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悪役令嬢から攻略対象にジョブチェンジします。  作者: 音音
第 4 部

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第63話 婚約破棄


 ジートルが国王の言葉を受ければ、自然と彼に視線が集まる。

 膝を折り国王へ下げた頭を上げるとジートルはリリアンを見た。

 リリアンとジートルの視線が絡んだのは一瞬。

 目をそらしたのはリリアンではなくジートル。


 学園ではリリアンが避けようとも追ってきた視線が、すぐにそらされたこと。

 そのことを少しだけ、ほんの少しだけリリアンは腹立たしく感じた。

 それがディビッドとの婚約破棄を乞う言葉が飛び出した理由だ。


 カプレーゼ公爵家での淑女教育に比べれば楽園のような怠惰に過ごせた人質生活の間にザックによって繰り広げられたジートル殿下好感度アップキャンペーンと、その中でザックがジートルの乳兄弟ではあるものの王太子の手駒だと教えられたことが前提ではあるが。


 側妃が王位簒奪を目論んだ余波でジートルが学園卒業後は王子ではなくなり、遠方にある領地を任されること。そこに一人で向かうだろうということをリリアンは分かってしまったから。


 ジートルが自分から目をそらしたくせに、それが諦めたような悲しい目だったことにムッとしたリリアンの口から飛び出した婚約破棄を乞う言葉の後に、するりと続いた言葉。


「そしてジートル様とーーー」


 それは父親のマクルメール子爵によって手で口を覆われたことで途中でとまった。

 さすがにこれ以上は不敬が過ぎると、マクルメール子爵も必死だ。


「お父様、別室でお話しいたしましょう。ここでは皆様の迷惑になります」

アマリリスの呼びかけにカプレーゼ公爵が頷き、何事もなかったように宰相は王家の、次いでカプレーゼ公爵家の退出を告げた。


 二国間を繋ぐ婚約について会場に残った貴族が外で触れることはあっても、カプレーゼ公爵家嫡男とマクルメール子爵家一女の婚約については、王家にも関わりが出る可能性を認識して触れ回ることはないという信頼から口止めせずに宰相もその場を後にした。




**********


「ディビットとの婚約を破棄してジートル様と婚約しようかなって」


リリアンの言葉にアマリリスはため息をつく。

「リリアン。あなた、捨て猫や捨て犬を、とりあえず拾って帰るタイプの子だったでしょう」

 優しいのはいいが、先をきちんと見ているのかというアマリリスの言外の問いをリリアンは笑ってごまかす。


「ジートル殿下を好きだからというわけじゃないのよね」

「うん。そういうわけじゃない。ジートルのことは今でもちょっと気持ちわ…… じゃなくて、…… えっと、微妙だけど。でも、それは別にディビットのことも好きじゃないから一緒だし」


 淑女教育で学んだ言葉遣いなど、どこかに飛んでいってしまったらしいリリアンの話し方ではあったが、そこに触れると話が進まないのでアマリリスは見逃すことにする。


 そして、自分が好いているわけでもないのに、リリアンから好きじゃないと言われて傷を負っているディビットのことも、微妙と言いなおす前に何を言おうとしたのかわかる上で、結果的に好きじゃないと言われているのに喜んでいるジートルのことをもアマリリスは放置した。


 話し合いの場にいるのはカプレーゼ公爵夫妻とアマリリスにディビッドと公爵家預かりとなったロベリア。マクルメール子爵とリリアンと、名前が出たことからジートル。ジートルがリリアンに執着していたのは周知の事実であることから王家側の立会人として宰相。そしてなぜかユリウスが居る。


 愛だの恋だの言ってくれた方が対処は楽なのだがというのが、公爵や宰相の気持ちである。


 側妃のことは公的には伏せられるが、耳ざといものでなくても多くの貴族が処分されるため、王都だけではなく地方にまで、時間差はあれど事の顛末は伝わる。

 そこに、中立派のマクルメール子爵家の令嬢でカプレーゼ公爵家の嫡男の婚約者だったリリアンが、ディビットとの婚約を破棄して、学園卒業後は旧ナージカドレ子爵領を賜ることになっているジートルと婚約となれば、側妃への加担やリリアンの純血が疑われたりと、あらぬ噂を立てられるのはマクルメール子爵家である。

マクルメール子爵としても、それは避けたいが、公爵や宰相が是とすればリリアンが希望している以上受けるしかない。


 王籍を離れるジートルにとっては執着していたリリアンが婚約者となるのは喜ばしいところではあるが、身分差など最初からわかっていて組まれた公爵家と子爵家の婚約を解消するに足る穏当な理由を、この状況下で作るのはとても難しいと沈黙が落ちる中で、可愛らしい声が響いた。


「わたしくしがディビットおにいさまのこんやくしゃになるわ」

 思考を停止していない者たちは、二人の年齢差をカウントした。公爵はあと二十年は余裕で当主を務められる。ディビットの結婚が十数年先となっても問題はない。

 かわいらしい声が紡いだ内容はとても魅力的であるのだが続いた言葉に固まることとなった。

「とてもちょうどいいとおもうの。

ロベリアはいちばんうえのこどもだけれど、しょしというものになるのでしょう?

たいしから、ちゃんとおしえてもらったわ。

だから、けいしょうじゅんいがさいしょのことどもなのに、おとうさまのくにではいちばんひくくなりますよって。

こういきぞくにこんやくしていないロベリアとあうとしのおとこのこもいないから、おうけとしてもあつかいにとってもこまることになるんですよって。おかあさまのくにですごすこともできますよっていわれたけれど、ディビットおにいさまのこんやくしゃになれば、ここにいてもいいでしょう?」


 五つにも満たない幼女の口から出た、大使に教えたられたという内容にユリウスに視線が集中した。

「…… 悪意はない。おそらく我が国の王位継承者として確保したかっただけだと思う」

 ロベリアが口にした大使に教えられたという内容は事実であり、嘘を教えたわけではない。

それに、ウィデント国の王位継承事情を考えれば、ユリウスの言葉に納得するしかなかった。さすがに他国の王家で育てられた者を王位継承者にするわけにはいかないからだ。


「ディビットおにいさまはロベリアのこときらい?」

幼女に嫌いかと問われて肯定する人間はいないだろう。ぼんやりしていたディビットも覗き込まれるように聞かれれば反射的に否定する。

「そんなことないよ」

「うれしい。じゃぁロベリアがディビットおにいさまのおよめさんね」

パチリと可愛らしく手を合わせてロベリアが笑顔になる。

あまりの展開に放心状態のディビットは置いておいて、カプレーゼ公爵家としても王家としても、この縁組みは悪くないと公爵と宰相は目を合わせる。

問題はマクルメール子爵家にも王家にも傷をつけることのない穏当な理由をどう作るかである。

そこで、それまで黙していた公爵夫人が口を開いた。

「そこは私が根回しいたしましょう」

 綺麗にカプレーゼ公爵夫人は微笑んだが、アマリリスが夜会で毒に倒れた自作自演について事前に公爵から共有されていなかったことと、義務を放棄して逃げだしたディビットのことを夫人が未だに根に持っていることに気がつかず任せたため、後日二人が青ざめることになるのは、また別の話である。





**********



 ウィデント国での婚約式を行うためにユリウスと供に国境を越え、そのまま見せたいものがあるからと案内された場所でアマリリスは記憶をたどった。



 ーーー ここだわ。

花を摘んで幼い頃に婚約の口約束を交わした場所。

ユリウスが転んでケガをして……


草を踏みしめる音。

人の気配に視線を向ける。


ゆっくりと頭をさげた女性の姿にアマリリスの目から涙が溢れた。


「アマリリスの大切なものは、俺も大切にしたいからね」

 ユリウスの言葉に感謝を伝えようと何度も頷いた。


 幼い頃、自分の不用意な行動から、命を奪われたと思っていた乳母の姿がそこにあった。

 少しだけ、胸のつかえがとれた気がした。




これにて、完結となります。

駆け足過ぎた書き方になってしまったなぁと反省する部分も多く、書き切れていない部分も回収できていない部分も結構あるので、あとから補足した話を番外編としてあげるかもしれないです。

リリアンからの婚約破棄とそれに対するアマリリスのツッコミのシーンの台詞を書きたくて作ったお話でした。

ライトでポップな文章で書きたいと始めたけれど達成できてないどころか、どこかにいってしまってる現状と、何人称で書いてるのかわからなくなったり、主人公の存在が薄くなったりと、あらためて文章を書くのは難しいなぁと実感するばかりです。


ここまで読んでくださった皆様に心より感謝を申し上げます。

ありがとうございました。


                                      2026/03/07 音音




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