そは堕天する人の業06
「はふ~でやんす」
照ノは、自身のアイデンティティを、脱衣所に置いてきた。
下駄は元より。
キセル。
曼珠沙華の意匠をあしらった紅の羽織。
喪服。
というのも理由は簡単で、入浴しているからである。
「タバコが駄目ならしょうがありやせん」
照ノの傍には、御盆が浮いている。
乗っているのは、とっくりとおちょこ。
「タバコが駄目なら酒を呑む」
まさに駄目人間の見本であった。
とはいえ、この程度で「駄目人間」と照ノを責めれば、ツッコミが追いつかなくなるのも、また事実なのだが。
照ノが裸で日本酒を楽しんでいる横では、アリスが同じく裸でシャワーを浴びていた。
肉付きの良い体は、彼女が可憐な少女時代であることを示す記号だ。
胸もそこそこ。
お尻も安産型。
クリスは貧乳で、トリスはスレンダーであるから、アリスの体は、余計極まって照ノの目に映る。
だから何だと云うわけではない。
ただ
「そうあれかし」
と思っているだけだ。
「師匠はさ」
シャワーを浴びているアリスが問う。
「ゲイなの?」
「特に同性愛嗜好症を差別する意図はありやせんが、小生には当てはまりやせんなぁ」
クイと日本酒を飲む。
ちなみに照ノのアパートは、照ノとアリスの二人暮らしだ。
倭人神職会に籍を置くものとしてのしがらみである。
対抗組織である神威装置に籍を置くクリスとトリスとジルはアパートの隣の教会で姦しく暮らしている。
であるためクリスとトリスとジルを差し置いて、アリスは照ノと風呂を良く共にする。
それについての抗議は箇所箇所から上がっているが、照ノにしろアリスにしろ痛痒を覚えることも、ケジメをつけることもしていない。
馬耳東風。
閑話休題。
「じゃあアリスには女性としての魅力が欠けるとでも」
「とは言いやせんがね」
クイと、おちょこを傾ける。
「はい。お盆持ち上げて」
「へぇへ」
ザブンと全裸のアリスが入浴した。
照ノに重なる形で。
照ノの胸板に、柔らかなアリスの胸が押し付けられる。
照ノの股間に、淫靡なアリスの股間が擦り付けられる。
傍目には、いかがわしいことをしている風だが、照ノは一線を越えようとはしなかった。
アリスの入浴によって波立った湯船が、落ち着きを取り戻したところで、御盆を再度浮かべて酒を嗜む。
「む~」
ふくれっ面になるアリス。
まったくもって照ノの股間センサーが赤信号にならないことで、矜持が崩されているのだ。
とは云うものの、
「小生がアリス嬢と知り合ってから幾らでやんす?」
「六十年ちょっと……でしょう」
「その間一切の情事がありやしたか?」
「そうだけどさ……」
「むつごとも、まだつきなくに、明けぬめり……となったことがありやしたか?」
「そうだけどさぁ……」
「そゆことでやんす」
「師匠はアリスのことをどう思ってるの?」
「可愛い弟子」
「可愛い女子?」
「で・し」
「そんな念を押さなくとも……」
残念そうなアリスを表面上は無視する。
おちょこをクイ。
「トリスのことはどう思う?」
「愛娘とはアレを指して言うんでやしょ」
「血は繋がっていないだろう」
「それは義母たるクリス嬢もそうだと思いやすが」
「ま……ね……」
「甘露甘露」
照ノは酒を嗜む。
「ジルのことは?」
「愛らしい萌えキャラでやすな」
「ジルの慕情をわかってて言ってるのかい?」
「まぁアレだけあからさまであれば誰でも……でやすなぁ」
「容姿は整っているよね」
「アリス嬢がそれを言いやすか」
「違いない」
くっくとアリスが苦笑する。
「ちなみにクリスは?」
「可愛いでやすなぁ」
秒単位の躊躇も無かった。
「即答だね」
「他の答えを知らんでやんす」
「特別扱い?」
「に……なるんでやすかね?」
酒を呑む照ノ。
「小生、これらのヒロインたちならクリス嬢を選びやす故」
「でもクリスはツンは有ってもデレは無いよ?」
「小生、基本的に嫌われてやすからなぁ」
「やっぱり」
「それにクリス嬢は主に操を誓っていやすし」
「強姦すれば?」
「そこまで性欲が暴想することもありやせんなぁ」
「若年寄り」
「年寄りでやすよ」
くっくと今度は照ノが苦笑。




