第55話 手紙
「さすがね」
馬車に乗り込むと、アマリリスはユリウスに悋気と共に王太子の侍女から受け取った封筒を押し付けた。
オレンジ色の封筒。
宛先人も差出人も書かれていないただ封をしただけの刻印のない封蝋から僅かに香るのはエルダーフラワー。
ユリウスは少し考えると、封筒を折り曲げ封蝋を割り開封すると中を確認する。
入っていたのは便箋ではなくカード。
封筒を折り曲げたことで、少し折り目がついてしまったカードに書かれているのは貴族令嬢が手本とするような流麗な字。
オレンジの封筒。
カードに使われた緑のインク。
刻印のない封蝋。
同封されたカードにも記名はないが、カードの内容を読まずとも、外側の封筒と封蝋だけで姉のゼラからのものであるとユリウスは予想していた。
この手紙が、ウィデント国の王宮やユリウスが拠点としている屋敷で銀製平皿の上に置かれていたのなら、いつものことだと流すしかない。
記名も封筒に刻印がなくとも、ゼラからのオレンジの封筒の手紙は王宮に関わる場所であれば間違いなくゼラが届けたい人物の元へ届く。
似せたものは弾かれるが、本物であれば確実に。
それは、そのまま王宮内でのゼラの影響力を表していた。
カードに書かれたのは用件でも何でもない。
『ウィデント国王太子 ユリウス・ウィデント』
ただそれだけ。
「やはり、この国の王宮内にゼラは居るようだよ」
ユリウスの言葉に、アマリリスは手紙の内容を目にしないようにと馬車の外へとむけていた視線をユリウスの方へ戻す。
ユリウスは封筒の中に入っていたカードをアマリリスに渡した。
ブルス国の王宮内で渡された王太子付きの侍女から渡された手紙。
王太子が促して侍女から侍従をしている自分に手渡されたならともかく、それもなく渡された貴族令嬢が好んで使う封筒に恋文の類いだとアマリリスは不愉快に感じた。
その不愉快さは職務倫理に反する行為に対してと自分の中で言い訳しつつも、態度に出てしまうのは年相応。
「ゼラ姫?」
「あぁ。このまま大使の所へ行くよ」
ユリウスは馭者席側の壁を3回ノックした。
「王太子になることが正式に決定したようだ。アマリリスの婚約式に間に合わせるようにね」
文書なく示された可能性。
少しの期待を胸にウィデント国大使が構える屋敷へと馬車は向かった。




