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1-12 さいきんの異世界転生

 毒が倍になったのは何気に悪いことではなかった。

 エルミーネの引き出しのなかの毒の瓶があっという間に空になったのだ。

 これで、エルミーネは毒を入手しなくてはないらない。

 毒が倍になったことはアリスには何の影響もない。自分がせき止めているからだ。むしろ、最近、自分がアリスとの付き合い方を理解してきたこともあって、アリスは前よりも元気にさえなってきている。

 ただし、アリスの身体の中では、自分と毒の戦いがし烈さを増しているのだった。

 毒が倍になったとはいえ、まだまだ数ではこちらが勝っているので、大幅にこちらの数を減らされたりすることはないのだが、毒たちはアリスの身体のどこかに向かっているらしく、こちらの防衛線をすり抜けて行こうとするのだ。肝臓に作用する毒とか、そういう系の奴らなのだろう。アリスの臓器の中で、どこがどの臓器であるかをはっきり把握しているのは、胃と腸などの消化器官まわりだけだ。食事の後の状態の変化であたりをつけた。肺と脳の位置もだいたいの位置は把握できていいると思う。そもそもどこにどの臓器があるか判っていたとしても毒の作用が分かっていないので、どの臓器を守れば良いかが解らない。

 そのため、広大な消化器官全域に張った防衛線を毒が突破しないように頑張らなくてはいけない。白血球もいるので必ずしも取りこぼし0でなくてもいいが、毒の効果と狙いが分からない以上、極力被害が出る前に倒したい。

 というわけで、最近、結構大変だった。


 しかし、防衛の甲斐あってエルミーネの持っている毒が空になった。

 しばらく毒を入れられることは無いはずだ。

 その日の夜から厳戒態勢に切り替え、余裕があるときはすべてエルミーネに張り付くことにした。入手のタイミングを押えたい。黒幕が分かるかもしれない。

 エルミーネはその日の夜は相変わらず書斎で酒を飲んでいるだけだったが、次の日の朝から早くもいろいろと違った動きがあった。

 まず、いつもと香水が違った。いつもの誘惑の夜霧ではなく、永遠の純潔だった。ドレスもいつもよりもさらに挑発的でエロティックなものを選んだ。あと、今日はケーキが届いても毒は注射しなかった。

 そりゃまあ、毒が無いし。

 そして、一番の大きな違いは、今日はメイドが城まで同伴している。彼女は小脇に着替えの入った籠を抱えていた。

 小さな違いだが、大きな違和感を持ってその日は進んでいく。

 アリスへの授業はびっくりするほどいつも通りの流れで終わった。違いと言えば、アリスの曰く「今日のケーキはいつもよりさらにおいしいわ」ということだけだった。エルミーネのほうはいつもと同じようにアリスがケーキを食べるのを頬杖をついて眺めていた。


 そして、授業が終わった。

 今日は毒は盛られてないので防衛線を敷く必要はない。毒が手に入るまではエルミーネを見張っていられる。

 アリスの部屋を出たエルミーネは一つ階段を下ると、早速いつもと違う行動をし始めた。外へ続く廊下とは違う角を曲がりその先に向かった。エルミーネは少しだけ振り返って自分の来た廊下に誰もいないことを確認すると誰にも見られることなく一つの扉を開けて中に滑り込んだ。

 エルミーネが部屋の中に入り込むと、部屋の様子を確認する間もなくいきなり後ろから抱え込まれた。エルミーネが胸元を見下ろすと、筋張った男の手がエルミーネの胸を押しつぶそうとするかのように食い込んでいる。

 死ぬほど驚いたのはエルミーネの中の自分だけで、当のエルミーネは落ち着き払った様子で、後ろから抱きしめている人物に体を預けるようにもたれかかった。

 「遅かったじゃないか。」エルミーネを抱え込んでいる人物は、低い男の声でそうささやくとそのまま耳元をなめた。背中に悪寒が走る。身体のない自分の感情的に感じられただけでなく、エルミーネの身体的にもだ。

 エルミーネは嫌悪感などおくびにも出さず、ますます後ろの男にしだれかかった。男はエルミーネの乳房や太ももの青白いなめらかな肌の感触を薄絹の上からしつように楽しんだ。力強く掴まれて、暴力的なまでに乳房が形を変えた。

 触られる側の事など考えない無粋な手つきで身体をなでまわされたエルミーネは、別段気持ち良さを感じていないにも関わらず妖艶な吐息をもらした。同時に内ももに伸びた男の手をやめて欲しいと意思表示するかのように両手でつかむ。が、それを引きはがそうとはしない。強く握っただけだ。エルミーネの二の腕が豊満なバストを挟み込み、その隆起を際立たせた。男を煽る演技だ。

 後ろの男は彼女の思惑通り、その反応に煽られたようだ。胸の感触を楽しんでいた右手でエルミーネの顎をつかんで自分のほうを向かせる。

 一瞬、整った顔の小奇麗な中年男の顔が見えた。エルミーネはその瞳をのぞき込むと一瞬口角を上げ、その目を挑発的に見つめた。

 男は誘いこまれるようにエルミーネの唇に自分の唇を重ねやめろおおおおおおおおお


 無理。


 まぢムリ。

 おっさんと口づけとかムリ。自分、ノンケな男ですYO?

 おっさんキス長い、やめて、キモうああああ舌入れてくんなぁああ。


 慌ててネオアトランティスに退避。


 くっそー。逆VR。

 エルミーネの濡れ場は覗いてみたいけど、この視点は何一つ嬉しくない。

 ふむ、逃げては来てしまったが、タイミング的にこの逢引き現場が毒の入手と関係ないとは思いづらい。

 これは至急戻って二人の様子を観察せねばならないと思うのだ。うん、そうしよう。そのほうが良い。

 かといって、おっさんに口づけされる視点は良くない。おっさん視点になれないのはしょうがないが、せめて普通に見たいじゃないか。いや、情報収集をだ。

 ゴキブ、じゃなかったゴリに視点を飛ばす。

 ここどこだ?

 相変わらずどっかの隙間っぽい。周囲の匂い的にメイドの部屋周りっぽいな。エルミーネたちのいた部屋には窓がなかったから小さな空気口が上のほうにあるはず。そこまでゴーだ!!


 カサコソとゴリを走らせる。メイド達の居場所は上位階層からは離れているので、結構な距離だった。ネズミのほうがよかったかな。

 暗い道のりを抜けて、部屋にたどり着き換気口から様子をうかがう。二人はベッドの上で、毛布の下で抱き合いながらピロートークに入っていた。

 無念、いや、話しには間に合ってそうだから良かった。良かったんだよ・・・。

 いや、ほんとに良かった。

 まさに彼らのしていた会話の内容が例の毒についてだった。エルミーネに戻っても良いのだが、おっさんの顔が目の前なのも嫌なのでそのままゴリ経由で話を聞くことにする。またキスされたらかなわん。

「例のヤツ。全然効果ないみたい。」エルミーネが言った。

「そんなことは無いさ、効果が出るのに多少の量と時間がかかるんじゃないのかな?効果については折り紙付きだぜ。」そう答えた男は金髪をオールバックでまとめた顔の濃いイケメンだ。顔立ちからある程度の歳であることが分かるが、髪の毛には白髪の一本もない。また、見た目の年齢の割に、言葉遣いやしぐさがに落ち着きがない。安っぽいというかちゃらちゃらした雰囲気と言うのがしっくりくる。

 こいつが黒幕だろうかか。

「なんでも、病気で死んだ人の血液から作ったロビンジュとかいう毒で、病気みたいに死ぬんだとさ。」

 「むしろ日に日に元気になってってる気がするわよ?あのお姫様。」エルミーネが眉をひそめて言った。

「そんなはずないよ。信頼筋から手に入れてるから効果がないとは思えないんだけどなぁ。エル優しいし、アリスちゃん可愛いからって手心加えたりしてない?」男はにこやかに笑いながらエルミーネの髪に手を触れる。

「してないわよ。私にとってウィンゼル家の復興が第一よ。そのためだったらサミュエル、あなただって利用するわよ?」エルミーネはサミュエルと呼んだ男の顔を覗き込んだ。「ジュリアス様の話が上手くいったら、ウィンゼルの復興の件はお願いね。約束よ。」

「まかせておけ。」サミュエルはそういってエルミーネの頭をなでた。「ジュリアスが王位につけば俺にも父上やロッシフォールくらいの富と名声は入るだろうし、君に新しく領地を与えるのくらいなんともないさ。」

 やはり、ジュリアスとベルマリアのからみか。

「期待しているわ。」

「それよりも、君がウィンゼル卿になったとしても、こうして会ってくれるかい?」

「うれしいわ、でも、奥様は良いの?」

「ルイーズはジュリアスの事しか頭にないさ。」


 あ、思い出した。

 サミュエルってルイーズの旦那だ。


 ルイーズの旦那ということはジュリアスの父親だ。そうか、母親側ばっか気にしてたけれど、父親サイドにも同じくらいアリスが邪魔な動機があってあたりまえだ。

 黒幕はこいつで間違いなさそうだな。

「悪い人。」エルミーネがサミュエルの胸元を指でなぞった。


 ひも解いてみると分かりやすい構図だ。

 王位継承第二位の父親が第一位のアリスを抹消しようとする。ちょうど、アリスの家庭教師になっている没落貴族のエルミーネをたらしこんで、アリスに毒を盛らせる。もしくは、エルミーネのほうがサミュエルをたらしこんだか。わかりやすい構図でありがたい。推理とか陰謀みたいな頭使うのは苦手なのだ。

 とりあえずフェイズ2、黒幕を見つけることに成功した。サミュエルが黒幕であると突き止めた。

 ここからは、フェイズ3。どうやってサミュエルを懲らしめるかだ。

 今持っているスキルの【経口感染】からサミュエルに感染する方法に頭を巡らせる。うーん、嫌だなあ。


「ともかく、お姫様を何とかしないといけないわ。」エルミーネがサミュエルの顔をのぞき込んで言った。

「まあ、根気よく毒を盛っていくよりないなぁ。もし効きが悪いようなら、毒の量を少しくらい増やしてもいいかもしれない。」

「分かったわ。もう少し様子を見てみる。」エルミーネが答えた。「というわけで、毒をもう一瓶頂戴。」

「おやおや、誰かほかに殺したい奴でもいるのかね?怖いねぇ。」

「? 何言っているの?前のが空になっちゃったのよ。」

「なんだい、他のことにでも使ったのかい?高価な毒なんだよ、あれ。」

「物騒ね。そんなわけないでしょ。全部アリスちゃんに使ったのよ。」ジュリアスがとんちんかんな返答をするのでエルミーネが怪訝そうに答えた。

「ああ、仕込んだけどあんま食べてくれなかったのか。危ない毒だから注意してね。ほかの人間が食べて死んじゃったりしたら、警戒されるかもしれないしね。」

「それは大丈夫よ。全部アリスちゃんのお腹の中。あの子ケーキは絶対残さないの。」

「なら心配ないな。は?!全部?」サミュエルがエルミーネの言葉にようやく状況を認識して目を白黒させた。

「そうよ。効かないから量を増やしていったら、もう無くなっちゃったのよ。」

「えぇ?あれ一瓶で、象が3頭殺せるんだけど。」

 そんな毒かよ!!

「そう言われても知らないわよ。」エルミーネが文句を言う。「だから、全然効果がないんですって。紛い物つかまされたわけじゃないわよね?」

「そんなことは無い。・・・と思うんだが。とりあえず新しい瓶を届けよう。これで本当に毒が効かないようなら別の方法を考えよう。」

「お願いね。そろそろ行かないと。」エルミーネが毛布を羽織ったまま状態を起こした。

 ヤバい、慌ててエルミーネに戻ると彼女の口内に感染因子を分泌させる。おっさんとのキスは嫌だが背に腹は代えられない。ただ、未だエルミーネの中の細胞数は少ないので40くらいしか分泌できない。さすがにこの数では確率的に感染の可能性は低いし、【感染】しても白血球バトルで勝てない公算が高いが、やらない訳にはいかない。

 こちらの思惑通り、サミュエルはエルミーネの顎をつかんで自分のほうに向け、唇に軽く別れの口づけをした。

 だめだ、こいつ賢者モードだ。ベロチューとかする気皆無だ。【感染】機会すらなかった。

 そんな状況に落胆や焦りを感じる暇も与えられぬうちに、エルミーネがとんでもない人物の名を口走った。


「じゃあ、グラディスちゃんを呼ぶわね。」エルミーネはそう言って呼び鈴を鳴らした。


 え?

 グラディスってあのグラディス?


 果たして、しばらくするとそのグラディスが現れた。


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