3-2 a さいきんのミステリ
マハル殺害とグラディス緊急逮捕の報を受け取ったアリスはおっとり刀で部屋を飛び出し、メイド長の制止も聞かずにグラディスの元を目指した。
今回は部屋の前に兵士がいなかったこともあって隠密とか無視だ。
これは、強行突破の予感・・・。
アリスはちょいちょい道に迷いながらグラディスの部屋に続く廊下の前までやって来て止まった。アリスの後ろを制止の声をかけながらついてきたメイド長がようやくアリスに追いつく。メイド長、何気に速いな。
グラディスの部屋の前には二人の兵士が立っていて、アリスに気づいた様子だ。
アリスが再び兵士に向かって動き出す。
ヤバい。なんかやりかねん。
「アリス様!」と、意外にも、先に声をあげたのは、部屋の前に居た兵士の片方だった。待ち合わせで誰かがやって来たときのようなのんきな口調だった。どうもアリスが来ることは予見済みだった様子。
って、こいつ、この間学校についてきたイケメンの兵士だ。逮捕中のメイドの部屋に押しかけてきて今にもなんかしそうな王女に対して和やかに手を振っている。
この兵士、アリス慣れしてきてないか?
いいのか?それで?
まったく想定してなかったのんきな声をかけられて、アリスのほうがビクッとして停止した。
兵士はアリスのほうに駆け寄って来て言った。「グラディスさんは別の部屋に控えております。ロッシフォール閣下より、アリス王女がおいでなられたら取り次ぐよう承っております。」
ロッシフォールの差し金か。ナイス、ロッシフォール。たぶん一番問題の起こらない対応策だ。
兵士に案内されて、グラディスの待機している部屋に到着した。アリスを追いかけてきたメイド長は兵士に頭をさげると仕事に戻っていった。
グラディスの隔離されている部屋は空いていたメイドの居室のようで、部屋には申し訳程度の家具とベッドが置かれていた。部屋の中央の椅子には兵士二人に見張られたグラディスが不安そうに座っていた。
「ああっ、アリス様!」グラディスはアリスが入って来たのに気づくとパッと表情を緩めた。
アリスは駆け寄って、グラディスの腰に抱きつく。
「王女殿下の朝のお支度に上がることができませんで、申し訳ありません。」グラディスが少し乱れていたアリスの美しい髪をなでて整えた。
「そんなことより、何があったの?」アリスが尋ねた。
「はい、それが・・・」グラディスがおずおずと部屋にいた二人の兵士を見上げた。二人はグラディスの見張りなのだろう。
「話してよい。」グラディスの見張りの兵士二人は王女の到来にカチコチに緊張しながら、グラディスに頷いた。
ちなみに、ここまで案内してくれたアリスの見張りのイケメン君はそのまま部屋に残ってリラックスした様子で窓の外を眺めている。君はアリスに逃げられた前科が二回もあるんだからもうちょっと緊張しとこうよ。
「その・・・、昨日仕事を終えまして、部屋に帰りましたところ、マハル様が床に血まみれで倒れていらっしゃいまして・・・。慌ててメイド長をお呼びしたのですが、もうすでにお亡くなりになられていたということのようなのです・・・。」グラディスが答えた。
「じゃあ、グラディスは関係ないじゃない。」アリスが兵士たちに向かって言った。「なんで、グラディスが監禁されてるの?」
「このメイドは第一発見者でございますし、被害者の殺されていた部屋の居住人でもありますので、第一容疑者なのです。」兵士の一人がグラディスの代わりに答えた。
そりゃそうだわな。
「それに・・・」
兵士たちが含みがありそうにお互いをみる
「それに何よ?」ちょっと不機嫌な声をアリスが上げた。
「その・・・、犯行現場の部屋の鍵が閉まっていたそうなのです。開け閉めすることができたのはそこのメイドだけでして。」
「ほんとなの?」
「うーん、それが・・・」兵士たちは歯切れが悪い。「それが、部屋の扉にカギがかかっていたと証言しているのもそこのメイドだけでして・・・」
「グラディスが嘘でもついてるっているの!?」アリスが兵士に詰め寄った。
「その、カギがかかっていたのが本当だとすると、この部屋に死体を残して鍵を閉めることができたのはそのメイドだけになってしまうのですが・・・。」王女に詰め寄られたせいか、美少女に詰め寄られたせいか、兵士がのけぞってアリスを避けながら慌てて答えた。
「おぅ。」アリスがちょっと納得して困る。「グラディス。ホントにカギがかかってたの?」
「は、はい。」
「窓とか庭側の扉とかは?」
「そちらも、閉まっておりました。」と兵士。
「私は部屋に戻った時に窓を開けたり閉めたりしてません。」グラディスが補足する。
うむ、密室殺人だ。
そしてカギを持っていたのはグラディスのみ。密室を証言したのもグラディスのみ。
密室だとしたらグラディス以外がどうやってカギをかけたか。
密室じゃなかったらどうしてグラディスは密室とウソをついたのか。
「ぐぬぬ。」
「そんなわけで、その、申し訳ないのですが、殿下のメイドが第一容疑者となっているのです。」兵士が申し訳なさそうにかるく頭を垂れた。
「グラディスが犯人な訳ないでしょ。」
「はぁ。」兵士がヤル気無い肯定の返事を返した。「わざわざ自分に不利になることを言うのもおかしいので、我々もそう思ってはいるのですが、カギの問題がございまして。我々も困っているのです。」
「う~ん。」アリスがちょっと考えてから思いついたように続ける。「じゃあ、カギの問題がなかったらグラディスは無実で良いわね?」
「ま、まあ。たぶん、そうなるんですかね・・・?」俺たちに聞かれても困るんだけどなあとばかりに兵士達が顔を見合わせた。
「じゃあ、この密室の謎を解けば良いのね。」アリスがやるぞー的な感じで肩のストレッチを始めた。
それ、王女の仕事じゃないでしょ。この子に待ちの姿勢はないのか?
「そういえば、マハルって・・・・その、ほんとに死んじゃったの?」
「彼女の部屋で倒れていたメイドでしたら、すでに亡くなっております。」
「そう・・・」アリスが残念そうな声をだした。
「頭部を鈍器のようなもので割られており、メイド長が駆けつけた時にはすでに息絶えていたと思われます。」
「じゃあ、マハルの敵も取ってあげないとね。」
貴族とか王女って基本自分では何もしない人たちだと思ってたけど、なんで、この子は自ら率先して動こうとするのかね。
突如、アリスは部屋のベッドの上に跳び上がると、グラディスを見下ろしながら言った。「待ってなさい、グラディス。この事件、私が解決し」
「アリス様!靴のままベッドの上に登ってはいけません!!」グラディスが即座に叱った。
アリスはすごすごとベッドの上から降りると「大丈夫だからね。解決するからね。」とバツが悪そうにグラディスに言いながら部屋を後にした。




