも伯爵家の子供だ。つまり、ドッヂソン侯爵家よりも位が低い。ただし、ドッヂソン侯爵家はいろいろとめんどくさい立場のため、彼らは伯爵家であるにもかかわらず侯爵であるドッヂソン家を下に見ていたのだ。

 そこら辺をわきまえない感じで、アリスが「アンタラ所詮伯爵じゃない」みたいな受け答えをしたので、彼らは激怒したわけだ。

 例によってアリス本人はそんなことは全く考えてないのだろうけれど。

 「ドッヂソン。思いあがると、後悔するぞ?」茶髪の少年がアリスにすごむと、ノッポと犬のようにアリスに敵意をむき出しにしている3人を連れて教室を出て行った。

 彼らが教室を出て行ったのを確認するとシェリアが慌てて寄ってきてアリスに話しかけた。

 「リデルちゃん、少しお考えになったほうがよいですわ。このクラスには派閥がありまして、ひいてはこの後のこの国の貴族としての人間関係に響いてきてしまいますのよ?」シェリアは言った。「私はアピス様のご学友にさせていただきましたのよ。今なら間に合います。私からも頼んでみますから。」

 次期ジュリアス王に着くか次期アピス公爵につくかを今決めろといったところだったのだろうか?

 子供ながらに結構重い決断を迫られてたのね。

 中世とかだと10代なかばで成人扱いだっというから、この世界も同じように、アリスたちはすでに子供という枠の縁に居るのかもしれない。

 「大丈夫ですわ。」それでもアリスはこう言ったことに全く興味がないようだ。

 まあ、そりゃそうだ。コネもなにも、アリスはジュリアスを超える次期国王候補だ。

 周りがアリスを見ながらひそひそと話しているが、アリスは全く気にせずに凛と背を伸ばして高貴な貴族を装っている。

 しかし、スタートからして躓いた感が否めない。いきなり孤立のピンチだ。

 いや、孤立ならまだよかった。


 まさか、アリスをいじめてくる奴らが居ようとは。

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