2-10 b さいきんの冒険もの
アルトが帰ったのと入れ替わりで、オリヴァが迎えに来て、アリスは学校に向かった。
アリスがマハルに口止めしていたこともあり、オリヴァはアルトがさっきまで招集されていたことについては知らないようだった。
学校では前日の事件を受け、本日より厳重な対アリス監視網がしかれた。
オリヴァが昨日城に帰ってすぐ上申はしているものの、さすがに昨日の今日で兵士を増やすことは叶わなかったらしく、今日の護衛も相変わらず昨日のイケメン兵士が一人だけだった。それでも、オリヴァは彼女の限られた手札を駆使してアリスを封殺にかかった。
建物の芝生側、窓の外には護衛の兵士が常駐。アリスが出てくればすぐに分るように待機して、ひと時も離れない。トイレに行くときも誰か教員が代わりが来ることになっている。
一方の廊下側、オリヴァが教室の前に陣取り、アリスが扉から出てくれば常に付きまとうつもりだ。オリヴァは教員たちにも要請して、非番の教員が校内を見張ったり、オリヴァや兵士のサポートをすることを取りつけている。
授業が始まり、朝から教室の前の廊下にずっと立っていたオリヴァだったが、おばあちゃんがずっと立っているのを見かねた教員が椅子を用意してくれたので、教室の二つの扉が確実に見える位置に椅子を置くと、そこに陣取ってアリスが出てこないかを驚くべき集中力で見張った。
兵士も自分の役割を全うし、教員たちも頻繁に巡回をしてアリスが逃げ出さないか目を光らせていた。
この布陣に問題があるとすれば、アリスが暴力で強行突破を試みようと思えばたぶんできてしまうところくらいだろうか。
しかし、当のアリスは昼まではずっとおとなしくしていた。授業中は寝てはいたが。
今日は先生もアリスを当てようとはしなかった。
各授業の合間の休み時間ごとに、アリスはクラスの女子に囲まれて、昨日の脱走のことを質問された。
アリスは話を分けながら、昼休みまでの休み時間で、昨日の冒険譚を多少の尾ひれを付けて語った。もちろん王女であることについては伏せてだ。
アリスの話は安穏と過ごしてきた貴族のご子息らには十分な魅力だったらしく、最終的には女子だけではなく、遠くから聞き耳をたてていた男子もアリスの机のまわりに集まってきていた。
オーディエンスの興奮に合わせた話の流れで、ケンが『強敵』と書いて『友』みたいな扱いになっててちょっと笑えた。
「というわけで、スタンのお母さんのところに薬を持っていきたいのね。」
昼休み前の最後の休み時間、昨日の一部始終を話し切ったアリスはクラスメートに堂々と相談した。
「ここから出る良い方法無いかしら?」
クラスメートたちはアリスの話にあてられ、自分もこの冒険譚に関わりたいと思ったのか、かなり真剣に考えてくれた。
そして、クラスメイト達が首をひねる中、一人の女子生徒がちょっとした妙案を出した。
さて、昼休み。
この学校のお昼は、給食ではなくお弁当だ。
先生たちは教員室に食事に戻り、生徒たちも各々ご飯を食べる。このクラスのほとんどの生徒たちは、お付きのメイドが届けてくれるか、自分で持ち込んでいたランチボックスを教室で食べる。
アリスは後者だ。
アリスは昨日はお昼は抜きだったから、初めての学校でのお昼だ。
他の休み時間と同じようにクラスメイト達がアリスに寄ってきて一緒に食べないかとアリスを誘い、アリスもうれしそうに快諾した。
アリスは彼女たちと和気あいあいと、サンドウィッチの包みを広げて食べた。もしかしたら、今日、昼過ぎまでアリスがおとなしくしていたのも、昨日お昼を食べずに脱走したのを後悔したからなのかもしれない。
オリヴァは昼食はあきらめて教室の出口が見渡せる廊下にそのまま待機、人通りのやたらと多い廊下を、通り過ぎる一人一人にまで目を光らせている。生徒に変装したアリスが通り過ぎていかないか見張っているのかもしれない。
さすがにそこまで神経質にならなくてもいいだろうに・・・とも思ったが、よくよく考えたら、アリスにはマハルに変装して脱走してったという前科があった。
護衛の兵士は庭に待機したまま携帯食料を食べている。こっちはあまり危機感のない様子だが、そもそも窓から人が出てくれば必ずわかるので問題なさそうだ。
厳戒態勢はなおも完璧だ。
完璧なはずだった。
しかし、昼休みを終えた先生が教員室から教室に戻ってきて目にしたのは、アリスどころか他の生徒も誰もいない教室だった。
黒板には、大きな文字で
『かくれんぼ。全員見つけてみよう!!』
と、書かれていた。
学級崩壊ナウ。
「まあ!」先生は悲鳴を上げて頭を抱えると、ふらふらと教室を出て、昼休み中もずっと廊下で見張っていたオリヴァのもとに生徒たちのことを知らせに行った。「オリヴァせんせ!オリヴァせんせ!!生徒たちが誰もいません!!」
オリヴァが驚いた声をあげる。「ア・・・、リデル様もですか?」
「全員です!誰一人いません!」
オリヴァが教室に駆けこむが、中には誰一人としていなかった。オリヴァが驚いた様子で黒板の文字を読む。
先生やオリヴァが驚くのも無理はない。教室にはアリス一人が隠れるならともかく、アリスを入れた生徒26人全員が隠れられる場所などなかったからだ。
にもかかわらず教室には一人の影すら見られない。
先生は「大変ですわ!!」と大声で叫びながら教員室へ走り、顔面蒼白のオリヴァは窓際へ走って、庭を見張っていた兵士を大声で呼びつけたのだった。
今更慌てたところで、教室にはアリスどころか生徒の姿は誰も見えなかった。
子供たちは周到だった。
昼休みに、彼らは急いで食事を済ませると、アリス以外の生徒たちは意味もなく教室を出入りしてオリヴァの前を行き来した。
オリヴァがアリスのこと以外も気にしていたなら、戻って来た生徒の数が出て行った数よりも少なかったことに気づいたかもしれない。
しかし、生徒たちはそれがバレないように何度も何度も出入りを繰り返し、少しずつ教室から数を減らしていった。そうやって、まず、大半の生徒が教室の外の校舎内のどこかに隠れた。
教室内の残りはアリスを入れて9名。
その9名からアリスを除いた残りの8人の生徒のうち7人は男子だ。
男子たちは兵士の見張っている窓から堂々と出ていった。
彼らは昼食を食べている兵士に、ここから出て行ったことは内緒にしてくれと口止めをして、庭のどこかに隠れた。
懐の深い兵士は、ヤンチャな子供たちの口止めくらいは聞いてあげる度量を持っていたようだ。だって、窓から出てきたのはアリスではなかったのだから、なんら問題はない。
そして、残ったのは二人。
最後の二人はアリスと、この作戦を言い出した女の子だ。
二人は実は教室の中に隠れていた。
女の子はお約束の教壇の下。アリスはオリヴァの入って来たのとは逆の出入り口の扉の裏に身をひそめて、オリヴァと先生の動向を観察していた。。
女の子はアリスがオリヴァと入れ替わりに教室から出ていけるように真っ先に見つかって注意を引く役だった。
しかし、オリヴァが兵士を呼びに窓へと向かい、先生が教員室へと走って行ってしまった間に、アリスが教室を出て行ってしまったので、女の子はそのまま隠れ続けた。
結局、彼女はアリスを除けば一番最後まで見つからなかったようだ。
オリヴァが窓に向かった隙に教室を抜けるのに成功したアリスは、廊下の窓から校舎外に出て、タツの教えてくれた抜け道に向かった。
こうして生徒たちのちょっとした冒険は成功し、アリスは今日も脱走に成功したのっだった。




