2-10 a さいきんの冒険もの
アリスは夕暮れ時になってようやく、泥だらけ、血だらけで学校にもどってきた。
もちろん授業は終わっていて、オリヴァと何人かの先生だけがアリスが戻ってくるかもしれないと学校に控えていた。
学校の敷地までアリスが戻って来たのを発見したオリヴァが慌てて駆け寄って来た。護衛の兵士は見当たらない。おそらく、アリスを探してどこかを走り回っているのであろう。アリスは、タツに教えてもらった抜け道を通って貴族街の中まで戻って来たので、兵士とは入れ違いになってしまったようだ。
にしても、貧民街の子供らが城壁を通り抜けできる抜け道を知っているという状況ってどうなのよ?
アリスに駆け寄って来たオリヴァが、アリスの血まみれの惨状に気づいて卒倒した。
心配ない、だいたいケンの返り血だ。
結局、今度はアリスのほうが、オリヴァの回復と例のイケメン兵士の帰還を待つことになったため、アリスが城に戻ってこれたのは夜遅くだった。
時間を持て余したアリスが以前突破した門まで護衛の兵士を探しに行き、アリス脱走の知らせを受けて待機していた門番たちを驚かせた。アリスを探しに言ったのにアリスに探しに来られたイケメン兵士は後で大目玉だろう。かわいそうに。
帰りの馬車の中で、オリヴァがお小言をずっと繰り返していたが、アリスは完全に聞き流していた。それどころか、オリヴァが一息入れたタイミングで、「ねえ、知り合いを城に連れてきちゃダメ?」と、のたまい、再びオリヴァにお小言を喰らうのであった。
オリヴァのほうも、いろいろ、想定外を超える想定外を目の当たりにしたせいで説教の切れが悪い。なんだったらアリスが出て行ってから帰ってくるまでの間で少し老けた気さえする。
そして、アリスが自分が悪いと解ったうえで開き直ってしまっているので、オリヴァの説教は完全にのれんに腕押しだ。
アリスはオリヴァの説教を聞き流しながら、何かいろいろと考えているようだった。
そして部屋に着いたアリスは、自分の夕飯もそっちのけでマハルにアルトを呼びに行かせたのだった。
アルトがやって来たのは結局次の日の早朝だった。
さっきまで朝の身支度のためやって来たマハルに、アルトが遅いと言ってねちねちと八つ当たりをしていたアリスは、アルトがやって来たとたん態度を急変させた。
「アールートー」アリスは、アルトが部屋に入ってくるなりベットに飛び込むと、病気を装って突如苦しみだした。
はたして、ネオアトランティスから見ている限りでは、アリスはものすごく病気の演技が下手!
なぜだ!あなた今までさんざん病気だったじゃん。
ネオアトランティスですらアリスの唐突の変貌に心配する様子も見せず、くちばしで毛づくろいをしている。
「ア、アリス様??」突然のアリスの行動についていけてなかったマハルが驚いて声をかけた。が、アリスにキッと睨まれて黙った。
アリスにボディブローを決められて以来、マハルはアリスに恐怖をもって支配されている。アリスもマハルをそう扱うことにためらいはない。グラディスに嫌がらせをしてた手前、あまりマハルのことは好きではない。が、それでも、アリスによるストレスでマハルの頭部に十円禿ができたことを耳にしてしまったので、さすがにちょっとかわいそうだとは思う。
「具合がー悪いのー。」アリスが苦しそうに胸を押さえながら演技を続けた。「薬を頂戴ー。」
「・・・・そ、そうなのかね??一体どうしたんだい、アリス君?」アルトがアリスに尋ねた。最初一瞬だけ戸惑ったアルトだったが、今や目もとが笑っている。
「えーっと。まず、顔色が悪いでしょ。お腹が減ってる感じで、元気がないの。起きるのもシンドイみたい。あと、少し指先が震えてる。」アリスが指折り数えながら答えた。タツの母親のことを思い出しているのだろう。
アリスの魂胆は判った。アルトからタツの母親用の薬をせしめる気だ。
にしても、演技が下手すぎて見てられん。ネオアトランティスからアリスに移り変わってアリスのパラメータを下げてやる。VIT半分くらい下げときゃ具合悪くなんだろう。
再びネオアトランティスに戻ってアリスの顔色が悪くなったのを確認する。
「・・・うーん、解ったよ。」アルトは、アリスの顔色の変化に気づいたのか、はたまた空気を読んだだけか、聴診器や鏡を取り出しアリスを診断し始めた。
「アルトー。クスリー。クスリをー。」アリスは全然苦しそうでない演技でアルトに薬をねだった。せっかく顔色悪くしたんだから、要らん演技しないで欲しい。逆効果だ。
てか、いま、君、ほんとに具合悪いはずなんだけどな。
アルトは笑いをこらえているのか、心配しているのか分からない。マッチョの表情は読みにくい。
実際のところは、アルトは空気を読んでくれているんだろう。そう断言できるほどにアリスの演技はむごたらしい。
「うーん、では、とりあえず、適当なお薬でも出しておこうかね?」一通りの診察を終えてアルトが言った。もう適当なとか言っちゃってるし。
アルトは薬瓶をいくつかカバンから取り出した。
「何日か分・・・何日か分・・・」アリスがとても苦しそうには見えない苦しいアピールでアルトに言った。
「承知、承知。」さすがにアルトも完全に苦笑い。そしてアルトは取り出した薬について説明を始めた。「これとこれが、体力回復の薬と胃腸の薬。アルト印の特性回復薬だよ。どんな体調不良も一発だ。素晴らしいよね。これをおさ湯で一日3錠飲むこと。できれば朝、昼、晩1錠づつね。あと、ちょっと体調が回復したらこっちのビタミン剤と栄養剤も服用するように。こっちは朝夕1錠ずつ。」
体力回復薬と栄養剤の違いがいまいち解らないことを除けば、幸運なことにタツの母親にはよさそうな対応だ。もちろん、薬が本物だったとしてだが。
まあ、通常、解熱剤や胃腸薬に追加して、プラシーボ用というか、患者を心配させないために、栄養剤やビタミン剤のような副作用のない薬を処方する医師は結構いる。アルトもそれにならっているのだろう。ざっくり言うと、とりあえず飲んでも大丈夫なもんを適当に渡しただけの可能性が高い。
アリスはさっきまでの病気の演技はどこへ、喜んでアルトから薬の瓶をひったくった。
「わっはっは、飲む前に治っちゃったようだね。」アルトがこれも自分の手柄とでもいうようにポージングを決めた。うざい。
兎も角、クスリを手に入れたアリスは今日も学校から脱走するんだろうなぁ。
オリヴァもかわいそうに。




