2-11 a さいきんの冒険もの
アリスは一時間とかけずにタツの家に到着した。さすがに2度の脱走で道を憶えてしまったようだ。
特に道すがらトラブルもなかった。
いや、アリスがこんなところにいること自体がトラブルではあるのだが。
アリスの小脇には昨日アルトからもらった薬が入った包みが抱えられていた。
「スタン!」アリスが元気よくタツの家の扉をくぐった。開けるほどの扉は残ってない。
「ねえちゃん!」タツがびっくりして声を上げた。
タツはちょうど母親と食事をとっているタイミングだったようだ。
母親が再びの王女の闖入に驚く。
タツの母親は寝所であるござの上に半身だけ起こして、タツの作った貧しいスープをすすっているところだった。相変わらず顔色が悪い。
「来たわよ!」アリスがどや顔で手に持っていた包みをタツに見せつけた。
「母ちゃん、治してくれるの?」
「任せなさい!」そう言って胸を張ったアリスは床に皿を置いて食事を始めようとしていた親子の脇に座った。
親子が呆然とアリスを見つめる中、アリスは、今まで大事に抱え持ってきた包みを開けて広げた。中からアルトに貰ったいくつかの薬瓶とは別に、お昼にアリスが食べていたサンドイッチの入っていたランチボックスが出てきた。
「そんなのいいからこっちを食べなさい。」アリスはそう言って、タツたちが食べようとしていた食事の入った皿を乱暴にわきによけるとランチボックスをその場に置いた。
タツが、自分たちの食事をそんなのと言われて少しムッとした顔をする。わきに避けられた彼らの食事は、道で取って来た雑草を煮ただけのような代物だったが、それでも彼らにとってはこれが毎日の食事なのだ。
アリスに悪気はない。たぶん、アリスはそれを食事とすら認識していない。
タツが顔をしかめたのにも気づかず、アリスはランチボックスの蓋を開けた。中にはサンドイッチとちょっとしたおかずや果物が入っていた。自分たちの食事を悪く言われ顔をしかめていたタツの口元が自分たちの知らないおいしそうな食べ物の出現に思わず緩む。
「わたしの・・・えーと、みんなが分けてくれたの。」と、アリス。
実は、さっきの昼休みにアリスのクラスメイトたちがタツ親子のために昼食を少しづつ分けてくれていたのだ。アリスはタツたちに食事を持っていくという考えには至っていないようだったが、クラスメイトの貴族たちはそのあたりの感性を持ち合わせていたようだ。
タツ親子が顔を見合わせた。
「いいの?」タツが訪ねた。
「食べて。私はもう食べたから。」
親子はおそるおそるアリスの取り出した箱の中の見たことのない食料に手を伸ばし、少し匂いを嗅いでからほおばった。
そこからランチボックスが空になるのはあっという間だった。タツとタツの母親は目を輝かせながらアリスの持ってきた食事を平らげてしまった。余りのおいしさにか、二人の口からは何の言葉も出てこない。夢中で食べ終わった後、とても申し訳なさそうにアリスを見ただけだった。
滋養にはいいだろうけど、もうちょっと、軽いもの食べさせたほうが良いんだけどなあ。
「あと、これが薬ね。」アリスが薬瓶を取り出して並べた。「ええと、たしか、、全部朝昼晩1つぶづつ飲んでね。」
ちがうよ。
栄養剤とビタミン剤の服用が多いし早い。口内炎とかできるかもよ?
「ありがとう。」タツが絞り出すような声で言った。彼の表情はいろいろと複雑そうだった。「・・・ありがとう、ねえちゃん。」
母親もゆっくりと頭を下げた。
「これで、多分、大丈夫。」アリスが言う。「ダメそうだったら、また薬貰ってくるから。」
そうアリスが胸を張った時、外からアリスに向けて声がかけられた。
「王女!いるんだろ!!」




