そは堕天する人の業05
「で? どうするんです?」
「と、言いやすと?」
「御前の件ですよ」
「あー、話し合いとかなんとか」
「です」
コクリ、とクリス。
ちなみに今は夕食中。
教会のダイニングで、ロールパンと牛肉のビール煮込みを食べている最中だ。
「多分威力交渉になりやしょうな」
惚けた様子で、サラリと大事を口にする。
「勝てますか?」
「勝てる」
答えたのはアリスだった。
「その答えの自信は何でやす?」
照ノがジト目。
さもあろうが、
「師匠に勝てる存在なぞいるものか」
薄弱たる根拠だった。
「単純に一本勝負なら、小生よりアリス嬢の方が強いでやすがね」
それもまた真理だ。
「アリスじゃ駄目かい?」
「と、言いやすと?」
「御前の件だよ」
「やめときやっせ」
「何ゆえ?」
「地球と魔術を競ってもしょうがありやせん」
「?」
わからないとアリス。
それは、
「「「?」」」
クリスとトリスとジルも同意見だった。
かといって説明してやるほどの気力を……照ノは持たなかったが。
「土より生まれて土に死ぬ。それが人間でやんす」
「あなたが言いますか……」
切れ目で睨むクリス。
当然『クリスを概燃で若返らせたこと』を訴えているのだが、照ノには通じなかった。
「小生ら二次変換生物には、その理屈が通じやせん」
「?」
「ちょいと頭を働かせれば、わかることでやすがね」
『やれやれ』
照ノは肩をすくめた。
「それよりクリス嬢」
「何ですか?」
「このビール煮は美味しいでやすね」
「ふん! あなたに褒められても嬉しくありません!」
そっぽ向くクリス。
頬が赤らんでるのは、いつもの通り。
「またレパートリーが増えやしたか」
「まぁ年の功と云うことです」
一応、御年八十歳のクリスである。
「教会協会は何も?」
「怒られはしましたが他には何も」
「師匠のおかげだね」
「いやぁ」
鼻先を掻く照ノに、
「そもそも論ですけどね」
クリスは不機嫌に吐き捨てた。
「こうして神の不興を買ったことでやすし……」
「あなたが言いますか!」
仮想聖釘。
ヒョイ。
「これを機に、クリス嬢も無神論者になるでやんすよ」
「太陽神が何か言ってる……」
この皮肉は、輸血パックにストロー突っ込んで吸っているジルだ。
「この偽神!」
「否定はしやせん」
「この悪神!」
「それもでやしょう」
「この邪神!」
「歴史の記述通りでやすな」
どこまでも、あっさりと照ノは惚けた。
やはり、そもそも論になるが今更である。
「神を信じて幸福になるなら誰も苦労なんかしやせんよ。まして聖書は神ではなく人が書いたものでやしょ?」
「殺す!」
ジャキッと仮想聖釘を構えるクリスに、
「ママ?」
トリスが牽制する。
「ぬぐっ」
呻くクリス。
「最愛の娘から嫌われたくない」
との意識から行動が止まる。
「親馬鹿」
ボソリとジルが呟く。
「無神論者に堕ちれば小生が良い事してあげやすよ?」
「誰が邪教徒なんかに……!」
「と言いつつ体を持て余してやすよね? 自慰は良いのに他慰は駄目なのでやんすか? それはちょっと矛盾してやせんか?」
「どこで見ました!?」
驚愕するクリスだった。
当然だが。
自慰行為を覗かれたということは憤死にも値する。
「や、カマをかけただけでやんす」
「……っ!」
ボンッ、とクリスの顔が真っ赤になった。
「やっぱり色欲は威力使徒とて大敵でやんすか」
「そそそ!」
「ラシド?」
「そんなわけないでしょう!」
「説得力って言葉は知ってやすか?」
「この変態!」
「否定はしやせんがね」
食事を終えると、照ノはキセルをくわえてタバコを吸いだした。
紫煙を吸って、ほにゃらと相好を崩すと、フーッと紫煙を吐く。
「ここで一句。乙女持つ、茶摘み花摘み、クリス嬢、その純潔を、散らしたいなり」
仮想聖釘。
ヒョイ。
もはや夫婦漫才とも呼んで良いほどの……何時ものやりとりであった。




